破壊神、降臨
戦場は、すでに誰にも止められない殺戮の場と化していた。
村を守るエルドレイン。
南方王国の第二王子ゼニン。
そして東方王国ガイの騎兵隊。
三つの勢力が激突する中、エルドレインは二人の強者を相手に、封じていた剣技を再び解き放つ。
だが――
それは、この戦いの終わりではなかった。
教会に避難していたカイレンが空を見上げた時、世界そのものに異変が起こり始める。
天を裂く、巨大な亀裂。
その向こうから現れたのは――
世界のすべてを滅ぼす、破壊神だった。
淡い光を放ち始めた。
そして――
軍は前進を開始する。
一歩……
また一歩……
さらに一歩……
盾が擦れ合う重い音が戦場に響く。
その反対の手には、
剣と槍がいつでも振るえるよう構えられていた。
……
村の中では、
男たちがその陣形を見つめていた。
一人が震える声で呟く。
「あれが……予備戦力の陣形だというのか……?」
別の男は剣を強く握り締めた。
「くそっ……。」
「どうせ俺たちは死ぬ。」
「もう一方の王国がいる以上、逃げることもできない。」
彼は自嘲するように笑う。
「ならせめて……」
「誇りを持って死のうじゃないか。」
次の瞬間――
男は叫びながら敵陣へ飛び出した。
「うおおおおおおっ!!」
「ま、待て!!」
誰かが止めようとした、その瞬間――
ヒュッ――
一本の矢が一直線に飛び、
男の額を貫いた。
叫び声は途中で途切れる。
男の身体は力なく地面へ崩れ落ちた。
血がゆっくりと土を染めていく。
その光景を見た一人の男は、
身体を震わせ――
その場で吐き戻した。
別の男は盾を強く握り締める。
「無駄死にはさせるな!」
「盾を構えろ!」
「魔導士は援護しろ!」
エルドレインは剣を掲げ、
その切っ先を敵軍へ向けた。
「それがお前たちの覚悟なら――」
剣を高く振り上げる。
「総員――」
「突撃ィィィッ!!」
大地が震えた。
村の男たちは一斉に雄叫びを上げる。
「うおおおおおおおおおっ!!」
そして――
村の男たちは持てるすべてを懸け、
南の王国軍へ向かって突撃した。村の男たちは、剣や槍、盾を手に全力で駆け出した。
その後方では――
魔導士たちが次々と呪文を詠唱していた。
足元に魔法陣が浮かび上がり、
マナが前線の戦士たちへと流れ込んでいく。
彼らの速度はさらに増し、
力も大きく高まった。
踏みしめるたび、大地が重く震える。
一方――
南の王国軍では、弓兵たちが一斉に弓を構えていた。
隊長が叫ぶ。
「放て!」
ヒュンッ!
ヒュンッ!
ヒュンッ!
数十本の矢が一斉に放たれる。
最初の一本が村人の頭部を貫いた。
男はその場で崩れ落ちる。
二本目は別の男の脚を射抜いた。
「ぐああああっ!!」
男は体勢を崩し、地面へ倒れ込む。
さらに矢が降り注ぐ。
続けざまに五人の村人が倒れた。
それでも――
誰一人として立ち止まらなかった。
全員が前だけを見て走り続ける。
先頭を駆けるのはエルドレイン。
その時――
背後から弱々しい声が聞こえた。
「た……助けてくれ……」
エルドレインは横目で振り返る。
村人の一人が腹に矢を受け、
血を流しながら倒れていた。
エルドレインの足が一瞬止まる。
彼は静かに目を閉じた。
「……すまない」
そう呟くと、
再び前へ走り出した。
数秒後――
村人たちは盾の壁へ到達する。
一人の男が叫びながら飛び上がった。
「もらったぁぁっ!!」
突き――!
槍が兵士の喉を貫く。
兵士はその場に倒れ伏した。
しかし次の瞬間――
ヒュッ!
炎をまとった一本の矢が、
村人の片目を貫いた。
「ああああっ!!」
「目がっ!!」
「俺の目がぁぁぁっ!!」
男は狂ったようにもがき苦しみ、
やがて力尽きて倒れた。
エルドレインは最前列へ到達する。
剣を大きく振りかぶる。
ガァァン!!
渾身の一撃が盾へ叩き込まれた。
盾に亀裂が走る。
そして――
粉々に砕け散った。
エルドレインは生まれた隙間へ一気に踏み込む。
兵士が目を見開く。
「ば……馬鹿な!」
その背後から二人の兵士が同時に斬りかかった。
エルドレインは素早く身を低くする。
そして――
ザシュッ!
一人を斬り伏せる。
その勢いのまま身体を反転させ、
ザシュッ!
