第22話:旅立ち / The Journey Begins
夜は更け、焚き火の残り火が時折小さく爆ぜる音を立てていた。
私は太い木の幹に寄りかかり、アンナに借りた古いマントを羽織っていたが、眠気は全く訪れなかった。右手はマグリットの魔法杖を固く握りしめ、目は半開きで周囲の暗い森を警戒しながら見回していた。この女性に助けられたとはいえ、まだ完全に信用する気にはなれなかった。
時間がゆっくりと過ぎ、森の中には虫の鳴き声と夜風が木の葉を揺らす音だけが響いていた。私はとうとう我慢できなくなり、小さく声をかけて沈黙を破った。
「……アンナさん。」
焚き火の反対側に座っていたアンナが顔を向けた。火の光が彼女の平凡だが整った顔を照らしていた。彼女は私が話しかけるのを意外に思った様子もなく、穏やかに答えた。
「はい、どうしたんですか?」
私は少し間を置いて、自分を守るために偽名を名乗ることにした。
「私はセレナといいます。昨夜助けていただいてありがとうございます……あなたがいなければ、私は川の中で死んでいたかもしれません。」
アンナは優しく微笑んだ。
「そんなに丁寧に言わなくてもいいわ。誰だって、川辺で倒れている人を見たら助けるでしょう? 今の体調はどう? まだかなり弱っているみたいね。」
私は頷いたが、自分の過去については多くを語らず、逆に聞き返した。
「……アンナさんはどうして一人で旅をしているんですか?」
アンナは枝で火を軽くかき回し、左右の指輪に火の光が反射した。少し考えてから、平坦な声で答えた。
「ただの普通の旅人よ。世界を自分の目で見て回りたいだけ。」
「ところで、ある人を探しているのですが……」
アンナの態度は終始穏やかで、私の過去を無理に聞き出そうとはしなかった。それで私は彼女に対する警戒心を少しだけ緩めた。
しかし、その平穏は長く続かなかった。
突然――
「パキッ。」
東側の暗闇から、細い枝が折れる音が聞こえた。ほぼ同時に、私とアンナは警戒を強めた。
十数体の小柄で醜い影が闇の中から飛び出してきた。緑色の肌、充血した目、鋭い牙、そして錆びた短剣や粗末な棍棒――ゴブリンだ。これは夜間の狩りに出かけたゴブリンの一団だった。
「キキキ! 人間だ! 新鮮な肉! 女の肉!」
先頭のゴブリンが甲高い叫びを上げて仲間と共に突進してきた。
私は心臓が縮み上がり、慌てて魔法杖を握ろうとしたが、体がまだ弱く、動きが明らかに遅かった。
その瞬間、アンナが先んじて動いた。
彼女は瞬時に見慣れない長剣を抜き、灰色の疾風のように戦場に躍り出た。火光の中で剣が冷たい弧を描き、最初に飛びかかってきたゴブリンは剣の峰で胸を強く打たれて吹き飛んだ。二体目、三体目も正確に剣身で弾き飛ばされた。彼女は一切殺さず、相手を戦闘不能にするだけで止めていた。
ゴブリンたちは恐怖と痛みで悲鳴を上げて逃げ散ろうとしたが、アンナの速度は遥かに上回っていた。木々の間を滑るように動き、剣術はまるで計算された舞踏のようだった。一撃一撃が完璧で、敵を制しながらも命は奪わない。
最後にアンナは動きを止め、強烈な気迫を放った。目に見えない圧力が山のように残りのゴブリンたちにのしかかった。
「キィ——!!」
残ったゴブリンたちは完全に肝を潰し、泣き叫びながら森の奥へと逃げ去った。
戦闘はあっという間に終わった。
私はその場に呆然と座り込み、心の中で大きな波が立っていた。この女性の剣術は……一体どれほど強いのだろう。
アンナは剣を鞘に収め、手の埃を払い、私の方を向いて明るい笑顔を浮かべた。
「セレナ、大丈夫? あの小さい連中、うるさかったわね。」
私は深く息を吸い、立ち上がりながら少し震えるが誠実な声で言った。
「……アンナさん。私をしばらく一緒に旅させてください。今、他に行く場所がないんです……できれば、あなたの傍にいさせてほしいです。」
アンナは少し驚いた顔をした後、非常に朗らかで嬉しそうな笑顔を浮かべ、目が弧を描いた。
「はははは! 本当? 嬉しい! 私も一人旅は少し寂しかったのよ! いいわ、一緒に行きましょう! そんなに堅苦しくしなくていいわ。ただの旅の仲間としてね!」
彼女の承諾は予想以上に爽快だった。
私は少し安堵し、続けて言った。
「それと……これからの食事の準備は私がやります。私のささやかなお礼です。」
彼女が以前焼いた炭のようなイノシシの腿を思い出し、思わず付け加えた。
アンナは大笑いして、私の肩を軽く叩いた。
「ぜひお願いするわ! 正直、私の料理は本当にひどいものだから、あなたが作ってくれるなんて大歓迎よ!」
---
翌朝、薄い霧が森の中にゆっくりと漂い、木々の隙間から差し込む朝の最初の光が湿った地面を照らした。
私はアンナの後ろについて、行き先もわからない林道を歩き始めた。彼女の背中は平凡だが力強く、半袖の簡素な便衣が朝風に軽く揺れていた。金茶色の髪が肩から胸のあたりまで自然に流れ、陽光を受けて柔らかく光っている。私は魔法杖と、リリーが残した謎の青い水晶石を強く握りしめ、銀白色の長い髪を風に靡かせた。
彼らの前途は未知であり、運命もまた未知である。
(第22話 終)




