影魔法の試練
ナイ:「影魔法を持つ、世界で唯一の人物……それはカイレンだ」
長い沈黙が流れた……。
ナイ:「……なぜお前たちは驚かないんだ?」
アイノ:「いや、先生……」
スズキ:「カイレンが来る前、影魔法を持つ者は誰もいませんでした。そして、カイレンが来たとき、先生はその特性を持つ人物がいると教えてくれました」
イタチ:「だから、別に驚くことではありません」
ナイ:「……なるほど、そういうことか……」
そのとき、イノスケが勢いよく立ち上がり、笑顔で言った。
イノスケ:「へっ、これはすごい! おい、カイレン! 今日からお前は俺のライバルだ!」
カイレン:「はあ? どうしてこうなったんだ? 面倒くさい……」
ナイ:「だが、あまり喜ぶべきではないぞ」
その言葉に、全員が驚いた。
アイノ:「どういう意味ですか、先生?」
ナイ:「影魔法は、極限まで極めれば、光魔法よりも強いと言われている」
「つまり、カイレンが影魔法を極限まで極めれば、最強の魔法使いであるモブさえも超えることができる。だが、一つだけ大きな障害がある」
「それは……時間だ」
「知ってのとおり、魔法は使えば使うほどマナが増えていく。だから、魔法が極限に達するまでに必要な時間を、人間の寿命を基準にして考えるのだ」
「光魔法が極限に達するには、少なくとも二百年かかると言われている。だが、影魔法の場合は……千年だ!」
カイレンは驚き、勢いよく立ち上がった。
カイレン:「せ、千年!?」
全員が黙り込んだ。
彼らは、この事実をすでに知っていたからだ。
ナイ:「そうだ。極限を目指すのなら、運に頼ったところでどうにもならない」
カイレン:「で、でも、それはさすがに大げさすぎませんか?」
ナイ:「当然だ。何しろ、史上最強の魔法について話しているのだからな」
「それでも、努力を怠るな。光魔法で第一段階に到達したモブを手本にするのもいいだろう」
「あるいは、魔法そのものを研究することだ。もし膨大なマナを持ち、数多くの副次魔法を習得できれば、お前が最強になる可能性もある」
「我々は副次魔法を軽視しているわけではない。基本魔法と比べても、力そのものに違いはないのだからな」
「だが、今の時代、魔法を研究しようとする者は非常に少なくなってしまった。世界には、まだ何千もの魔法が存在しているというのにな……」
再び長い沈黙が流れた……。
ナイ:「さて、ずいぶん長く話してしまったな。今日の授業はこれで終わりだ」
「では、またな……」
そう言い残し、ナイは立ち去った。
その直後、高らかな鐘の音が鳴り響いた。
カーン! カーン! カーン!
アリス:「鐘が鳴ったわ! 昼休みよ!」
アリスは立ち上がり、カイレンの様子を見た。
彼はすっかり落ち込んでいた。
アリス:「ねえ、カイレン……」
カイレンは彼女のほうを振り向いた。
アリス:「心配しないで、カイレン。あなたなら、きっとこの問題を乗り越えられるわ」
「だって、あなたは……」
カイレンの目が大きく見開かれた。
アリス:「私の騎士なんだから」
……
カイレンは微笑んだ。
カイレン:「……そうだな。ここで諦めるわけにはいかない。もっと努力しなきゃな」
アリス:「ふふっ、そうこなくっちゃ。私の騎士なんだから!」
「さて、そろそろ行かなくちゃ。また後でね!」
カイレン:「ああ!」
……
数分後……
カイレンは学校の廊下を歩いていた。
廊下には、たくさんの生徒たちがいた。
カイレン:「この障害を乗り越えるために、もっと努力しなきゃ……」
彼の目には、強い決意が宿っていた。
「アリスを守るために……」
そのとき、時計が午前十時を告げた。
カイレンは顔を上げた。
すると、そこにいた大勢の生徒たちが、忽然と姿を消していた。
カイレン:「……え? みんな、どこへ行ったんだ?」
突然、背後からドアが激しく閉まる音が響いた。
バタンッ!
