ホームパーティー(3)
ホームパーティーの翌日。途中で寝てしまったせいか、誰よりも早く目が覚めたヤヌアール。
二日酔いか、頭が痛い。
ひとまず水を飲もう、とキッチンへ向かい水を飲んでいると、後ろから声をかけられた。
「おはよう、ヤヌアールちゃん」
「ん、あぁ……おはようございます、おじさん」
声を掛けてきたのはフェストラントだった。
家は歩いて数分とかからない場所にあるが、片付けや朝食も兼ねる事にしているので、シュトラント一家は空き部屋に泊まっているのだ。(ヤヌアール一家がシュトラント宅に泊めてもらう事もある)
彼もまた二日酔いが酷いらしく、頭を抑えながら微笑んでいる。
「久々でハメ外しちゃったかな……話も弾んだし、普段の倍位お酒飲んじゃった」
「大丈夫か?」
「暫くすれば治るでしょ。多分ね」
フェストラントとは何度もこうして話しているが、実を言うとヤヌアールは彼の事がよく分からない。
庭師として各地を転々としながら活動しているからか、ヤヌアール達によく他の国の事を教えてくれる。しかし彼自身の話はあまり聞いた事がないのだ。
シュトラントに聞いても「滅多に怒らない優しい父親」と言う事しか伝わってこなかった。だからこそ、二人きりでの会話は自然と沈黙を迎えてしまう。
「あー……その、……」
「そうだ。ヤヌアールちゃんは彼氏とかいるのかい?」
突然、何の脈絡もなくそう問うてきた。まるで親戚の人のような質問に虚を突かれつつ、いいえ、と首を振る。
「そういった人はいない。そもそも友人が少ないから……」
「そう……じゃあ、気になってる子とかは?」
「えっ……。うーん……」
「息子とかどう?」
「えぇっ、シュウですか……!?」
もしや本当に聞きたかった内容はこれだったのだろうか。
しかしシュトラントは幼馴染で、恋人等の関係になっている所は想像がつかない。
「シュウは……。シュウは強くて、案外しっかりしてるし……顔もいいので、きっと高貴な身分の方とでも結婚出来るかと……。私とは想像もつかないし……。ありかなしかで聞かれても、言葉が出てこない」
「…………そっか」
曖昧な答えだったが、フェストラントはそう微笑んでくれた。恋をした事のないヤヌアールだが、興味がない訳ではない。
もう一杯水を飲んで、放置されっぱなしだったテーブルの上の片付けに取り掛かったのだった。
※※※※※※※※※※
フェストラントは一旦借りた部屋に戻る事にして、キッチンから踵を返して歩き始める。
しかし部屋の扉を開けた瞬間、誰かに思いっ切り耳を引っ張られた。
「いっ、てててててて」
「アンタねぇ……朝っぱらから何してんだい」
こうして耳を引っ張りながら怒りを顕にするのは、フェストラントが知る中でもエーデただ一人だ。
どうやら先程のヤヌアールとの会話を聞いていたらしい。
「だ、だって気になっちゃってさぁ」
「知らないよ。何だい。『実は僕の息子、君の事好きなんだよ〜』とかって言うつもりだったのかい?」
「そこまでは言わないよ……多分」
「多分?」
「絶対言わない」
言質をとった所で耳を解放したエーデは、やれやれと溜息をつきながら腕を組んだ。
「ったく……」
「あはは。まぁ……アインヤールじゃないけど、ちょっとした親心ってやつだよ」
少し、不安だった。
勿論、ヤヌアールの事はよく知っているつもりだし、息子が好意を寄せている女の子の事は信用したい。
しかしそれでも気になってしまうのは親の性というもの。ついつい聞いてしまったのだ。
「気持ちは分からんでもないが……それがきっかけで溝が出来たら嫌なんだよ、私は。シュトラントも結構ビビってるみたいだしね」
「『失敗して今の関係が壊れたらどうしよう』って?」
「あぁ。親に出来る事なんて、我が子が道を違えないように導いてやる事位さね。あの子達も一応は成人している訳だし、どんな風に進めようとあの子達の自由さ」
それだけ言い残して、エーデは煙草を吸ってくる、と部屋を出ようとする。ドアノブに手をかけた彼女に、フェストラントはそのまま語り掛ける。
「エーデさんは優しいね」
「………………。それは、気の所為だよ」
少しだけ声色が、嬉しそうだった。そのまま部屋を出ていってしまったので、表情までは伺えなかったが。
そろそろシュトラントも起こしてやらないとな、とフェストラントは息子の肩を叩いたのだった。




