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運命の影  作者: AkiraNox


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世界の終焉

 世界の終焉


戦場には、まだ剣戟の音が響いていた。


誰もが、自分たちの戦いに勝利することだけを考えていた。


だが――


彼らはまだ知らなかった。


この戦場そのものが、すでに終わりを迎えようとしていることを。


空に走る、巨大な亀裂。


その向こうから現れる、理解を超えた存在。


そして、その存在がこの世界へ向けた視線。


――それは、戦争の始まりではなかった。


すべての終わりを告げる、最初の一歩だった。

兵士

「相手は……男たちです。しかし人数は多く、魔法使いもいます。かなり激しい戦いです……おそらく、この村の住民でしょう。」


クリヴェンは目を細めた。


クリヴェン

「こちらの作戦に気づかれていたか……。」


彼はしばらく黙り込む。


やがて、小さく首を振った。


クリヴェン

「いや……おそらく南方王国が送り込んだのは先遣隊程度だろう。」


「こちらは騎兵隊に加え、王国軍の兵もいる。」


「十分に対処できる。」


彼は後方を振り返る。


クリヴェン

「魔導士隊、準備はいいか?」


魔導士たち

「はっ!」


クリヴェンは小さく息をついた。


クリヴェン

「……残念ながら、今回は高位の魔導士を連れてきていない。支援魔導士だけだ。」


「南方王国まで現れるとは予想していなかったからな。」


彼は剣を高く掲げる。


クリヴェン

「全軍、構え!」


「攻撃陣形――」


「楔形陣(くさびがたじん)を展開!」


騎兵たちは素早く動き始めた。


隊列は鋭い矢じりのような形へと変化し、


その後方へ兵たちが楔状に整列していく。


敵陣を貫くための突撃陣形だった。


全員が槍を前へ突き出し、


手綱を固く握る。


クリヴェンは剣を高々と掲げた。


クリヴェン

「……突撃準備!」


次の瞬間、


その剣を力強く前へ振り下ろす。


クリヴェン

「突撃ッ!!」


騎兵たちは一斉に雄叫びを上げた。


「うおおおおおおおっ!!」


無数の軍馬が一斉に駆け出す。


蹄が大地を激しく打ち鳴らし、


大地を震わせながら、


楔形陣は一直線に戦場へ向かって突撃していった。その時――


ザシュッ!!


ゼニンの剣がエルドレインの胸を切り裂いた。


服が裂け、傷口から鮮血が飛び散る。


ゼニンは口元を吊り上げた。


ゼニン

「どうだ?」


エルドレインは胸の傷を一瞥する。


そして次の瞬間、


素早く剣を振り上げると、そのままゼニンの足元を狙って斬り払った。


ザンッ!!


ガキン!!


ゼニンは寸前で剣を下ろし、その一撃を受け止める。


ゼニン

「残念だが……その程度では俺には通じない。」


一方、その頃――


クリヴェンは戦場を疾風のごとく駆け抜けていた。


ザシュッ!!


一人目が倒れる。


ザシュッ!!


二人目。


ザシュッ!!


三人目。


彼は次々と敵陣を切り裂き、誰にも止められない勢いで突き進んでいく。


その姿を見つけた自由兵の一人が叫んだ。


「この野郎ッ!!」


剣を振り上げ、全力で飛びかかる。


狙いはクリヴェンの脳天。


しかし――


ザシュッ!!


一瞬だけ剣閃が走る。


次の瞬間、


男の首が宙を舞った。


胴体は力なく地面へ崩れ落ちる。


それを見た四人の兵が足を止めた。


だがすぐに、


さらに五人が四方から同時に襲いかかった。


クリヴェンは冷たく笑う。


クリヴェン

「……鬱陶しい。」


彼は片手を掲げた。


クリヴェン

「火魔法――『蒼炎』。」


蒼く輝く魔法陣が目の前に展開される。


次の瞬間――


ゴォォォッ!!


