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運命の影  作者: AkiraNox


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最後の試験


「逃げろ!」


「早く!」


「止まるな!」


「岩が落ちてくるぞ!」


一人の子供が手を掲げる。


「俺の後ろにいろ!」


目の前に光の円が浮かび上がり、巨大な魔法障壁が展開される。


直後――


ドゴォン!


巨大な岩が障壁に激突した。


しかし、障壁には一瞬で亀裂が走った。


「なにっ!?」


子供が地面に叩きつけられる。


次の瞬間、その場所へ巨大な岩が落下した。


カイレンは凍りついた。


ここは、彼が通ってきた道ではない。


知らないうちに、試験の途中へ入り込んでしまったのだ。


カイレンは素早く周囲を見回す。


前方にはいくつもの道がある。


右。


左。


そして中央には、細い一本道。


だが、そのすべてに子供たちが殺到していた。


「……どの道だ?」


分からない。


その時――


背後から、崩落音が響いた。


カイレンが振り返る。


今まで通ってきた道が崩れ始めていた。


岩が次々と落下し、あっという間に通路を塞いでいく。


カイレンは息を呑んだ。


「……そんな」


前を見る。


そして、後ろを見る。


もう戻ることはできない。


「……なら、進むしかない」


拳を握り締める。


「行くぞ……!」


カイレンは走り出した。


全速力で駆ける。


小さな岩が目の前に落ちてくる。


カイレンは跳び越えた。


直後、頭上から別の岩が落下する。


身体を横へ逸らす。


岩はすぐ横を通り過ぎ、地面へ激突した。


衝撃で身体が震える。


「なんなんだ、この場所……!」


それでも走り続ける。


その途中、一人の子供が倒れているのが見えた。


「助けてくれ!」


子供が手を伸ばす。


カイレンは一瞬だけ足を止めた。


倒れている子供を見る。


そして、次々と落ちてくる岩を見る。


時間がない。


だが――


カイレンは二歩ほど戻り、子供の腕を掴んだ。


「立て!」


「無理だ……!」


「なら、俺が助ける!」


全力で腕を引く。


子供はなんとか立ち上がった。


その瞬間――


「危ない!」


ドゴォン!!


巨大な岩が、二人が立っていた場所へ落下した。


砂埃が一気に舞い上がる。


子供が咳き込む。


「ありがとう……」


だが、カイレンは答えなかった。


ただ、前方を見つめていた。


そこでは、何人もの子供たちが岩の間にある細い通路へと駆け込んでいる。


魔法を使う者。


岩をよじ登る者。


そして、どこへ向かえばいいのかも分からないまま、ただ走る者。


その時――


再び音が響いた。


今度は岩が崩れる音ではない。


山の内部から響く、低く重い音だった。


大地が震える。


全員が一瞬、足を止めた。


「……なんだ?」


カイレンが顔を上げる。


岩壁に、長い亀裂が走り始めていた。


そして――


山の一部が大きく割れる。


大量の岩が一気に崩れ落ちた。


「逃げろ!」


その瞬間、辺りは完全な混乱に包まれた。


子供たちが一斉に走り出す。


悲鳴が響く。


ある者は炎の魔法で目の前の岩を溶かし、別の者は風の魔法で岩を押し退ける。


そして魔法を使えない子供たちは、ただひたすら走るしかなかった。


カイレンも考える暇などなかった。


身体が勝手に動く。


走る。


地面が足元で揺れる。


岩を飛び越え、落下してきた岩の下を身を低くして潜り抜ける。


その瞬間――


ドンッ!


