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運命の影  作者: AkiraNox


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22/31

生還の谷

死の森を抜けたカイレンとミラを待っていたのは、安息ではなかった。


巨大な魔物との死闘。


森で身につけた知識と、二人の連携。


そして、ようやく辿り着いた出口。


しかし、そこで知らされたのは――


この森を生きて抜けた者は、わずか143人だという事実だった。


250人から143人へ。


多くの命が、森の中で消えた。


それでも試験は終わらない。


ナイが告げた次の試験。


その先に待っていたのは、底すら見えない巨大な谷だった。


生き残った者たちに、再び過酷な試練が始まろうとしていた。



――――――――――


数時間後――。


夜が訪れた。


カイレンとミラは、かなりの距離を進んでいた。


幸いなことに――


あれから、別の魔物には遭遇していなかった。


カイレンは巨大な木の根元に座っていた。


その近くでは、ミラが眠っている。


森の夜は、カイレンが知っているどんな夜とも違っていた。


ただ暗いだけではない。


――生きている。


遠くから――


グラアアアアアアアアアアアア!


魔物の咆哮。


そして、別の音。


ゴォォォ……。


風に木々が揺れる。


そして――


カサ……カサ……。


何かが草むらを動いている。


カイレンは薄く目を開けた。


周囲を見る。


何も見えない。


すると――


二人の周囲に、小さな植物がいくつも生えていた。


紫色に光るもの。


青色に光るもの。


その光景は美しかった。


だが――


決して安心できる美しさではなかった。


まるで、森そのものが二人を監視しているかのようだった。


カイレンはミラを見る。


彼女は深く眠っていた。


カイレンは静かに呟く。


「……もう少しだ」


森を見る。


「この試験、前の試験より簡単だな」


そして、続ける。


「たぶん……できるだけ多くを生き残らせるために、こうしてるんだ」


試験開始時のことを思い出す。


「最初にかなり死んだけど……」


そして、目を閉じる。


「明日には終わるだろ」


――――――――――


翌日。


ミラが目を覚ました。


カイレンを見る。


「今日中には、出口に着くはず」


カイレン。


「そう願いたいな」


二人は歩き始めた。


しかし――


森は、簡単には通してくれなかった。


二人は、黒い水が流れる小川を渡らなければならなかった。


水面は不気味なほど静かだった。


ミラ。


「水には触らないで」


カイレン。


「なんで?」


ミラは川岸を指差した。


そこには、小さな骨がいくつも転がっていた。


「何が住んでいるのか分からないから」


二人は倒れた木の幹を渡った。


その先には、紫色のキノコに覆われた場所があった。


ミラ。


「息をあまり吸わないで」


カイレン。


「胞子か?」


「うん」


二人は鼻と口を覆い、急いでその場所を通り抜ける。


その後も、草に隠された崖。


そして、小さな谷に架かる細い天然の橋。


一歩進むたびに、新たな危険が待っていた。


それでも――


数時間後。


ミラが叫ぶ。


「行こう、カイレン!」


そして足を止める。


「着いた!」


カイレンが顔を上げる。


「本当か?」


二人の前では、木々が徐々にまばらになっていた。


走る。


葉をかき分ける。


そして――


突然、広い空間が現れた。


その先には――


森の終点を示す、石造りの地面が広がっていた。


ミラ。


「ここだ!」


彼女が走り出す。


カイレン。


「ま、待て! 急ぐな!」


しかし、ミラはすでに広場へ入っていた。


一歩。


二歩。


そして――


ドォン!


彼女の動きが止まった。


顔を上げる。


目が大きく見開かれる。


その頭上には――


巨大な何かがいた。


巨大な猿。


その身体は、家よりも大きかった。


広場の端に立っている。


そして、その腕を振り上げた。


ミラへ向かって――


拳が振り下ろされる。


「ミラ!」


カイレンが全速力で駆ける。


彼女を掴む。


そして、横へ飛んだ。


ズドォォォン!!