濃密な蒼い炎が激しく噴き出し、


五人の兵士を一瞬で飲み込んだ。


「あああああああっ!!」


断末魔が響く。


だが、それもほんの数秒。


炎が消えた後に残っていたのは、


風にさらわれる黒い灰だけだった。


クリヴェンは静かに腕を下ろす。


そして戦場を見渡した。


その視線は、


ゼニンの姿を捉える。


彼の口元に笑みが浮かんだ。


クリヴェン

「……見つけた。」


彼は一気に駆け出す。


クリヴェン

「お前が敵の指揮官……第二王子ゼニンだな!!」


矢のような速度で突き進み、


立ちはだかる者は一太刀で斬り伏せていく。


そして、


ゼニンの目前まで迫った、その時――


エルドレインが二人の間へ立ちはだかった。


クリヴェンは足を止める。


眉をひそめた。


クリヴェン

「……邪魔だ。」


剣を大きく振りかぶり、


必殺の一撃を放とうとする。


その瞬間、


反対側ではゼニンも剣を構えていた。


エルドレインは、


二本の刃に挟まれる形となる。


彼は二人を静かに見つめ、


ゆっくりと目を閉じた。


――もう誰も殺さないと誓った。


――家族を守る時を除いては。


剣を握る手に力がこもる。


――それに……もう、あの技は使わないと決めていた。


ゆっくりと目を開く。


「……だが、仕方ない。」


彼は静かに剣を掲げた。


エルドレイン

「剣舞――『風』。」その瞬間――


ゼニンとクリヴェンが同時に踏み込んだ。


ザンッ!!


二人の剣が、寸分違わぬタイミングで振り下ろされる。


だが――


エルドレインの姿は、二人の視界から消えていた。


ゼニン

「何……!?」


クリヴェン

「消えただと!?」


一瞬の静寂。


そして――


二人の背後に、エルドレインが立っていた。


彼は静かに剣を鞘へと納める。


シャァァン……


澄んだ音が戦場に響く。


冷たい風が、静かに吹き抜けた。


その一瞬――


何も起こらなかった。


ゼニンはクリヴェンを見る。


クリヴェンもまた、ゼニンへ視線を向ける。


そして――


ズズッ……


二人の身体が、腰の高さでゆっくりとずれ始めた。


次の瞬間、


ドバッ!!


大量の鮮血が噴き上がる。


下半身はなお立ったまま。


上半身だけが力を失い、


地面へと崩れ落ちた。


ドサッ!!


兵士たちの目が大きく見開かれる。


一人は手から武器を落とした。


兵士

「そ……そんな……。」


別の兵士は思わず一歩後ずさる。


「ゼ、ゼニン王子が……!」


一方――


ガイ王国の騎兵たちも息を呑んだ。


騎士

「副隊長……クリヴェン殿……!」


戦場は騒然となる。


剣戟の音さえ、一瞬だけ止んだ。


エルドレインは静かに地面を見つめる。


刀身から滴る血が、


ぽたり、ぽたりと土を濡らしていく。


彼はゆっくりと二つの亡骸へ目を向けた。


その瞳には、悲しみが宿っていた。


エルドレイン(心の中)

