世界で最も希少な魔法
ナイ:「紹介しよう。カイレンだ」
カイレンはナイの前に立っている。
ナイ:「彼は、基本魔法を持たずに入学した初めての生徒だ」
全員が驚いた様子でカイレンを見る。
突然、明るい少女が立ち上がり、手を上げる。
「こんにちは! 私の名前はアイノ。私の基本魔法は水だよ。仲良くなれたら嬉しいな!」
カイレンは驚く。
「え、あ……うん。よろしく」
カイレンはアリスのほうを見る。
アリスは目を閉じて微笑んでいる。しかし、その周囲に漂う黒いオーラは怒っているように見え、その笑顔もどこか恐ろしい。
カイレンは青ざめる。
「お、おいおい……俺、死ぬんじゃないか?」
ナイ:「あのアイノはとても明るくて、人と関わるのが大好きなんだ。まあ、少々うるさいが」
アイノ:「ちょっと、先生!」
中央の一番前の席から、姿勢の良い静かな男子生徒が立ち上がる。
「こんにちは。僕の名前はイタチ。基本魔法は風です。よろしくお願いします、カイレン」
カイレンはまた驚き、慌てて頭を下げる。
「は、はい。よろしく、イタチ」
ナイ:「彼はこのクラスで最も優秀な生徒だ。イタチは強力な魔法を持ち、学校の規則もきちんと守る。静かで、あまり喋らない。誰かさんとは違ってな」
アイノは怒った表情になる。
「なんで私のことを言ってるように聞こえるんだけど?」
左側に座っていた、赤い髪の傲慢そうな少年が立ち上がる。
「なるほどな。基本魔法を持っていないお前が入学を認められたのは、その魔力の強さのおかげか。なかなか impressive だ。まあ、俺ほどではないがな」
カイレン:「……こいつは何者だ? 何なんだ、こいつは?」
ナイ:「こいつはスズキ。基本魔法は炎だ。自分自身に惚れていて、とても傲慢だ。自分が世界の中心だと思っている」
後ろにいた褐色の肌で青い髪の少年が立ち上がる。
手を開いて上げる。
「よう。俺はリ……たぶん」
カイレンは青ざめる。
「たぶん?」
「基本魔法は氷……いや、雪……じゃなくて、氷だ。たぶん。よろしくな、えーっと……」
「カイレンだ」
「そう、それだ」
「うん。よろしく、リ」
ナイ:「ありがとう、リ。座っていいぞ。こいつはリ。とにかくよく忘れるが、親しみやすい性格をしていて、とても強い。このクラスではほぼ最強だ。きっと気に入るだろう」
とても恥ずかしがり屋の少女が立ち上がる。
両手を握り合わせ、顔を真っ赤にしている。
「……あ……え……えええええ……」
カイレン:「……このクラス、本当にどうなってるんだ?」
「こ、こんにちは……私はハカリです。基本魔法は土です。よろしくお願いします」
ハカリはすぐに座った。
カイレン:「俺もよろしく」
ナイ:「彼女はハカリだ。見ての通り、とても恥ずかしがり屋だ。あまり話しかけないほうがいい。頭が痛くなるぞ」
「……はい」
「さて、これで全員だ。好きな場所に座れ。席はたくさん空いている。ただし、誰の隣に座るかには気をつけろ」
アイノ:「先生! イノスケを忘れてるよ!」
ナイ:「忘れてはいない。だが、あいつは自分から立たなかった。つまり、自分より強い相手とは仲良くする気がないということだ」
イノスケの目が大きく見開かれる。
彼は勢いよく立ち上がった。
「何だと? どうして俺より強いと判断した!?」
「簡単なことだ。お前が話しかけることを拒んだからな」
イノスケは軽く笑い、カイレンを手で指差す。
「よく聞け! 俺はイノスケ! 基本魔法は爆発魔法だ! 俺は世界最強を目指している!」
ナイ:「こいつがイノスケだ。傲慢で、力を求めている。そして、自分より強い者がいると言われるのを何より嫌う。今見た通り、この方法ならこいつを喋らせることができる。さて、これで全員だ。好きな場所に座れ」
「はい!」
アイノ:「ちょっと先生! アリス様がまだ自己紹介してないよ!」
ナイ:「必要ない」
「え? どうして?」
「カイレンはアリス様の専属護衛であり、彼女の従者でもあるからだ」
全員が驚愕する。
アイノ:「えええ!? どうしてそんなことになったの!?」
リ:「それは驚き、驚き……ところで、俺たち何の話をしてたっけ?」
スズキ:「信じられない! 王国の王女の護衛なら、きっと強くて美しいんだろうな。まあ、俺ほどの美しさではないがな!」
イタチは黙ったままだ。
イノスケ:「だから何だ」
ハカリは机の下に頭を隠している。
アイノは誰よりも驚いている。
「アリス様と同い年の護衛がいるなんて、思ってもみなかった!」
ナイはパンパンパンと手を叩く。
「はいはい、静かに! 席についてくれ。すぐに授業を始めるぞ。時間がない」
「はい!」
全員が席につく。
カイレンは急いで席を探すが、どこに座ればいいのかわからない。
アリスが自分の隣を指差す。