地面が砕け、砂煙が舞い上がる。


カイレンはミラを抱えたまま叫ぶ。


「大丈夫か!?」


「だ、大丈夫!」


カイレンは猿を見る。


猿は地面を激しく叩いていた。


ドン!


ドン!


ドン!


「こいつ……俺たちを通す気がない」


カイレンは走る。


猿は周囲の木々を叩き始めた。


バキィッ!


巨大な木が倒れる。


そして、また一本。


二人は木々の密集した場所へ逃げ込んだ。


身を隠す。


カイレンはミラを下ろした。


息を切らしながら言う。


「長いロープが必要だ」


ミラ。


「何をするつもり?」


「作戦がある」


「でも、どこからロープを持ってくるの?」


ミラは森を見る。


「それは私に任せて」


カイレン。


「……え?」


ミラ。


「私には、そうは見えないかもしれないけど……」


自分の手を見る。


「一年以上、森で暮らしていたから」


「ロープが必要になることも多かった」


カイレン。


「本当に?」


ミラは頷く。


「うん」


彼女は、長くて柔軟な茎を持つ植物を探し始めた。


いくつかの茎を切る。


そして、外側の葉を剥ぎ取った。


長い繊維を細く裂いていく。


何本もの繊維を並べる。


そして、それを撚り合わせる。


三つの束に分けた繊維を、強く編み込んでいく。


一本の部分が完成するたびに――


次の部分としっかり結びつける。


カイレンは、その様子を見ていた。


「……本当に耐えられるのか?」


「ちゃんと作ればね」


ミラは作業を続けた。


指先は素早く動いている。


繊維が皮膚を擦り、傷つけても気にしなかった。


時間が過ぎていく。


十分。


二十分。


そして、三十分近くが経った。


ついに――


ミラはロープを持ち上げた。


「できた」


カイレンは驚いた。


それは、かなり長いロープだった。


「すごい……」


手に取る。


「本当にロープを作ったのか」


ミラはそれを見る。


「森で過ごした時間が……」


一瞬、言葉が止まる。


「当時八歳だった私にとっては、地獄みたいな生活だったけど……」


カイレンの表情が変わった。


彼は黙って彼女を見る。


しかし、ミラは気にしないように続けた。


「その話はいい」


そしてロープを掴む。


「それで? 作戦は?」


カイレン。


「俺がやることを、そのまま真似してくれ」


二人は互いに離れた。


それぞれ広場の端に立ち、ロープの端を握る。


猿は広場の中央に立っていた。


右を見る。


左を見る。


どちらを攻撃すればいいのか分からないらしい。


カイレンは石を拾う。


「この石を投げたら――」


ミラを見る。


「走る」


彼女は頷いた。


カイレンは石を持ち上げる。


そして――


空へ投げた。


カンッ!


石が地面に落ちる。


「今だ!」


二人が同時に走り出した。


走る。


走る。


走る。


二人の足音が地面を激しく叩く。


猿は動かなかった。


そして――


二人に気づく。


両腕を上げた。


二人が近づいてくるのを待っている。


距離が縮まる。


十メートル。


五メートル。


三メートル。


猿が両手を振り上げる。


そして――


ドォォォン!!


両手を激しく打ち合わせた。


爆発的な風圧と砂埃が広がる。


しかし、カイレンとミラは寸前で身を低くしていた。


衝撃が頭上を通り過ぎる。


そして――


二人は跳んだ。


カイレンは猿の片腕へ。


ミラは反対側の腕へ。


カイレンが叫ぶ。


「今だ!」


二人はロープを引いた。


ロープが猿の両腕へ絡みついていく。


カイレンはすでにロープの端を木の幹へ巻きつけていた。


ミラも反対側で同じようにする。


猿が唸る。


「グオオオオオオオオオオオ!」


両腕を引き抜こうとする。


しかし、カイレンはロープを強く引いた。


「離すな!」


ミラ。


「分かってる!」


猿は地面を叩き始めた。


だが――


動けば動くほど、ロープは両腕へ深く絡みついていく。


カイレンは猿の肩へ飛び乗る。


そして、ロープを腕へ巻きつける。


ミラも同じようにする。


二人は巨大な身体の周囲を素早く移動していく。


猿が二人を掴もうとする。


しかし、手が近づくたびに二人は方向を変える。


やがて――


ロープは両腕から肩にまで絡みついていた。


カイレン。


「引け!」


ミラ。


「うん!」


二人は全力でロープを引く。


ギギギギ……!