もう一人も斬り倒した。
彼は止まらない。
立ちはだかる者は、
誰であろうと次々と地へ倒れていく。
戦場の至るところで――
戦いは完全な乱戦へと変わっていた。
鉄と鉄が激しくぶつかり合い、
鮮血が宙を舞う。
悲鳴と怒号が四方から響き渡る。
一人の村人が大斧を振り上げた。
「うおおおおっ!!」
渾身の一撃が兵士へ振り下ろされる。
首が胴体から切り離され、
宙を舞った。
男は切り落とした首を高く掲げ、
高笑いする。
「はははっ! 勝ったのは――」
ドスッ。
声が止まった。
一本の剣が、
彼の胸を貫いていた。
握っていた首が地面へ転がり落ちる。
そして――
男自身も、その後を追うように崩れ落ちた。
村人たちと南の王国軍は、
互いに一歩も引かず、容赦なく刃を交え続ける。
もはや戦場では、
勝利の雄叫びと断末魔の叫びを聞き分けられる者は誰もいなかった。そして、南方王国軍の後方――。
戦場を静かに見つめる一人の男がいた。
第二王子・ゼニンである。
彼はわずかに口元を緩めると、静かに命じた。
「自由兵を前へ。」
その一言に、自由兵たちは互いに視線を交わした。
やがて、一人が獰猛な笑みを浮かべる。
「ははは……ようやく俺たちの出番か。」
別の男は剣を肩の上で軽く回しながら笑った。
「早く誰かを斬りたくて仕方ねぇ。」
さらにもう一人が拳を握りしめる。
「先に全部片付けるなよ。俺の獲物も残しておけ。」
次の瞬間――
「うおおおおおおおっ!!」
自由兵たちは一斉に駆け出した。
その速度は、正規兵をはるかに凌いでいた。
先頭の男が村人の一人へ突っ込む。
ザンッ!!
一閃。
盾ごと身体を真っ二つに切り裂いた。
続いて二人目。
槍を一直線に突き出す。
ドスッ!!
穂先は胸を貫き、村人は血を吐きながら崩れ落ちた。
三人目は身体をひねり、そのまま剣を大きく薙ぎ払う。
ザシュッ!!
二人の村人が同時に斬り倒される。
村人たちは一歩、また一歩と後退していく。
それでも、誰一人として戦うことを諦めなかった。
一人の男が叫ぶ。
「下がるなぁ!!」
自由兵へと飛びかかる。
剣と剣が激しくぶつかり合う。
ガキン!!
ガキン!!
ガキン!!
しかし自由兵は、ほんのわずかな隙を見逃さなかった。
ザッ!!
刃が男の肩を深く切り裂く。
それでも男は怯まない。
全身で体当たりを浴びせ、自由兵を地面へ叩き倒した。
そして腰の短剣を抜き放つ。
ドスッ!!
短剣は喉元へ深々と突き刺さり、自由兵はその場で絶命した。
一方、別の場所では――
三人の村人が、一人の自由兵を取り囲んでいた。
一人が正面から。
一人が右側から。
そしてもう一人が背後から襲いかかる。
自由兵は薄く笑った。
後方へ飛び退き、その勢いのまま身体を回転させる。
ザシュッ!!
ザシュッ!!
正面と右側の二人が斬られ、血を撒き散らしながら倒れる。
残る一人は剣を両手で握り締め、渾身の力で振り下ろした。
ガァン!!
衝撃に自由兵は数歩後退する。
だが、体勢を立て直すより早く――
四人目の村人が飛び込んできた。
ドスッ!!
槍が腹を貫く。
自由兵は目を見開いたまま、その場に崩れ落ちた。
戦場の混乱は、さらに激しさを増していく。
大地は無数の屍で埋め尽くされ、
土は流れた血によって泥へと変わっていた。
鉄と血、そして煙の臭いが空気を満たしている。
その惨劇の中心で――
エルドレインは止まることなく敵陣を切り裂いていた。
立ちはだかる者は、
誰一人として生き残れない。
一閃――
一人が倒れる。
一歩進み――
また一人が命を落とす。
迫る槍を真っ二つに斬り裂き、
その持ち主ごと斬り伏せる。
さらに前へ。
さらに奥へ。
そしてついに――
エルドレインは第二王子ゼニンの前へとたどり着いた。
二人は足を止める。
戦場の喧騒の中、
互いの視線だけが静かに交錯した。ゼニン王子は小さく微笑んだ。
そして静かに馬から降りる。
コツッ。
その足が大地に触れた。
彼は剣を一度だけ軽く振るい、その切っ先をエルドレインへ向ける。
ゼニン
「お前が奴らのリーダーだな。戦う姿は見させてもらった……実に見事だった。ぜひ、この手で相手をしてみたい。」
エルドレインは剣を強く握り締めた。
エルドレイン
「無駄口はいい……さっさとかかってこい。」
ゼニンは笑みを浮かべる。
ゼニン
「随分と冷たい男だな。」
エルドレインは静かに腰を落とした。
――早く決着をつけなければ……。
――でなければ、ガイ王国の軍まで村に到着してしまう。
ゼニンは剣を構え、口元を吊り上げる。
ゼニン
「全力で来い!」
次の瞬間――
ドッ!!
