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運命の影  作者: AkiraNox


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17/31

黒霧の迷宮

深い森の奥。


そこには、地上から完全に隔絶された巨大な地下施設が存在していた。


そこへ連れてこられたのは、三百六人の孤児たち。


彼らに与えられたのは名前ではなく、ただの番号。


そして告げられたのは――


生き残れるのは、たった八人だけだという残酷な現実だった。


カイレンもまた、その中の一人として運命の場所へ足を踏み入れる。


やがて彼らの前に、最初の試験が姿を現す。


それは、人の心に潜む最も恐ろしいものを映し出す――


《黒霧の迷宮》だった。

少年の慟哭だけが、いつまでも廊下に響き続けていた。三日後――


カイレンは、ようやく立ち上がれるほどまでに回復していた。


傷の大半は塞がっていたものの――


全身に走る痛みだけは、まだ消えていなかった。


勢いよく部屋の扉が開く。


入ってきたのは四人の騎士。


誰一人として口を開かない。


二人の騎士がカイレンへ歩み寄り、その両腕を掴んだ。


カイレンは戸惑ったように問いかける。


「……どこへ連れていくんですか?」


返事はない。


代わりに、冷たい鉄の鎖で両手首を拘束された。


カイレンは顔を上げる。


「何が起きているんです?」


一人の騎士が無表情のまま言い放つ。


「黙れ……さっさと歩け。」


一行は王城を後にした。


何時間も歩き続ける。


進めば進むほど森は深くなり、木々は空を覆い隠していく。


やがて陽の光さえ、ほとんど地面へ届かなくなった。


カイレンは辺りを見回す。


(どこへ連れていくんだ……?)


(どうして俺は縛られている……?)


だが――


誰一人として答えようとはしなかった。


しばらくして、一行は足を止める。


カイレンが顔を上げた瞬間――


目を見開いた。


その先にあったのは――


巨大な石の門。


高さは数十メートルを超え、その表面には見たこともない奇妙な紋様が刻まれていた。


長い年月を経た痕跡が色濃く残り、


まるで何百年も前から存在していたかのような威圧感を放っている。


一人の騎士が門へ近づき、そっと手を置いた。


その瞬間――


ゴゴゴゴゴ……


石が擦れ合う重々しい音が響き渡る。


巨大な門はゆっくりと震えながら開き始めた。


その奥に広がっていたのは――


闇。


ただ、闇だけだった。


やがてカイレンの目に映ったのは、


地下深くへと続く、巨大な階段。


騎士が短く命じる。


「行け。」


背中を強く押される。


カイレンはよろめいた。


「……痛い。」


だが誰も気にも留めない。


一行は階段を降り始めた。


降りれば降りるほど太陽の光は消え、


壁に掛けられた松明だけが周囲を照らしていく。


空気は冷たく、湿っていた。


広い石造りの通路には、


彼らの足音だけが何度も反響する。


カイレンは見上げた。


もう空は見えない。


(ここは……何なんだ……)


(俺に何をするつもりなんだ……?)


数分後――


ようやく階段の最下層へ辿り着く。


そして。


カイレンは再び目を見開いた。


そこには――


想像を遥かに超える巨大な広間が広がっていた。


そして、


そこを埋め尽くすほどの子どもたち。


何百人もの子ども。


泣いている者。


隅で震えながら座り込む者。


黙って床を見つめる者。


その全員の顔に浮かんでいたのは――


恐怖だった。


カイレンは思わず呟く。


「……何だ、ここは。」


「どうして……こんなに子どもがいるんだ?」


その時――


一人の男が小さな木製の板を手に近づいてきた。


男はカイレンを一瞥すると、


服へ金属製の番号札を取り付ける。


そこに刻まれていた数字は――


306


男は無感情に告げた。


「今日からお前は――」


「306番だ。」


「その番号がお前の名前になる。」


そして、


冷たい笑みを浮かべた。


「……生き残れたら、な。」


男はそのまま立ち去る。


カイレンは立ち尽くしたまま、


ゆっくりと周囲を見渡した。


最初に目へ留まったのは――


一人の美しい少女。


整った顔立ち。


だがその瞳は、


凍りついたように冷たかった。


まるで、


ずっと昔に感情というものを失ってしまった人形のように。


胸の番号は――


67。


次に目に入ったのは、


一人の少年。


彼は笑っていた。


異様なほど大きな笑みを浮かべ、


この恐怖に包まれた場所でも、その笑顔だけは一切崩れない。


胸の番号は――


4。


(……どうして笑っている?)


