第16話:さようなら 1 / Farewell 1
私は冷たい床にひざまずいたまま、長い間じっとしていた。
この薄暗いオフィスの中で、時間が凍りついたかのようだった。ろうそくの炎が微かに揺らめき、躍動する光と影を落とし、私の銀白の長い髪を淡い金赤色に染め上げていた。私はうつむいていた。涙はとっくに乾ききっていたが、胸の奥底にある、心を引き裂くような空虚感だけが、今もなおひりひりと痛み続けていた。脳裏には、マーガレット修道女の最期の姿、手紙に書かれた震える筆跡の一つひとつ、そして彼女が命を代償にして与えてくれた最後の庇護が、絶えず浮かび上がっていた。
やがて、私はゆっくりと顔を上げた。悲しみの底から、冷たく固い決意の光が浮かび上がる。
……マーガレットを無駄に犠牲にしてはならない。
「マーガレット……私にとって、あなたはいつまでも家族です。あなたは本当に逝ってしまったわけではなく、私の心の中で永遠に生き続けています」
私は夜風にかき消されそうな小さな声で呟いたが、そこにはこれまでにない決然とした響きがあった。そして立ち上がり、手紙を丁寧に畳み直し、服の内側、心臓のすぐ近くにしっかりと張りつけるように収めた——これはマーガレットが残してくれた最後の遺言だ、決して手放せない。魔法杖は右手で固く握りしめ、いつでも対応できるように身につけていた。
もう一刻の猶予もない——教会の者たちがいつ包囲してくるかわからない。今すぐここを離れなければならない。
私は深く息を吸い、ドアに向かった。指先が取っ手に触れようとした瞬間——
廊下の奥から、極めて微かな足音が聞こえてきた。誰かが慎重に近づいている。
……どうやら、逃げ切れそうにない。
心臓が重く沈んだが、私の口元には冷たい笑みが浮かんだ。ならば……むしろ、利用してやろう。
私はわざと二歩後ずさり、足音を少し重くして、古びた木製の床から低くきしむ音を響かせた。続いて、テーブルの端に置かれていた空の陶器のカップをわざと倒した――死のような静寂の中、カップが割れる音は異様に大きく響き、まるで夜の静けさを突き破ろうとするかのような鋭い音となった。
ドアの外の足音が一瞬止まり、すぐにさらに慎重で警戒したものに変わった。
ドアノブがゆっくりと回る。ドアが細く開き、黒い影が探るように顔を覗かせた。窓から斜めに入る月光が床に長く歪んだ影を落とす。
その瞬間——
私は勢いよくドアを押し開け、驚異的な速さで相手に飛びかかった。魔法杖の杖身が相手の後頭部に強く押しつけられ、冷たい石壁に直接押しつけた。杖と壁が擦れる低く鈍い音が響き、私の左手は相手の右肩を力強く掴み、相手の頰が粗い石壁に強く押しつけられ、足がほとんど浮いた。空気は息が詰まるほどの緊張感に満ちていた。
「振り返ったら、まず片腕をなくすことになるわ。」
私の声は冷たく低く、疑いようのない殺意を帯びていた。杖の先端が相手の後頭部にしっかりと押し当てられ、杖の身には淡い魔力の光が浮かび上がり、危険で冷たい青紫色の輝きを放っていた。
相手の体が硬直し、抑えた冷笑が漏れた。
「ふん……この声、セレナか?罪のない人を脅すなんて、さすがお前だな。」
そう言ったのは森シスターだった。彼女は孤児院の副院長で、マーガレットが外出したり不在になったりすると、いつも彼女の代わりに業務をこなしていた。その時、彼女の顔はざらざらした石の壁に強く押し付けられており、その声には怒りと、ほんの少しの驚きが混じっていた。
私は手を緩めず、声は変わらず冷たいままだった。
「一つだけ聞きたい。孤児院の皆さんは今後どうなるの?」
「……まさかお前がそんなことを気にするなんてな。知ったところでどうする?」
「二度は聞かない。」
森修道女はしばらく沈黙してから、答えた。
「教会には教会の都合がある。詳しくは私も知らない……軍に入るのも悪くない選択肢だろう。」
その言葉が終わるやいなや、私は素早く手首を振り、杖に微かな魔力を注ぎ込み、森修道女の後頭部を正確に打ち抜いた。相手の体は瞬時に力を失い、糸が切れた人形のように地面に崩れ落ち、完全に意識を失った。
「しばらくそのまま寝ていなさい。」
私は低く言い、素早く周囲を確認すると、幽霊のように静かに自分の寝室へと戻った。長い廊下には高い窓から月光が斑に落ち、緊張の余韻がまだ空気に残っていた。私はそっとドアを開け、他の子供たちがまだ熟睡しているのを見た。穏やかな寝息が聞こえ、天真爛漫だった。胸が痛んだが、私は長く留まらなかった。
私は素早く、音を立てずに荷物をまとめた——数枚の着替えの服、小さな乾糧の包み、そして少しの日用品。すべてを古いバックパックに詰め込み、マーガレットの魔法杖は常に手に握るか身体に斜めにかけ、いつでも戦える状態にしていた。肌身に収めた手紙は依然として心臓のすぐ近くにあり、その重みをはっきりと感じていた。バックパックを背負い、私はドア口に立って、この何年も自分と共にあった部屋を最後に眺めた。
「さようなら……」
私は心の中でこの場所にそっと告げた。その声は自分にしか聞こえなかった。
孤児院の正門は既に施錠されていた。私は危険を冒さず、一階の裏庭に面した窓へと向かった。私がそっと窓を開けると、冷たい夜風が吹き込み、木の葉のざわめきと遠くの虫の音が聞こえてきた。裏庭は木々の影が濃く、月光が地面に斑な不気味な模様を描いていた。
私が片手で窓枠を押さえ、身を翻そうとしたその瞬間——
「セレナ?」
廊下の奥から、馴染みのある驚いた声が突然響いた。
トビーだった――これまで何度も彼と一緒に街へ買い出しに行った仲間だ。彼は廊下の奥の方に立ち、信じられないという表情を浮かべ、目を大きく見開いていた。どうやら、私が窓から逃げ出そうとした瞬間を、まさに彼の目で目撃したらしい。
(第十六話 終)