何かが肩に直撃した。


「くっ……!」


カイレンは地面に倒れ込む。


振り返る。


岩の破片が肩に当たったようだ。


肩を押さえる。


激しい痛みが走る。


「……痛がってる場合じゃない」


立ち上がる。


そして再び走り出した。


やがて、ようやく比較的静かな場所へとたどり着く。


カイレンは立ち止まり、激しく息を切らした。


後ろを振り返る。


先ほどまで走っていた場所は、岩と瓦礫に埋め尽くされていた。


先ほど助けた子供の姿は、もう見えない。


「……無事だといいけど」


その時――


「おい!」


近くから声がした。


振り向く。


一人の少年が立っていた。


顔は砂埃で汚れている。


「お前、道を知ってるのか?」


カイレンは首を横に振った。


「……知らない」


「ちくしょう!」


少年は別の方向へ走っていった。


カイレンは一瞬、迷った。


その時、遠くから大量の足音が聞こえてきた。


顔を上げる。


子供たちが一か所に集まり始めている。


「……もしかしたら、あっちに道があるのか?」


カイレンもその集団へ向かって走り出した。


数分後。


広い空間へ出た。


そこからは、三本の橋が伸びていた。


カイレンは立ち止まり、それらを見つめる。


右。


中央。


左。


その光景を見て、カイレンは父親から聞いた言葉を思い出した。


――分かりやすい道ほど、信用するな。


子供たちは我先にと橋へ向かっていた。


その中の一人が叫ぶ。


「早くしろ! この橋が一番近い!」


何人もの子供が中央の橋へ駆け込んでいく。


一歩。


二歩。


三歩。


その瞬間――


橋が揺れた。


「……なんだ?」


足元の石に亀裂が走る。


「うわっ!」


橋の一部が崩れ落ちた。


一人が落ちる。


続いて、もう一人。


さらに三人目。


「うわああああ!」


残った子供たちは悲鳴を上げながら後退した。


カイレンは中央の橋を見つめる。


そして左側の橋へ視線を移した。


何かがおかしい。


橋の下にある岩に、古い痕跡が残っている。


――車輪の跡。


カイレンは近づき、地面へ手をついた。


そこには、比較的新しい擦れた跡が残っていた。


「この橋……」


顔を上げる。


「誰かが使ってる」


カイレンは左の橋へ走った。


一人の子供が目の前に立ちはだかる。


「どこへ行く!?」


「こっちが正しい道だ!」


「どうして分かる!?」


「……分からない!」


そう言い残し、カイレンは橋を渡り始めた。


何人かの子供たちも彼の後を追った。


一方、中央の橋はその直後、大部分が崩れ落ちた。


カイレンは無事に向こう岸へたどり着く。


ほっと息を吐いた。


だが、その安心は長く続かなかった。


前方から、再び崩落音が響いたからだ。


顔を上げる。


道の先は岩で埋め尽くされている。


「……まだ終わってないのか」


カイレンは歩き続けた。


数分。


そして、さらに数十分。


身体の疲労が増していく。


足が痛い。


負傷した肩も痛む。


それでも、止まることはできなかった。


あとどれくらい残っているのかも分からない。


ただ一つだけ分かっている。


――最後までたどり着かなければならない。


そして――


カイレンの目に、何かが映った。


巨大な門。


足を止める。


門は谷の最奥にそびえ立っていた。


「……あれがゴールなのか?」


カイレンは走り出した。


門へ近づくにつれて、妙な違感を覚える。


子供の姿がない。


声も聞こえない。


あまりにも静かだった。


門へたどり着く。


手を伸ばす。


その瞬間――


ガァン!!