「ここ」
カイレンは彼女の声を聞き、少しためらったが、すぐに向かい、アリスの隣に座った。
座っていると、アリスが頭を彼のほうへ近づけ、微笑んでいる。
カイレンは恥ずかしそうに顔を赤くする。
「す、すみません……」
「何?」
「い、いや……何でもない」
ナイ:「よし、それではしっかり聞くように」
アリスは一度頭を戻したが、今度はさらにカイレンへ近づく。
カイレンは教師のほうへ顔を向ける。
ナイ:「さて、それでは最初の授業は基本魔法についてだ」
しばらくして――
ナイ:「知っていると思うが、基本魔法には七つの属性がある」
ナイは黒板に書いていく。
【基本魔法】
1.水
2.炎
3.風
4.植物魔法
5.氷
6.土
7.爆発魔法
「これが基本魔法の七つの属性だ。それぞれ発動方法が異なる」
「例えば水。周囲にある水、大気中の湿気、海の水などを引き寄せることができる。自分の周囲からマナを放出し、『吸引』と呼ばれる性質を発動させる。マナが磁石のように働き、周囲の水を引き寄せるんだ。この性質を持つのは基本魔法の水だけだ」
「次に炎。これは独自の仕組みで発動する。生まれた時から、その人のマナそのものが炎のような性質を持っているんだ。それを外へ取り出すことで、炎を生み出せる」
カイレンはアリスを見る。
「すごい……アリスも、この力を持っているのか?」
「三つ目は風。これは水と似た仕組みで、風を操り、自分のもとへ引き寄せることができる」
「四つ目は植物。これは特殊な魔法だ。自分自身から植物を生み出したり、周囲の植物を成長させたりできる。さらに、自分が生み出した植物を戦闘に使えるほど大きく成長させることも可能だ」
「植物魔法のマナは、植物にとっての土や、非常に強力な栄養のような働きをする。それだけではない。自分のマナ量次第で、大型から小型まで様々な植物の魔獣を作り出し、戦闘用の仲間として使うこともできる」
「五つ目は氷。この魔法では、周囲にある水を操り、氷へ変化させることができる。槍や剣など、好きなものを作ることができる。マナが強ければ、強力な氷の魔獣を作り出したり、自分の武器や投げる物を氷で強化したりすることも可能だ。マナは強力な冷却作用を持っている」
「六つ目は土。自分のマナを外へ放出し、それを地面へ流すことで、周囲の地形を操ることができる」
「そして最後が爆発。これは、この七つの中でも最も珍しい魔法だ」
「現在、この学園にいるのはイノスケだけだ。名前の通り、爆発を起こすことができる。特殊な方法でマナを取り出し、自然界に存在する湿気やマナを集め、それを爆発させる」
「さらに、自分の体液を使うこともできる。体液を外へ出し、それを集めて爆発させるんだ」
「以上が基本魔法のすべてだ」
「何か質問はあるか?」
カイレン:「こんなに強力な魔法が、この世界に存在しているなんて思わなかった。世界は、かなり広いんだな……」
アイノが立ち上がり、手を上げる。
「先生! 先生! 先生! ここ! ここに質問がある!」
ナイ:「どうやら質問はないようだな。それでは次へ進もう」
アイノはゆっくり手を下ろす。
「……先生、どうしたの?」
ナイ:「基本魔法については終わった。次は基本以下の魔法についてだ」
ナイは黒板に『治療』と書く。
「治療魔法。これは一つの属性、薬草だ。薬を作るための魔法で、とても役に立つ。これを極めた者の多くは薬の製造へ進む。薬草や植物を組み合わせることで、様々な薬を作ることができる」
カイレンが手を上げる。
「先生、質問があります」
ナイ:「どうぞ、カイレン」
アイノは驚いたように彼を見る。
カイレン:「今、この学園にこの魔法を持っている人はいますか?」
「もちろんいる。専用のクラスが一つあるほどだ。人数も、ここにいる生徒たちより多い」
「お前が疑問に思ったのも当然だ。確かに、この魔法はあまり強くない。戦闘には向いていない。だから、この魔法を持って生まれた者の多くは、戦士や騎士、冒険者になるか、あるいはこの魔法を捨てて、より強い魔法を求める旅に出る」
「だが、良い面もある。卒業後、薬の仕事や負傷者の治療に関わることで、金を稼ぐことができる」
「ただし、この学園には一つ、例外的な事例がある」
カイレン:「例外的な事例?」
「そうだ。さっき言ったように、この学園には薬草魔法を持つ者だけのクラスが一つある。そして、そのクラスには教師がいる」
「その教師は、帝国と周辺のすべての王国を含めても、初めて薬草魔法による戦闘方法を生み出した魔女だ」
カイレンは驚く。
「どうやって?」
「俺にもその方法はわからない。だが、彼女はそれをさらに極め、限界まで発展させたいと言っている。その時になれば、その方法を公開するそうだ」