猿も腕を引っ張る。


そして――


バランスを崩した。


「グオオオオオオ!」


ドォン!!


巨大な身体が地面へ倒れた。


ミラが叫ぶ。


「今!」


二人は出口へ向かって走り出す。


全速力で走る。


石の地面が近づいてくる。


一歩。


二歩。


三歩。


その瞬間――


ブチッ!


猿がロープを引きちぎった。


素早く立ち上がる。


そして二人を追って走り出した。


「カイレン!」


「振り返るな!」


二人は走る。


猿が迫ってくる。


腕を伸ばす。


その指先が、二人の頭まであと数センチ。


近い。


さらに近い。


ミラ。


「もっと速く!」


カイレン。


「これが俺の限界だ!」


猿の手が迫る。


ブンッ!


しかし――


最後の瞬間。


カイレンは石の地面へ足を踏み入れた。


ミラも同時に足を踏み入れる。


猿の拳が二人を捉える寸前――


ドゴォォォォン!!


猿の身体が爆発した。


血が空中へ飛び散る。


カイレンとミラは地面へ倒れ込んだ。


二人とも固まった。


そして、ゆっくりと後ろを見る。


そこには――


猿の身体がバラバラになっていた。


その前に、一人の男が立っていた。


ナイ。


彼はゆっくりと手を下ろす。


そして、冷たく言った。


「参加者がゴールへ到達した後、魔物が彼らを殺すことは許されていません」


カイレンとミラを見る。


「あなたたちが最後です」


カイレン。


「……何?」


ミラ。


「最後……?」


ナイ。


「ええ」


そして森を見る。


「ほとんどの子供たちは、一日目に到着しました」


「魔物が少ないと言ったでしょう?」


ナイは笑う。


「だから、魔物を避けて進めば、あなたたちが思っていたよりずっと簡単に到着できたんですよ」


カイレンは固まった。


そして――


「なああああああああああああ!?」


ナイは気にする様子もない。


「まあ、とにかく……」


一枚の紙を取り出す。


「到達者の数は――」


一瞬、言葉を止める。


「143人」


そして森を見る。


「多くが死にました」


紙を閉じる。


「残る試験は、おそらくあと二つ」


子供たちを見る。


「ですから、よく注意してください」


そう言って、背を向ける。


そして歩き始めた。


カイレンとミラは、その背中を目で追った。


数分後――


ナイが足を止めた。


彼が立っていたのは、巨大な何かの縁だった。


子供たちが近づく。


そして、下を見た瞬間――


全員が凍りついた。


目の前に広がっていたのは――


巨大な谷だった。


底が見えない。


谷の底から、恐ろしい音を立てながら風が吹き上がってくる。


ゴォォォォォォォォォ……。


ナイは崖の端に立ったまま、子供たちを振り返る。


そして――


笑った。


「次の試験は――」


一瞬、沈黙する。


そして告げる。


「救済の谷」


死の森を抜けた先で、カイレンたちはようやく試験の終わりを迎えた。


――そう思っていた。


しかし、待っていたのは新たな試験だった。


目の前に広がる、果ての見えない巨大な谷。


その底から吹き上がる風は、まるで彼らを待ち構えているかのように、不気味な音を響かせていた。


生き残った143人。


その数は、第一の試験が始まった時の半分にも満たない。


それでも――


試験はまだ終わらない。


そしてナイは、静かに次の試験の名を告げる。


「救済の谷」


その名前とは裏腹に――


そこに待っていたのは、さらなる絶望だった。

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