エルドレインの姿がその場から消えた。
ゼニンの目が大きく見開かれる。
ゼニン
「速い……!」
気づけば、エルドレインは目の前まで踏み込んでいた。
ザンッ!!
ゼニンは寸前で剣を差し込む。
ガキィィン!!
激しい衝撃が地面を揺らし、二人の足元から土煙が舞い上がる。
ゼニンは数メートル後方へと滑らされた。
だが、体勢を立て直す間もない。
エルドレインはすでに再び距離を詰めていた。
剣を振り下ろす。
ザンッ!!
ガキン!!
火花が激しく散る。
ゼニンは笑った。
ゼニン
「なるほど……戦いながら話す気はないというわけか。」
エルドレイン
「戦っている最中に喋るのは好きじゃない。」
ゼニンの笑みがさらに深まる。
ゼニン
「なら、剣で語り合おうじゃないか。」
彼は雄叫びを上げた。
ゼニン
「うおおおおっ!!」
その瞬間――
凄まじい連撃が放たれる。
ザンッ!!
ガキン!!
ザンッ!!
ガキン!!
ザンッ!!
ガキン!!
ザンッ!!
ガキン!!
ザンッ!!
ガキン!!
あまりの速さに、剣筋は残像となって視界を埋め尽くした。
エルドレインは微動だにせず、その剣を見極める。
――こんな剣技を使うとは……。
彼は剣を握る手に力を込めた。
――ならば……こちらも応えるまで。
次の瞬間、
エルドレインもまた一気に踏み込む。
ザンッ!!
ザンッ!!
ザンッ!!
ザンッ!!
二人の剣が幾重にも交錯する。
ガキィン!!
ガキィン!!
ガキィン!!
ガキィン!!
火花は四方八方へ飛び散り、
足元の大地は衝撃に耐えきれずひび割れていく。
激突のたびに空気までもが震えた。
近くで戦っていた兵士たちでさえ、一瞬だけ戦いの手を止め、その壮絶な一騎打ちへと目を奪われる。
もはや誰にも判別できなかった。
どちらが攻め、
どちらが守っているのか。
ただ――
鋼の閃きだけが戦場を駆け抜け、
絶え間ない激突音だけが、戦場全体へと轟いていた。その頃――
東方王国ガイの軍勢が、名もなき村の外れへと到着していた。
騎兵たちは一斉に馬を止める。
周囲を見回した一人の騎士が口を開いた。
騎士
「……誰もいない。」
別の騎士は静かに目を閉じる。
そして、ゆっくりと息を吐いた。
騎士
「大勢の人間の魔力を感じる……あちらの方角だ。」
隊列の先頭には、騎兵隊副隊長が立っていた。
名前:クリヴェン
年齢:28歳
基本魔法:音魔法、一部の習得魔法
分類:戦士
クリヴェンは、騎士が示した方向へ視線を向ける。
クリヴェン
「放っておけ。おそらく村人たちだ。奴らは生け捕りにしろという命令を受けている。」
その時――
一人の兵士が望遠鏡を構えた。
兵士
「……あれは。」
クリヴェンが振り向く。
クリヴェン
「どうした?」
兵士の目が大きく見開かれる。
兵士
「……南方王国アートの旗です!」
騎兵たち
「何だと!?」
兵士
「しかも……戦闘が始まっています!」
クリヴェン
「戦闘だと? 誰と戦っている?」
兵士は望遠鏡を覗いたまま答える。
破壊神セルヴィルが指を鳴らした瞬間――
世界から、すべての音が消えた。
そして次の瞬間、
白い閃光が大地を覆い尽くす。
村も。
森も。
軍勢も。
山々さえも。
あらゆるものが、跡形もなく消滅していく。
平和だった名もなき村は、一瞬にして地図から消えた。
そこに残されたのは――
静寂と、果てしない荒野だけだった。
しかし、この日。
世界を滅ぼしたはずの破壊神が、ただ一人だけ見つめていた存在があった。
――カイレン。
彼の運命は、ここから大きく動き始める。




