「なぜ、僕だったのか」
とても広く、豪華な王族の部屋。
そこにはカイレンがいた。
彼はテーブルに座っており、その向かいにはアリス王女が座っていた。アリスは頬杖をつきながら、微笑んでカイレンを見つめている。
カイレンは不安そうに口を開いた。
「すみません……」
「どうしたの?」
「少し、聞いてもいいですか?」
「もちろん。どうぞ……」
「どうして、僕を選んだんですか?」
数時間前――
ハリス:
「次は……306番」
カイレンは立ち上がった。
そして前へ進んだ。
一歩ずつ。
一歩ずつ。
ハリスの前まで来ると、黙って立った。
ハリスは統計表に目を通した。
書類の上を視線が滑る。
そして言った。
ハリス:
「よし……君の配置は――」
その時……
小さな声が彼の言葉を遮った。
「――待って!」
ハリスは振り向いた。
声の主はアリス王女だった。
ハリス:
「何でしょう、お嬢様?」
アリスはカイレンを見つめていた。
微笑んでいた。
だが、その微笑みはいつもと違っていた。
穏やかで……
そして冷たい。
彼女は手を上げた。
そして、カイレンをまっすぐに指さした。
「あの子、私がもらうわ!」
カイレンは驚いたように彼女を見る。
ハリス:
「どういうことでしょうか、お嬢様?」
「言葉通りよ」
アリスは国王アーサーを見る。
「お父様、彼を私にいただけますか?」
国王は目を閉じ、俯いた。
そして目を開くと、真剣な表情でアリスを見つめた。
「……よかろう。お前に任せる」
現在――
アリス:
「正直に言うと、理由は自分でも分からないわ。でも、ただあなたが欲しいと思ったの」
カイレンは納得していないような笑みを浮かべた。
「本当に? そういうことですか……はははは」
(人間にとって、僕は何なんだ?)
「でも、僕が具体的に何をすればいいのか知りたいです」
「簡単よ。あなたは私の護衛であり、同時に従者でもある。常に私と一緒にいてもらうわ」
「なるほど……って、待ってください。ずっとですか?」
「ええ、その通り。それともう一つ。私があなたの唯一の友達よ。分かった?」
「唯一の友達? いや、よく分かりません」
「いい? あなたは私と一緒に王立学園へ通うの」
カイレンは慌てて立ち上がった。
「えっ? 王立学園に?」
「ええ……さっき言ったでしょう? あなたはこれからずっと私と一緒にいるの」
カイレンはアリスを見つめ、それから再び椅子に座った。
「分かりました」
「落ち着いたところで、話を戻しましょう。さっき言ったように、私があなたの唯一の友達。つまり、王国内でも王国外でも、他の人と友達になることは禁止よ」
「随分とわがままな話ですが、そもそも僕は友達を作ることに興味がありません」
「わがまま?」
アリスは立ち上がった。
カイレンが彼女を見る。
アリスはカイレンのそばまで歩いてくると、彼の隣に立った。
カイレンは恥ずかしそうに前を向いた。
「どうしたんですか、王女様?」
アリスは静かな声で言った。
「私のことは、アリスと呼んで。カイレン」
カイレンは顔を赤くした。
アリスは彼の耳元に顔を寄せ、囁いた。
「聞いて、カイレン……あなたは……」
「私のものよ」
――
カイレンの目が大きく見開かれた。
翌日――
カイレンは王族風の大きく美しい部屋で眠っていた。
やがて目を覚ます。
ベッドの上で身体を起こし、立ち上がる。
そして、クローゼットの扉を開けた。
中から白を基調とした正式な制服を取り出す。
中央には赤いラインが入っており、ところどころに奇妙な模様が描かれている。
カイレンは素早く制服を着る。
鏡の前に立ち、自分の姿を見る。
そして深く息を吸った。
「……よし」
カイレンはドアへ向かい、扉を開けた。
すると、目の前にアリスが立っていた。
「おはよう、カイレン」
カイレンは驚いた。
「おはようございます。いつからここに?」
「今来たところよ」
「本当ですか?」
カイレンは納得していないような表情を浮かべる。
「その話は置いておきましょう。さあ、行くわよ」
「分かりました、お嬢様……」
こうして、カイレンの新しい人生が始まった。
城の外へ出ると、アリスが先を歩き、その後ろをカイレンがついていく。
二人の前には、一頭の白馬が繋がれた馬車があった。
黒い車体には、ところどころ金色の装飾が施されている。
そのそばには、眼鏡をかけ、片眼鏡をつけた年配の男性が立っていた。
正式な執事服を身にまとい、腰を曲げ、左胸に手を当てる。