「ともかく、これで基本以下の魔法も終わった。次は基本以上の魔法だ」
ナイは黒板に『基本以上の魔法』と書く。
「基本以上の魔法とは、七つの基本魔法それぞれを、極限まで発展させたものだ」
「この学園の役割は、すべての生徒をこの段階まで到達させることにある。卒業時までにこの段階へ到達できなかった者は、二十三歳になった時点で落第となる」
「その場合、もう一年やり直すこともできるし、この学園で学んだ別のことを活かして、他の仕事へ進むこともできる」
アイノ:「ということは、先生。カイレンは、本人が望んでも卒業できないってこと?」
「その通りだ。通常ならな。だが、詳しいことは後で全部説明する」
「さて、上位基本魔法も七つの属性から成り立っている」
1.上位水魔法
2.業火
3.嵐
4.上位植物魔法
5.氷結魔法
6.上位土魔法
7.上位爆発魔法、または一部では『災厄』と呼ばれているもの
「これらが正式な名称だ。だが、普段はそれぞれの通常の呼び方を使っている」
「これはそれぞれの魔法が到達できる最終段階だ。そして卒業後も、卒業生は自分の魔法を研究し、さらに発展させることができる」
「この魔法には五つの段階があり、第五位階から第一位階まで存在する」
「そして、少なくとも第一位階に到達するだけでも、一生を費やすほどの時間が必要だ。およそ百五十年はかかる」
「理論上は不可能とされている。現在の王は、この王国の歴史上最強とされているが、それでも第三位階にしか到達していない」
「この情報はカイレン以外なら全員知っている。だから、くだらない質問はするな」
「さて、最後だ」
「この七つの属性以外にも、別の属性が存在する。これらは非常に珍しい」
「これらは『悪夢』と呼ばれている」
「三つの属性がある」
1.聖魔法――特殊系統
2.闇魔法
3.光魔法
「この三つは、この世界で最も強力な魔法だ。当然、これらにも最終段階が存在する」
「それは――」
「『伝説級』……誰がこんなくだらない名前を付けたのかは知らないが、続けよう」
「そして、その最終段階には三つある」
1.光――光魔法の最終系統
2.影――闇魔法の最終系統だと思うかもしれないが、それは間違いだ。影は闇魔法とは別の魔法だ。そもそも闇魔法には最終段階が存在しない
3.上位聖魔法
カイレンが手を上げる。
「先生。聖魔法が特殊系統というのは、どういう意味ですか?」
ナイ:「聖魔法は三つの系統に分かれているということだ」
「一つ目は治療。詠唱を行い、マナを治癒や再生の力として放出する。非常に強力だ」
「二つ目は戦闘」
「三つ目は強化」
「このうち治療と強化は、もしかしたら聞いたことがあるかもしれない」
「お前たちは知らなかったかもしれないが、聖魔法はもともと治療のためだけのものだった」
「だが、北の王国――聖王国では、これらも聖魔法と呼んでいる。彼らは、神が慈悲として我々に授けたものだと考えているからだ」
「しかし実際には、ただ自分の身体をマナで包むだけで、身体強化が完成する」
「話を戻そう」
「現在、この世界で光魔法を持つ者は一人しかいない」
「この学園の学長、モブだ」
「学長モブは、わずか十年で光魔法を『光』へと進化させることに成功した」
「本来なら、第一位階に到達させるだけでもおよそ三百年が必要だ。だが、彼はわずか十五年でそれを成し遂げた」
「彼は古い伝説と、それまでの常識をすべて覆し、世界史上最強の魔法使いとなった」
「かのノア様さえも超えたんだ」
「現在、彼は世界最強の人物とされている」
「だが、本人は『世界最強』や『王国最強』という称号には興味がない。そのため、その称号を争う大会には参加していない」
「参加したのは王国騎士団長だけだ。彼が現在、『最強』の称号を持っている」
カイレンは驚く。
「ここに世界最強の人物がいるのか……すごいな」
スズキが手を上げる。
「先生」
ナイ:「どうぞ、スズキ」
「現在、『影』を持っている人物はいるんですか?」
ナイはスズキを見る。
「……ああ。いる」
全員が驚く。
アイノが勢いよく立ち上がる。
「本当!? 誰!? 先生は知ってるの?」
イノスケ:「伝説級の属性を持つ奴と戦えるなら、最高だな!」
イタチ:「誰なんですか、先生。知っているんですか?」
リ:「誰だ……えーっと、俺たち何の話をしてたっけ?」
ナイ:「お前たちと同じ年齢の人間だ」
静寂――。
「……カイレンだ」
ナイは静かにカイレンを見つめた。
教室にいた全員が、息を呑む。
アイノも、イノスケも、イタチも、スズキも、リも、ハカリも――誰一人として言葉を発することができなかった。
ただ一人、アリスだけが微笑んでいた。
ナイは淡々と告げる。
「……カイレンだ」
その瞬間、教室の空気が一変した。




