第30話:"Identity"
夕方になり、平原の熱気がようやく落ち着き始めていた。
夕日が草原全体をオレンジがかった赤に染め上げ、風には干し草と土の匂いが混じっていた。私たちはその大きな木の下で、手ぶらで半日近く待っていたため、足はすでに少し痺れてきていた。空の色がオレンジがかった赤から濃い紫へと変わろうとする頃、遠くから小さな人影がゆっくりと近づいてきた。彼はいつものように、自分とほぼ同じ大きさのリュックサックを背負っていた。
ニックスは手を振り、いつものように軽快な口調で言った。
「やあ、ごめん、ごめん。お待たせしちゃったね。」
彼は私たちの前に立ち止まり、リュックを下ろすと、中からきちんと折り畳まれた分厚い羊皮紙を二枚取り出し、それぞれ私たちに手渡した。
「ほら、約束したものだ」
それは偽造された身分証だった。
紙の質は普通のものより良く、端もきちんと整えられていた。表面には整った黒い文字で氏名、出身地、職業が記されている。右下には細長い黒い魔法の紋様があり、光る様子はなく、ただ静かに紙面に横たわっている。封印された印のようだった。指先で軽く触れると、ごく微かな魔力の流れを感じたが、光は一切なかった。
身分証にはこう書かれていた。
セレナ:出身地・王都、職業・旅人
アンナ:出身地・王都、職業・旅人
シンプルで、余分な記述は一切なかった。
私は自分の分を懐にしまい、紙面に残るわずかな温度を感じた。
「私が先に試します」私は顔を上げてアンナさんを見た。「アンナさんは城門の外で少し待っていてください」
彼女は頷き、反対はしなかった。
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オークフォードの城門は、薄暮の中で灯火を灯していた。
石造りのアーチの両側に二人の衛兵が立っており、甲冑が灯火を受けて鈍い光を返していた。一人は細長い器具を手にしていた——杖のようにも見えるが杖ではなく、錬金術で作られた探知器だという。前の旅人たちが次々と身分証を渡し、器具の先端が右下の黒い紋様に当てられ、しばらく静止したあと、書類が返され、手を振って通される。
音も光もない。魔法陣が一致していれば、何も起こらない。
一致しなければ、初めて反応が出る。
私の番になったとき、心臓の鼓動は思ったより落ち着いていた。
身分証を差し出す。動作は自然で、呼吸をゆっくりと落とした。衛兵が受け取り、まず紙面を一瞥し、それから器具の先端を黒い紋様に当てた。
時間が引き延ばされたように感じられた。
その器具には依然として模様が刻まれており、振動も光も発しておらず、異常な魔力の波動も一切見られなかった。空気は静まり返り、自分の息遣いさえ聞こえるほどだった。衛兵の指が紙の端で一瞬止まり、何かを確認しているかのように見えた後、身分証を私に返すと、手を上げた。
「通行を許可する」
私は城門をくぐった。
夕暮れ、灯り、石畳、そして城内からかすかに聞こえてくる喧騒と炊煙の匂いが、一斉に流れ込んできた。石畳を踏みしめる足音がはっきりと聞こえた。私を止める者も、私を一瞥する者もいなかった。
成功した。
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城門の外で、アンナとニックスは影の中に並んで立っていた。
彼女が先に口を開いた。声は穏やかで自然だった。
「ありがとう。今回は手間をかけたね」
ニックスはほほえみ、何か言おうとしたその時、彼女は落ち着いてこう続けた。
「ただ、いくつか確認しておきたいことがあるの。」
彼女は振り返り、その小精霊に視線を向けた。彼女の表情はいつものように淡々としており、むしろ少しだらりとしているようだったが、答えるのを急いでいる様子はなかった。
「今、君が使っている行商人の身分は、本物なのか?それとも、やはり偽造したものなのか?」
ニックスの笑顔は一瞬固まったが、すぐにいつもの軽快で狡猾な笑顔に戻った。
「あら、アンナさん、本当にストレートですね。」
「この種の偽造技術は、普通の人には手に入らないものよ」と彼女は、まるで雑談でもしているかのように軽快な口調で続けた。「どこで手に入れたの? なぜ、私たちがそれを必要としている時に限って現れたの? それに……今、あなたは誰のために働いているの?」
ニックスは両手を挙げ、大げさに降参のポーズをとった。彼女の淡い緑色の髪が、夕暮れの光の中でそよそよと揺れていた。
「そんなこと……商売の秘密ですから。これ以上は言えません。商人として、切り札をいくつか手元に残しておかないと、どうやって商売ができるというのでしょうか?」
予想通りになりました。
アンナはそれ以上問い詰めず、失望の表情も一切見せなかった。まるでそのような答えが返ってくることをあらかじめ予期していたかのように、彼女はただ軽く頷いた。城門の方を見やり、あの銀白色の長い髪が城門内の灯りの向こうへ無事に消えていくのを確認してから、ようやく視線を再びニックスに向けた。
「あなたであれ、あなたの背後にいる人物であれ、どんな目的を抱いていようとも」彼女の口調は相変わらず淡々としていたが、揺るぎない重みがあった。「あの子に手を出すな。何かあったら、私のところに来なさい。」
そう言い終えると、彼女はもう彼を見向きもせず、城門へと向きを変えた。
ニックスはその場に立ち尽くし、口元には依然としてほのかな笑みを浮かべていたが、その笑顔にはどこか深い意味がにじんでいるようだった。
アンナさんは身分証を差し出した。器具が同じように黒い紋様に当てられ、しばらく静止した。何の反応もなかった。衛兵が書類を返し、手を上げた。
彼女は街の中へ足を踏み入れた。
薄暮が完全に降りた。城門が背後でゆっくりと閉じられ、平原とあの小さな妖精の姿を、ともに外へ隔てた。
(第30話 終)