「おはようございます、お嬢様」
「おはよう、マサムネさん」
マサムネは顔を上げ、姿勢を正す。
そしてカイレンを見る。
「おはようございます、カイレン」
カイレンは緊張しながら頭を下げた。
「お、おはようございます、マサムネさん」
「そんなに畏まらなくても結構ですよ。私たちはどちらも従者なのですから」
カイレンは顔を上げ、マサムネを見る。
「は、はい……?」
「では、失礼いたします」
マサムネは馬車の扉を開けた。
「どうぞ、お嬢様」
アリスは馬車へ乗り込む前に、マサムネへ軽く頭を下げる。
そしてカイレンも続いて乗り込んだ。
しばらくして――
馬車は街道を進んでいた。
マサムネが御者席で馬車を操り、カイレンとアリスは後部座席に座っている。
カイレン:
「この人は誰なんですか?」
「マサムネのこと?」
「はい、そうです」
「彼は我が家の執事長よ。もう二十年近く城で働いているわ」
「二十年?」
「ええ。元々は騎士だったの。王国騎士団長の座を争えるほど強かったらしいわ。でも、現在の騎士団長であるエインに敗れたの。エインのほうが六歳も若いのに、彼を完膚なきまでに打ち負かしたそうよ」
「……」
「その後、戦うことへの情熱を失って、戦闘から身を引いたの。でも、お父様は彼の実力を認めていたから、王城の近衛隊長にしようとした。でも彼は、もう二度と戦わないと決めていた。だから、代わりに執事になったのよ」
カイレンは驚いた。
「えっ? つまり、騎士団長がもう一人いるんですか?」
「もう一人? ああ、なるほど。あなたが見たのは、あの騎士団長ね。違うわ。あの人は王城の近衛隊長よ。ただ、副隊長が亡くなったから、今は騎士団長の代役を務めているの」
「いろいろ教えてくれましたけど……では、本来の騎士団長はどこにいるんですか?」
「戦いの準備をしているわ」
「戦い? どんな戦いですか?」
「帝国にある四つの王国には、それぞれ王国騎士団長がいるの。彼らは魔術師を除けば、それぞれの王国で最も強い者たちとして知られているわ。そして騎士団長が交代するたびに、四人は互いに戦って、誰が最も強いのかを決めるの」
「……」
「最後に騎士団長が選ばれてから、もう二十年近く経っているでしょう? だから、今回も誰が最も強いのかを決めるために、戦うことになったのよ」
カイレンは驚いた。
「あなた、本当にいろいろ知っているんですね」
「当然でしょう。情報は集めておかないと。ほら、偉大な力にも知恵で勝てるって言うでしょう?」
「よく分かりませんが……なんだか面白そうですね。ところで、彼……マサムネさんは何歳なんですか?」
「今は四十五歳。基本属性の魔法は火だけで、二次属性は持っていないわ。旅に出たり、魔法を学んだりしたことがないから。分類としては元・戦士ね」
「なるほど……」
「ほら、もうすぐ着くわ」
馬車の外――
王国はとても広かった。
市場は人で賑わい、街の端には高層の建物が並んでいる。
貧しい地域では、子供たちが道で遊んでいる。
家々には静けさが漂っていた。
商人、観光客、移民たちが村の門を通って入ってくる。
任務のためにやって来た冒険者や、街を警備する者たちの姿もある。
そして、何より目を引くのは、街の中央にそびえ立つ巨大な時計だった。
やがて――
カイレンとアリスは王立学園へ到着した。
二人は馬車から降りる。
カイレンは一度足元へ視線を落とした。
そして、ゆっくりと顔を上げる。
その瞬間――
目が大きく見開かれた。
王立学園。
そこでは、男女の生徒たちが学園へ入っていく。
門のそばには警備兵が立ち、前庭では教師たちが話をしている。
学園は横にも縦にも非常に大きい。
正面には数え切れないほどの窓が並び、二階建ての白い建物には、いくつもの色彩が施されている。
壁には魔法陣のような模様や、見慣れない文字が描かれていた。
生徒たちは笑い、友人と話しながら歩いていた。
しかし――
アリス王女の姿を見た瞬間、空気が変わった。
誰もが声を落とし、それでも笑顔を浮かべながら彼女を見ている。
アリスは穏やかな笑顔で学園へ向かって歩く。
その後ろをカイレンが歩き、周囲を物珍しそうに見回していた。
「見て、アリス王女が来たわ」
「なんて綺麗なんだ……」
「友達になれたらなぁ」
「何を言ってるんだ、馬鹿。そんなことできるわけないだろ」
カイレン:
「さすが王女様だな……」
アリス:
