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運命の影  作者: AkiraNox


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18/31

黒霧に潜む恐怖

巨大な迷宮へ閉じ込められた三百六人の子どもたち。


制限時間は八日。


出口へ辿り着かなければ、生きて帰ることはできない。


だが、この迷宮に潜む本当の恐怖は、迷路そのものではなかった。


黒い霧に触れた者を待っているのは――


心の奥底に封じ込めた、最も恐ろしい記憶。


カイレンの前に現れたのは、失ったはずの家族だった。


それは現実なのか。


それとも、心を壊すために仕掛けられた幻なのか。


少年は自らの恐怖と向き合いながら、迷宮の奥へと進んでいく。

ナイは興味なさそうに肩をすくめた。


「信じるかどうかは……好きにしろ。」


そう言って前方を指差す。


その瞬間――


ゴゴゴゴゴ……


大地が激しく揺れた。


巨大な石の門がゆっくりと持ち上がっていく。


岩同士が擦れ合う轟音が広間中に響き渡る。


やがて門は完全に開いた。


その先に広がっていたのは――


果ての見えない巨大な迷宮。


石壁は何十メートルもの高さまでそびえ立ち、


無数の通路が四方八方へと伸びている。


誰もが息を呑んだ。


一人の子どもが震える声で呟く。


「……町より大きい。」


別の子が顔を青くする。


「こんなの……出口なんて見つかるのか?」


ナイは淡々と言った。


「制限時間は八日。」


「出口へ辿り着けば合格。」


「時間切れになれば――」


「出口は閉じる。」


「その後どうなるかは……」


「俺たちの知ったことじゃない。」


口元だけで小さく笑う。


「幸運を。」


そう言い残し、


ナイは踵を返した。


直後――


巨大な石の門が子どもたちの背後で閉じる。


ドォォォォン!!


重い音が響き渡り、


全員が閉じ込められたことを悟った。


沈黙。


302番がため息をつく。


「八日もあるのか。」


「こんなの、ただの大きな迷宮だろ。」


276番が横目で見る。


「ずいぶん自信があるんだな。」


302番は笑みを浮かべた。


「少なくとも、他のみたいに迷ったりはしないさ。」


その頃――


カイレンはすでに皆から離れていた。


一度も後ろを振り返ることなく、


迷宮の入口へ一直線に駆け出す。


歯を食いしばりながら心の中で呟く。


(一刻も早く終わらせる……。)


(こんな場所で時間を無駄にはしない。)


(必ず……復讐してみせる。)