巨大な金属音が響いた。


門が目の前で閉じた。


カイレンは凍りつく。


「……何?」


顔を上げる。


山々の間から音が響く。


そして大地が揺れ始めた。


カイレンは素早く後退する。


すると、門の前の地面が大きく裂けた。


巨大な空洞が現れる。


道が完全に消えた。


カイレンは向こう側を見る。


門は、わずか数メートル先にある。


だが、その間には深い谷が口を開けていた。


「……まさか」


その時、上から声が響いた。


「ここまで来れば合格だと思ったか?」


カイレンが顔を上げる。


高く突き出した岩の足場に、ナイが立っていた。


ナイは、裂け目の前に集まった子供たちを見下ろす。


負傷している者。


荒い息を吐いている者。


そして、立っているだけで精一杯の者。


ナイは淡々と言った。


「これが最後の試験だ」


静寂が広がる。


「――最後の落下」


その瞬間、山の一部が次々と崩れ始めた。


岩が谷底へ落ちていく。


そして子供たちの目の前に、巨大な岩が宙吊りになって現れた。


一つ。


二つ。


三つ。


それぞれの間隔は異なっている。


子供の一人が下を覗き込む。


身体が震え始めた。


「……無理だ」


別の子供が呟く。


「この岩を飛び移れっていうのか?」


ナイは答えた。


「そうだ」


「もし落ちたら……?」


ナイは無表情のまま見下ろす。


「死ぬ」


静寂。


そしてナイは続けた。


「戻る道はない」


子供たちは互いに顔を見合わせる。


やるしかない。


一人、また一人と飛び始めた。


一人目が跳ぶ。


最初の岩へ着地。


次の岩へ。


そして三つ目へ。


成功した。


二人目も跳ぶ。


どうにか着地する。


だが――


三人目は着地に失敗した。


「うわああああ!」


その身体が谷底へ消えていく。


子供たちから悲鳴が上がる。


それでも、全員が動き始めた。


恐怖が顔に浮かんでいる。


そんな中――


カイレンは向こう岸までの距離を見つめていた。


そして、目を細める。


自分なら届く。


そう思えた。


父親との訓練を思い出す。


跳躍。


足場。


そして、どれだけ疲れていても岩を飛び越えさせられた日々。


カイレンは小さく呟いた。


「……できる」


膝を曲げる。


深く息を吸う。


そして――


走り出した。


跳ぶ。


身体が谷を越えていく。


風が全身を打つ。


向こう岸が近づいてくる。


「……あと少し!」


足を伸ばす。


そして――


着地。


勢い余って地面を転がり、ようやく止まった。


カイレンは顔を上げる。


たどり着いた。


「……よし」


ゆっくりと立ち上がる。


そして門をくぐった。


その先には、すでに全員が座り込んでいた。


疲れ切っている。


傷口を押さえている者。


地面に横たわっている者。


ナイが顔を上げる。


そしてカイレンを見た。


「最後の一人が来たか」


一瞬の間。


「――八十番」


23の目が大きく見開かれた。


「なに!?」


22が振り返る。


「どうして……あいつがここに?」


56は幽霊でも見たかのようにカイレンを見つめた。


「そんな……」


ゆっくりと立ち上がる。


「どうして生きてるの……?」


カイレンは何も答えなかった。


まだ息が整っていない。


そんな彼を、ナイはじっと見つめていた。


そして、口元に薄い笑みを浮かべる。


「……興味深い」


一人の子供が尋ねる。


「何がですか?」


ナイはカイレンから目を離さずに言った。


「試験が始まってから、今まで……」


視線を固定する。


「いつも最後にたどり着く」


そして、静かに続けた。


「それでも――最も私の興味を引いたのは、こいつだ」


子供たちは、ナイの言葉の意味を理解できなかった。


しかし、誰かが口を開くより先に――


カイレンは聞き慣れた声を聞いた。


「カイレン!」


振り返る。


ミラがこちらへ走ってくる。


カイレンの目の前で立ち止まった。


その瞳には、強い不安が浮かんでいた。


「カイレン! 大丈夫なの!?」


カイレンは彼女を見る。


そして、疲れ切った笑みを浮かべた。


「うん……うん」


息を整える。


「奇跡的に助かったよ」


ミラが俯く。


カイレンは不思議そうに眉を上げた。


「……どうした?」


返事はない。


すると――


ぽたり。


何かが地面に落ちた。


一滴。


そして、もう一滴。


カイレンの目が見開かれる。


それは、ミラの涙だった。


ミラはゆっくりと顔を上げる。


そして震える声で言った。


「……無事で、本当によかった」


そう言って、急いで涙を拭う。


「本当に……よかった」


ミラの涙を見つめながら、カイレンはしばらく何も言えなかった。

やがて、小さく息を吐く。

「……ありがとう、ミラ」

その言葉に、ミラは顔を上げた。

「……うん」

二人はそれ以上、何も言わなかった。

周囲では、疲れ果てた子供たちが静かに休んでいる。

八十人。

ここまで生き残った者たちだった。

しかし――

彼らを待っていたのは、安息ではなかった。

ナイがゆっくりと立ち上がる。

「休め。次の指示があるまで、ここから動くな」

そう言い残し、ナイは奥へと歩いていく。

カイレンはその背中を見つめた。

そして、胸の奥に残る嫌な予感を感じていた。

――これで終わった。

そう思いたかった。

だが、なぜかそうは思えなかった。

この場所で待っているものが何なのか。

カイレンには、まだ知る由もなかった。

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