「さて、カイレン。あなたは先に校長室へ行って。そこで何をすればいいのか説明してもらって、簡単な試験も受けることになるわ。先生たちに部屋の場所を聞けば分かるから。いい?」
「分かりました」
「私は自分の教室へ行くわね」
「はい」
しばらくして――
王立学園、六年一組。
教室は非常に広かった。
横に四席、縦に六席ほどの机が並び、前方には大きな黒板がある。
アリスは右側の最前列の席に座っていた。
そこには、彼女を含めて七人の生徒がいた。
教室の中央、最前列。
一人の男子生徒が姿勢よく座り、真剣な表情で前を見つめている。
白い肌。
緑色の瞳。
その左隣には、赤い髪にところどころ黒が混じった男子生徒がいる。
整った顔立ちで肌は白く、どこか自信過剰そうな雰囲気を漂わせている。
その後ろには、一人の女子生徒が座っていた。
茶色の前髪で顔を隠すようにしている。
白い肌をした美しい少女だが、とても恥ずかしがり屋のようだった。
そこへ一人の男子生徒が近づいてきた。
床に落ちている消しゴムを見つけ、腰をかがめて拾う。
そして少女へ差し出した。
「これ、君の?」
少女は消しゴムを見た。
「あ、あああっ! す、すみません、これは……」
少女は慌てて走り去った。
「これ、私の消しゴムじゃありません!!」
男子生徒は驚いた。
「じゃあ、この消しゴムは誰のなんだ?」
消しゴムを近くで見つめる。
「……え? これ、僕の消しゴムじゃないか。どうして忘れてたんだ?」
その男子生徒は浅黒い肌をしており、髪も瞳も青色だった。
非常に物忘れの多い性格だった。
最後列の左側。
そこには、一人の女子生徒が眠っていた。
黒い髪の毛先には、少しだけ赤みがある。
長いまつ毛と整った顔立ち。
そして透き通るような白い肌。
先ほどの恥ずかしがり屋の少女が、顔を手で隠しながら走ってくる。
「見ないでください!」
その瞬間――
眠っていた少女とぶつかった。
「きゃっ!」
少女は転んだ。
すると、眠っていた少女が立ち上がる。
恥ずかしがり屋の少女は震えながら言った。
「わ、わ、私……ご、ごめんなさい!」
彼女は恐怖で激しく震えていた。
眠っていた少女は彼女を見つめる。
そして、まるで光が差したような明るい笑顔を浮かべた。
「謝らなくていいよ、ハカリ。むしろ大丈夫? 結構強く転んだよね」
「ひ、ひぃ……! だ、大丈夫です!!」
少女は勢いよく走り去った。
残された少女は、彼女をピンク色の瞳で見つめながら首を傾げた。
人付き合いが大好きで、とても明るく、少し騒がしい性格だった。
最後列の右側。
そこには、頬杖をついた一人の少年がいた。
黒く乱れた髪。
茶色の瞳。
先ほどの明るい少女が、彼に向かって笑顔で手を振る。
「おーい、こんにちは、イノスケ!」
少年は彼女を見ることなく、顔を背けた。
「て……」
舌を噛む。
少女は手を下ろした。
「なんなの?」
彼は傲慢な性格で、ただ強さだけを追い求めていた。
その時――
「ドンッ!」
大きな音が教室に響いた。
全員が慌てて自分の席へ戻り、姿勢を正した。
黒板の前には、一人の三十代ほどの男性が立っていた。
彼の名はナイ。
目を大きく見開き、眼鏡をかけている。
「失礼……皆さん、私のことは知っていると思います。知らない人のために自己紹介しておきましょう。私はナイ。この学園の教師です。そして、最近亡くなったモシ先生の代わりに、皆さんの魔法学を担当することになりました」
ナイは続ける。
「皆さんが教科書のどこまで進んでいるか、どこまで授業を受けたかは関係ありません。今日から最初から始めます」
生徒たち:
「え?」
「静かに」
明るい少女:
「でも、先生――」
「これは私が決めたことだ。変更するつもりはない」
少女は頬を膨らませた。
「今日はどうしてみんなこんなのばっかりなの……」
「さて……これで一つ目の話は終わりだ。次の話だが……」
全員が真剣に耳を傾ける。
「この学園に、新しい生徒が一人転入してきた。今日から君たちと同じクラスになる」
「本当?」
「そうだ。そして、この生徒はこの学園で初めて、基本属性を持たないまま入学する生徒でもある」
教室中がざわめいた。
「基本属性がない? どういう意味だ?」
「そもそも、そんなことが許されるのか?」
「すごい……基本属性を持たずに入学できるってことは、相当な量の魔力を持っているに違いない」
「早く見てみたい!」
「よし。それじゃあ、みんなでカイレンを迎えてやってくれ」
アリスは恐ろしいほど嬉しそうに微笑んだ。