さらに視線を移す。


双子の兄弟だった。


兄は険しい表情を浮かべ、


周囲を絶えず警戒している。


22番。


弟は終始穏やかな笑みを浮かべていた。


23番。


22番が弟の腕を掴む。


「兄弟……ここで何が起きてるんだ?」


23番は優しく肩を叩いた。


「分からないよ。」


「でも心配しなくていい。」


「僕がそばにいる。」


その直後、


カイレンは別の少女に目を向けた。


長い黒髪が顔を完全に覆い、


瞳すら見えない。


56番。


少女はゆっくりと指を持ち上げ、


カイレンの背後を指差した。


カイレンは反射的に振り返る。


そこに立っていたのは――


大柄な男。


鋭い視線で、


まるで最初からカイレンだけを見続けていたかのように睨んでいた。


カイレンの鼓動が速くなる。


しかし男は、


何も言わず背を向け、


その場を去っていった。


近くにいた一人の子どもが小声で呟く。


「……あの人、何なんだ?」


「すごく……怖い。」子どもたちは全員、静かに立ち尽くしていた。


この先、自分たちを待ち受けるものが何なのか――


誰一人として知らない。


小声で囁き合う者。


俯いたまま、一言も発しない者。


その時――


先ほどまで彼らを見つめていた男が前へと歩み出た。


重々しい足音が響く。


一歩、また一歩と近づくたびに、


広間はさらに静まり返っていく。


やがて囁き声さえ完全に消えた。


男は石造りの高い演壇へ上がると、


子どもたち一人ひとりを見渡した。


そして、広間全体に響き渡る声で口を開く。


「ようこそ。」


「俺の名はクラフト。」


名前:クラフト


年齢:32


基本魔法:氷魔法


職業:魔導士


クラフトは子どもたちの表情を見回しながら、


ゆっくりと続けた。


「お前たちをここへ集めた理由は一つ。」


「試験を受けてもらうためだ。」


「そして――」


「その試験で、誰が最も強いのかを決める。」


一人の少年が苛立った様子で手を挙げる。


「なんで俺たちがお前の試験なんか受けなきゃいけないんだ!」


クラフトは無表情のまま少年を見つめた。


そして、


冷たい笑みを浮かべる。


「いい質問だ。」


「言い忘れていたが――」


「この試験は……」


「強制だ。」


その言葉に、


子どもたちの間でざわめきが広がる。


しかしクラフトは、


何も聞こえていないかのように話を続けた。


「お前たちは全員、この王国の子どもだ。」


「そして全員――孤児だ。」


「両親を失った者。」


「家族に捨てられた者。」


冷え切った瞳で全員を見渡す。


「だから――」


「お前たちはこの試験を受ける。」


「望もうが……」


「望むまいがな。」


一人の子どもが叫んだ。


「そんなの理不尽だ!」


クラフトは静かに視線を向ける。


「理不尽?」


「この世界は、その言葉など気にしない。」


少しだけ身体を向け直し、


淡々と言い放つ。


「むしろ喜ぶべきだ。」


「お前たちは祖国のために生きることになる。」


誰も反論できなかった。


重苦しい沈黙が広間を包む。


やがてクラフトは片手を上げた。


「最後に、一つ。」


「生き残るのは――」


「たった八人。」


「三百六人の中から、な。」


一瞬の静寂。


そして次の瞬間――


広間は騒然となった。


「えっ!?」


「そんな馬鹿な!」


「八人だけ!?」


「じゃあ俺たちは……!」


「死ぬってことなのか!?」


泣き出す子ども。


その場に崩れ落ちる子ども。


頭を抱え、震え始める子ども。


そんな中でも、


4番だけは笑っていた。


いや――


その笑みは先ほどよりもさらに大きくなっていた。


67番も、


表情をまったく変えない。


そしてカイレンは――


ただ黙って床を見つめていた。


まるで、


別のことを考えているかのように。


クラフトはそんな彼を一瞬だけ見つめ、


静かに背を向ける。


「以上だ。」


「幸運を祈る。」


そう言い残し、


広間を去っていった。


残された子どもたちは混乱に包まれる。


44番が口を開く。


「何なんだ、あいつ……。」


「試験って、一体何をする気なんだ?」


59番が無理に笑う。


「負けたって……別に大したことないだろ。」


すると298番が冷たく言い放った。


「帰る家なんて、お前にはないだろ。」


その一言で、


再び沈黙が訪れる。


その時――

大きな欠伸をしながら頭を掻き、


気だるそうな表情で前へ出た。


「悪い……。」


「試験の担当をしているナイだ。」


「俺のことをわざわざ覚える必要はない。」


「疲れてるし……長話は嫌いなんだ。」


子どもたちの間に沈黙が流れる。


互いに困惑した表情を見合わせる者。


不安そうにナイを見つめる者。


ナイは後頭部を掻きながら、小さくため息をついた。


「さて……。」


「お前たちの最初の試験は――」


「《黒霧の迷宮》だ。」


数秒の静寂。


そして一斉に声が上がる。


「迷宮?」


「何それ?」


「黒い霧ってどういう意味だ?」


「ただの迷路じゃないのか?」


ナイは片手を上げる。


ざわめきは少しずつ収まっていった。


眠たそうな声で説明を始める。


「迷宮の中には……魔法の霧がある。」


「その霧に触れた者は――」


「自分が最も恐れるものを見ることになる。」


「もし正気を失えば……」


「あるいは一時間以上迷い続ければ……」


「霧に呑まれる。」


「そして二度と姿を見せることはない。」


再び静寂が訪れた。


子どもたちの顔から血の気が引いていく。


唾を飲み込む者。


身体を震わせる者。


302番だけは鼻で笑った。


「そんなわけないだろ。」


「脅してるだけだ。」


別の子どもも頷く。


「そうだよ。」


「本当なら、生きて帰った人なんていないはずだ。」



誰も、この先に何が待っているのかを知らない。


ただ一つ確かなのは――


ここでは、強さだけでは生き残れないということ。


自らの恐怖に呑まれた者は、二度と戻ってこない。


そして今、三百六人の子どもたちは、


逃げることも、拒むことも許されないまま、


最初の試験へと向かおうとしていた。


――黒い霧の向こうで待っているものは、怪物か。


それとも――


自分自身なのか。

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