「……俺は、ただ家族を守りたかっただけなんだ。」


彼は静かに目を閉じる。


そして再び、


剣を握る手に力を込めた。


――だが。


戦いは、まだ終わらない。


一人の指揮官が叫ぶ。


「止まるな!! 戦えぇぇぇ!!」


その号令とともに、


戦場は再び動き出す。


剣と剣がぶつかり合い、


魔法が四方八方へと放たれる。


名もなき村は、


血と煙に包まれながら、


なおも容赦ない戦火の中へと沈んでいった。一方、その頃――


村の外れにある教会では、


女たち、子どもたち、そして老人たちが身を寄せ合っていた。


教会の中を包んでいたのは、


重苦しい沈黙。


それを破るのは、


すすり泣きと祈りの声だけだった。


幼い子どもたちは母親にしがみつき、


恐怖に震えている。


別の子どもたちは、


外から響く爆発音を聞かないようにと、


両手で耳を塞いでいた。


祭壇の前では、


司祭が両手を組み、静かに祈りを捧げていた。


「どうか……この村と、人々をお守りください。」


カイレンはノルンの隣に座り、不安そうに尋ねる。


カイレン

「お母さん……外では何が起きてるの?」


ノルンは優しく彼の頭を撫でた。


ノルン

「心配しなくていいわ……お父さんが何とかしてくれる。」


カイレンは顔を上げる。


カイレン

「本当に?」


不安を隠しきれない表情のまま、


ノルンは微笑んだ。


ノルン

「ええ……お父さんは強い人だから。」


カイレンは教会の中を見回す。


泣いている子どもたち。


必死に祈り続ける女性たち。


そして――


母親のクレルンの隣で座り込み、


涙を流しているフシハラの姿が目に入った。


カイレンはそっと手を上げる。


カイレン

「フシハ……」


しかし、


言葉は最後まで続かなかった。


彼は静かに手を下ろす。


そして立ち上がった。


ノルン

「カイレン、どこへ行くの?」


カイレン

「窓から外を見てくる。」


ノルン

「だめ!」


だが、その頃にはカイレンはもう窓際へ着いていた。


ゆっくりと窓を開ける。


目の前に広がる村の通りには――


誰一人いなかった。


ただ風だけが、


家々の間で砂埃を舞い上げている。


ノルンは慌てて駆け寄り、


カイレンの肩を掴んだ。


ノルン

「戻りなさい、カイレン。」


しかし、


カイレンは動かなかった。


ただ空を見上げたまま、


ぽつりと呟く。


カイレン

「お母さん……」


ノルン

「どうしたの?」


カイレン

「あれ……空にあるの、何?」


ノルンも空を見上げる。


そして――


その場で凍りついた。


空に、


巨大な亀裂が走っていた。


果てしない長さで天を裂き、


まるで世界そのものが真っ二つに引き裂かれたかのようだった。


ノルンは震える声で呟く。


ノルン

「あ……あれは、一体……?」


カイレンは目を離せなかった。


次の瞬間――


その裂け目の奥から、


漆黒の巨大な両手が姿を現す。


山のように巨大な指。


その両手は裂け目の縁を掴み――


ゆっくりと、


力任せに左右へ引き広げ始めた。


ビリィィィッ……


裂け目はさらに大きく広がっていく。


その奥から、


底知れぬ闇が溢れ出し、


空全体を覆い始めた。その頃――


戦場は、静まり返っていた。


騎士たちも。


兵士たちも。


村の男たちも。


魔法使いたちでさえ詠唱の手を止め、


その場にいた誰もが――


一斉に空を見上げた。


一人の兵士の手から剣が滑り落ちる。


――カラン。


乾いた金属音が響いた。


「……な、なんだ、あれは……?」


別の兵士が一歩後ずさる。


「まさか……地獄、なのか……?」


騎士の一人が息を呑んだ。


「あれは……魔法じゃない……」


イルドレインも巨大な裂け目を見つめていた。


全身を悪寒が駆け抜ける。


(嫌な予感がする……)


無意識に剣を握る手へ力が入る。


(……とてつもなく嫌な予感だ)


裂け目の奥で、


闇がゆっくりと蠢き始めた。


そして――


漆黒の頭部が姿を現す。


髪はない。


顔立ちもない。


あるのは、


純白の瞳と、


内側まで白く染まった巨大な口だけ。


その頭だけで、


村を囲む城壁よりも遥かに巨大だった。


――教会の中。


カイレンは瞬きすらせず、


ただその存在を見つめ続けていた。


やがて、


裂け目から全身が姿を現す。


破壊神――


セルヴィル。


セルヴィルはゆっくりと地上を見渡した。


軍勢を越え、


村を越え、


そして――


その視線は、


カイレンの上で止まる。


視線が交わる。


その瞬間、


セルヴィルの口元が大きく吊り上がった。


見る者すべてを凍りつかせるような、


おぞましい笑み。


「――見つけたぞ」


低く響く声が世界を震わせる。


セルヴィルはゆっくりと右手を持ち上げた。


そして、


指を軽く鳴らす。


――パチン。


世界から、


音が消えた。


まるで、


この世そのものが息を止めたかのような静寂。


次の瞬間――


――――ゴォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!


世界が崩壊した。


眩い白い閃光が、


天と地を一瞬で飲み込む。


家々は崩れる間もなく塵となり、


森は跡形もなく蒸発した。


大地は凄まじい轟音とともに裂け、


巨大な岩盤は宙へ舞い上がったかと思えば、


灰となって消え去る。


剣も。


槍も。


鎧も。


すべてが熱に溶かされ、


戦っていた兵士も騎士も、


まるで最初から存在しなかったかのように消滅した。


近くにそびえていた山々さえ、


根元から吹き飛ばされる。


破壊の衝撃波は凄まじい速度で広がり、


行く手にあるすべてを容赦なく飲み込んでいく。


空気そのものが引き裂かれ、


雲は四散し、


天空は激しく震えた。


そして――


ほんの一秒にも満たない時間で、


白い光は世界のすべてを覆い尽くした。


その場所には、


もう――


生き残った者は、


誰一人として存在しなかった。


 世界の終焉


――すべてが、消えた。


村も。


森も。


山も。


そして、そこで生きていた人々も。


ほんの一瞬前まで響いていた剣戟も、叫び声も、祈りの声も――もう聞こえない。


そこに残されたのは、何もない大地だけだった。


誰一人として、生き残ってはいない。


そう――


ただ一人を除いて。


破壊の光に飲み込まれた世界の中で、


カイレンだけが、静かに立っていた。


その瞳に宿るものを、


まだ誰も知らない。


――これは、終わりではなかった。


すべてを失った少年の物語は、


ここから始まる。

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