一つの通路へ飛び込んだ。


そこは不気味なほど静かだった。


音はない。


風もない。


響くのは、自分の足音だけ。


コツ……


コツ……


コツ……


数分後。


最初の分かれ道へ辿り着く。


三つの通路。


正面。


左。


右。


カイレンは少し考え、


小さく呟く。


「……左だ。」


そのまま進む。


しばらくして、


また分かれ道。


再び左。


三度目も左。


カイレンはかすかに笑った。


「運がいいみたいだ。」


だが――


数分後、


彼は突然足を止める。


ゆっくりと周囲を見回した。


三つの通路。


壁の亀裂。


割れた石。


地面に残る自分の足跡。


すべてが同じだった。


カイレンの目が見開かれる。


「……なんだ?」


「さっき……ここを通ったはずだ。」


数秒間、その場に立ち尽くし、


やがて軽く額を叩く。


「……馬鹿だな、俺。」


「ずっと左ばかり選んでいた。」


今度は進み方を変える。


正面。


右。


左。


だが、


どの道を選んでも、


行き止まりに突き当たるか、


あるいは以前通った場所へ戻されるだけだった。


時間だけが過ぎていく。


やがて太陽は西へ傾き、


迷宮は夕焼け色に染まり始めた。


カイレンは壁にもたれ、


静かに息を吐く。


そして小さく呟いた。


「一日目……。」


「まだ……終わりがまったく見えない。」翌日――


カイレンはゆっくりと目を開けた。


昨日よりも身体が重い。


喉はひどく渇き、


歩き続けたせいで足には鈍い痛みが残っていた。


小さく息を吐く。


そして立ち上がる。


「……休んでいる時間はない。」


再び歩き始めた。


どの通路も同じ景色。


歩けば歩くほど、


迷宮そのものに嘲笑われているような気がした。


数時間後――


カイレンは突然足を止める。


その先には――


漆黒の霧。


濃密な黒い霧が、微動だにせず行く手を塞いでいた。


まるで闇そのものが壁になったかのようだった。


カイレンは黙って見つめる。


「……これが黒霧か。」


ゆっくりと手を伸ばす。


だが、


途中で止めた。


「……いや。」


「触れない方がいい。」


踵を返し、


別の道へ進む。


しかし――


数分後。


再び足が止まった。


また黒霧があった。


慌てて後ろを振り向く。


すると、


来たはずの道までも黒霧に覆われていた。


カイレンの瞳が見開かれる。


「……そんな。」


「閉じ込められた……?」


一歩後ずさる。


さらにもう一歩。


だが黒霧は音もなく、


ゆっくりとこちらへ迫ってきた。


まるで意思を持つ生き物のように。


カイレンは拳を握り締める。


「くそっ……。」


「もう……他に道はない。」


意を決し、


ゆっくりと霧へ手を伸ばした。


指先が触れた、その瞬間――


世界が消えた。


……


カイレンは目を開く。


そこは、


果てしなく広がる黒い空間だった。


壁はない。


地面も曖昧。


空すら存在しない。


ただ、


終わりのない闇だけが広がっている。


「……ここは?」


警戒しながら歩き始める。


一歩。


また一歩。


その時――


一人の人影が現れた。


金色の髪。


見覚えのある顔。


カイレンの目が大きく見開かれる。


「母さん……!」


全力で駆け出した。


「生きていたんだ……!」


走る。


ただひたすら走る。


そして、


ようやくその人影へ辿り着く。


肩へ手を伸ばした。


「母さん!」


ノルンはゆっくりと顔を上げた。


微笑んでいる。


だが――


その顔は死体のように青白く、


両目は漆黒に染まり、


そこから血がゆっくりと流れ落ちていた。


笑みは異様なほど大きく裂けていく。


両腕を広げ、


優しく囁いた。


「カイレン……。」


「おいで……。」


「お母さんの胸で眠りなさい……。」


「永遠に……。」


カイレンの身体が凍りつく。


全身が震え始めた。


一歩後ずさる。


かすれた声が漏れる。


「……違う。」


叫ぶ。


「お前は……母さんじゃない!!」


踵を返し、


夢中で走り出した。


だがその先には、


一人の男が立っていた。


父――


イルドレイン。


同じ青白い顔。


同じ黒い瞳。


静かに笑う。


「よう、カイレン。」


「元気だったか?」


カイレンは首を激しく振る。


「違う……。」


「違う……!」


「お前たちは本物じゃない!」


再び走り出す。


だが、


どこへ逃げても、


新たな人影が現れる。


村の人々。


子どもたち。


男たち。


女たち。


誰もが死者のような顔をし、


黒い瞳をこちらへ向け、


冷たい笑みを浮かべていた。


そして――


ついに足が止まる。


目の前に立っていたのは、


誰よりも巨大な存在。


侮蔑に満ちた笑み。


破壊神――


セルヴィル。


セルヴィルは口元を歪めた。


「見つけたぞ。」


カイレンは喉が裂けるほど叫ぶ。


「この野郎ォォォ!!」


「殺してやる!!」


「絶対に……お前だけは殺してやるッ!!」


その瞬間――


黒い世界全体に亀裂が走った。


パリンッ――


ガラスのように砕け散る。


カイレンは地面へ倒れたまま目を覚ました。


荒い息を繰り返し、


全身は汗でびっしょり濡れている。


ゆっくりと顔を上げる。


見上げた空には、


夜空の中央で月が静かに輝いていた。


「……何?」


「そんなに長く眠っていたのか……?」


唇を強く噛み締める。


「……進まなきゃ。」ゆっくりと、カイレンは立ち上がった。


体はまだ震えていた。


母の顔を思い出すたびに――


胸を締めつけられるような痛みが走る。


深く息を吸う。


「あれは……幻だ」


「もう二度と騙されない」


彼は再び歩き始めた。


一歩。


また一歩。


迷宮は、先ほどまで以上に静まり返っていた。


だが、その静けさこそが――


不気味だった。


何時間も歩き続けた頃、


カイレンは誰かの視線を感じた。


足を止める。


ゆっくりと振り返る。


……誰もいない。


再び歩き出す。


コツ……


コツ……


コツ……


その時だった。


もう一つの足音が聞こえた。


コツ……


コツ……


コツ……


自分が止まれば、相手も止まる。


歩けば、また歩き出す。


カイレンは勢いよく振り返った。


……やはり、誰もいない。


拳を握り締める。


「ただの幻覚だ……」


そう言い聞かせ、再び前へ進む。


しかし数分後、


通路の奥に黒い影が揺れるのが見えた。


目を向けた瞬間、


影は消える。


だが次の瞬間には、


別の場所に現れる。


時間だけがゆっくりと過ぎていった。


やがて二日が経過した。


カイレンは、もはや時間の感覚さえ失いかけていた。


その時――


彼は突然立ち止まる。


一本の通路の先に、


何かがいた。


……死体だった。


砕けた鎧をまとい、


片腕を失っている。


それでも、


ゆっくりとこちらへ歩いてくる。


その背後から、


さらに別の死体が姿を現した。


腐り果てた顔。


兵士。


女。


子供。


誰もが無言のまま、


カイレンへ向かって歩いてくる。


彼は一歩後ずさった。


だが、その瞬間――


あることを思い出した。


自分の手を見つめる。


「あいつに触れられた時は……


十分くらいしか経っていないと思った」


「でも目を覚ました時には……


十五時間以上も過ぎていた」


ゆっくりと顔を上げる。


「つまり……」


「これも現実じゃない」


「足を止めさせるための幻だ」


静かに息を吐く。


「だったら答えは簡単だ」


「見なければいい」


カイレンは視線を地面へ落とし、


そのまま歩き続けた。


周囲の音は次第に大きくなる。


足音。


うめき声。


遠くから響く笑い声。


それでも、


彼は一度も振り返らなかった。


小さく笑みを浮かべる。


「……ちぇっ」


「父さんみたいな考え方をするようになってきたな」


「これで分かったよ」


「どうして父さんがいつも――」


『お前の頭の回転は、六歳児のものじゃない』


――そう言っていたのか。


それでも、


時間が経つほどに重圧は増していく。


空気はさらに重くなり、


響く声はますます大きくなり、


幻覚の数も増え続けた。


それでもカイレンは――


一度も足を止めることなく、


前へ進み続けた。さらに二日が過ぎた――



二日。


さらに二日。


迷宮に閉じ込められてから、すでに四日が過ぎようとしていた。


それでもカイレンは歩き続けた。


幻に惑わされても。


死者に囲まれても。


心を引き裂く記憶を見せつけられても――


決して足を止めなかった。


だが、残された時間はもう半分もない。


そして迷宮の奥には、


まだ誰も知らない恐怖が待ち受けている。


果たしてカイレンは、八日以内に出口へ辿り着くことができるのか――。

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