カイレンは振り返ったが、誰もいなかった。
彼はごくりと唾を飲み込んだ。
前方には、どこまでも続いているかのような、異様に長く静まり返った廊下が広がっていた。
そのとき、遠くから男の声が聞こえてきた。
非常に低く、荒々しく、ひどくノイズの混じった声だった。
???:「掃除の時間だァァァ!」
その声が、少しずつ近づいてくる。
カイレンは目を細めた。
そして、突然……。
彼の目が大きく見開かれた。
廊下の向こう側に、何かが見えた。
いや、何かではない……何者かがいた。
カイレン:「あ、あれは……!?」
それは……ほうきだった。
壁から壁まで廊下を完全に塞いでしまうほど、巨大なほうきだった。
しかも、横から見ると、まるで紙のように薄っぺらな形をしていた。
???:「さあ! 掃け! 掃け! 掃け!」
次の瞬間、巨大なほうきが凄まじい速度でカイレンに向かって突進してきた。
???:「さあ! 掃け! 掃け! 掃け!」
ほうきが、すぐ目の前まで迫ってくる。
カイレンはパニックに陥った。
カイレン:「な、なんなんだよ、こいつはあああ!?」
彼は勢いよく振り返り、全力で走り出した。
しかし、足がもつれて転びそうになる。
カイレンは慌てて両腕を振り回し、なんとか体勢を立て直した。
よろめきながら走り続け、壁にぶつかりそうになりながらも、再びバランスを取り戻す。
ほうきは、すぐ後ろまで迫っていた。
カイレンは一歩、また一歩と必死に走った。
???:「さあ! 掃け! 掃け! 掃け!」
ついに、カイレンは廊下の突き当たりにたどり着いた。
彼は右足を滑らせ、左方向へと体を向けた。
そして、右足で目の前の壁を蹴る。
勢い余って体勢を崩し、今にも転びそうになった。
両腕をばたつかせながらも、なんとか左側の廊下へと飛び込む。
そして、床に倒れ込んだ。
カイレンは前方を見た。
巨大なほうきは、壁の前で止まっていた。
カイレン:「はぁ……助かった……」
彼は安堵の息を吐いた。
その瞬間、前方から声が聞こえた。
巨大なほうきが、ゆっくりとカイレンのほうへ向きを変えたのだ。
???:「掃除の時間だァァァ!」
カイレン:「うわあああっ!?」
彼は慌てて立ち上がり、逃げようとした。
しかし、間に合わなかった。
巨大なほうきが、凄まじい速度で前進し、カイレンを巻き込んだまま引きずっていった。
カイレン:「いやあああああああっ!!」
???:「さあ! 掃け! 掃け! 掃け!」
???:「掃除の時間だァァァ!」
カイレンの視点から見ると、廊下が凄まじい速度で後方へ流れていく。
彼はある場所で立ち止まるかと思えば、今度は前後に激しく揺さぶられた。
???:「さあ! 掃け! 掃け! 掃け!」
ほうきはそのまま進み続け、教室に入っては出て、また別の場所へと移動していく。
カイレンも一緒に引きずられていった。
彼は叫び続けた。
ほうきは食堂へ向かい、さらに教室へと進んでいった。
もちろん、カイレンも一緒だった……。
……
三十分後……
巨大なほうきは、小さな部屋へと入っていった。
そして、ようやくカイレンを解放した。
カイレンは疲れ果てた様子で、教室へと続く廊下を歩いていた。
すでに、ほかの生徒たちは戻ってきていた。
カイレン:「……なんだったんだ、あれは?」
「こんなものが学校にあるなんて、誰も教えてくれなかったぞ……」
「くそっ……もうヘトヘトだ……」
カイレンはゆっくりと、一歩ずつ歩いていった。
そのとき、目の前のドアが開いた。
中から出てきたのは……ナイだった。
ナイはカイレンを見つめた。
ナイ:「おや、こんなところにいたのか。今までどこに行っていた?」
カイレン:「ナイ先生? 何か用ですか?」
ナイ:「ああ。ちょっとこっちへ来い」
ナイは部屋の中へ入っていった。
カイレンも、その後に続いた。
カイレン:「あの……僕に何か用でしょうか?」
ナイ:「カイレン、ドアを閉めてくれ」
カイレン:「わかりました」
バタンッ!
カイレンはドアを閉めた。
部屋の中を見回すと、予想していたよりもずっと広かった。
いくつもの机が並んでおり、ナイはそのうちの一つに腰掛けていた。
カイレン:「ここは……?」
ナイ:「ああ、ここは教師室だ」
カイレン:「すごい……。でも、どうして僕を教師室に呼んだんですか?」
ナイ:「いいか、カイレン。お前も知っているとおり、お前のクラスはエリートクラスと呼ばれている」
「この学院にいる生徒の中でも、特に優秀な者たちが集まっているクラスだ。まあ、性格に問題のある奴らばかりだがな」
カイレン:「ええ、それは知っています」
ナイ:「それはよかった」
「彼らも、エリートクラスに入るために必死に努力してきた。だが、そこへお前がやって来た」
「お前は今日が初日で、まだ普通の生徒にすぎない。それなのに、お前がエリートクラスに入ったことを知った一部の生徒たちが、不満を訴えているんだ」
カイレン:「そ、そんな……!?」
「で、でも……僕はどうすればいいんですか?」
ナイ:「解決策は簡単だ」
カイレン:「簡単? どうすればいいんですか?」
ナイ:「近いうちに、お前たちのクラスで試験が行われる予定だ。その後には、多くの生徒たちが競い合う大会もある」
「試験では合格するだけでなく、お前自身が何らかの成果を残す必要がある」
「そして、大会では一位を獲得し、そこでも成果を示すんだ」
カイレン:「それなら、僕もエリートになれるんですか?」
ナイ:「いや、そんなに簡単な話ではない」
カイレン:「……えっ!?」
彼は一瞬で落胆した。
カイレン:「ど、どういうことですか!?」
ナイ:「いいか、カイレン。試験も大会も難しい。それに、たとえ両方で最高得点を取ったとしても、お前が到達できるのは、せいぜい中級レベルだ」
カイレン:「……先生、僕を落ち込ませるのが上手すぎませんか?」
ナイ:「だが……」
カイレン:「で、でも……?」
ナイ:「私がお前を直接試験することもできる。実は、かなり難しい試験を用意しているんだ」
「過去五年間で、その試験に合格できた生徒は、たった三人しかいない」
カイレン:「な、なんですって!?」
「そ、それを僕に受けろって言うんですか!?」
ナイ:「心配するな。最大十回まで挑戦できる」
カイレンはすぐに答えた。
カイレン:「わかりました。たぶん、挑戦できると思います!」
ナイ:「そうか。それはいいことだ」
(……実に扱いやすい奴だな)
こうして、カイレンの新たな試練が始まろうとしていた。




