第33話「魔王様は風邪をひきました」
「……ハッ。そういえばフューレ様!」
保健室にいた俺は、大事なことを思いだした。
勇者の対応を、あのおっかねぇロリっ子一人に任せてきちまったんだった!
「レルシさん、ちょっと俺抜けます!」
「あ……、執事さん」
俺は転がるように部屋を出る。
急がねぇと、エルスの奴がフューレに何か吹き込んでいるかもしれない。「俺が本物の勇者で、城の執事は偽物の勇者」なんて言われていたら……俺……
「フューレ様あああああああああ!!」
玉座の前を突っ走り、門へ続く廊下に向かう。
途中ですれ違ったヤミーが、俺に声をかけてきた。
「うわぁ。執事君、走るなよ」
「今それどころじゃないっ!!」
「フューちゃんを捜している感じ? だったらさっき、フューちゃんの部屋で見かけたよ」
「ああそうですか……って、はい?」
俺は耳を疑った。
この料理長、今何て言った?
「えっ、勇者は――じゃなくて、勇者を名乗る不審者は……?」
「……? さぁ、不審者が何かは知らないけど。でも確かにさっき、食事を運んでいる最中に廊下から騒音はしたね」
ヤミーは帽子をかぶりなおし、ロリっ子の部屋がある2階を指さす。
「でもさっき、あそこでルパ君と楽しそうにしていたよ」
「……嘘だろ? エルスは? エルスはどうなって……」
……まさかだけど、殺しちゃったとかないよな?
殺してないよな!? フューレ様!!!
「あ、執事が来た」
「やっほー、エルたん!」
「おいおいおいちょっと待てよ」
ヤミーが言っていた通り、フューレとルパは、呑気に部屋のなかでぬいぐるみを使って遊んでいた。
さっき城にやってきた勇者は? まさかフューレ、あいつを本気で葬った?
「フューレ様、先ほどの不審者は……?」
「なんか勝手に逃げてった」
「……はい? あぁ、そうですか……」
嘘だろ、逃げだしたの勇者?
フューレ様……一体勇者に何をしたというんだ……
まぁ、俺が勇者ではないという事実に気づいてはいないみたいだし。
ひとまず危機を脱したということでいいのか? 焦ったぜ。
「フュ、フューレ様? なんか不審者から変なこと言われませんでした……?」
「なにが?」
「な、なんでもないです。それよりあれ、レルシさんの面倒を見てやってくださいよ」
あんなに酷い熱を持っている人を放っておいたら危険だろ。
そこはフューレが責任持って看病してやれってところだ。
「わかった」
するとフューレは、部屋から出て行った。
珍しくすぐに話を聞いてくれたぜ。さて、俺は休憩してから、家事でも済ましちまおうかな……
「……って、おぉぅ……」
ふと、忘れていた予定を、脳内に呼び覚ましてしまった。
そうじゃん。俺は明後日、デュークやルパたちと一緒に、ブラッドスノーとか言ってたか……? 雪山にのぼらなくちゃいけないんだった。
「ルパ、お前に言ったっけ? 明後日に氷山をのぼりに行くって」
「……ふぇ? 寒い山……嫌だなぁ、面倒くさい」
こいつ、羽を震わせてジト目を向けてきた。
お前のためなんだけどな……。お前が堕天使としての力を取り戻すために行くんだけどな!
「嫌がると、魔王様が怒るかもだぜ。お前が元の堕天使に戻るためなんだから」
「……そうなの!? ボク、強かった前の頃に戻りたい! 行く!」
急に元気出してきやがった。
氷山の頂上に行けば堕天使に戻れるかもしれないと言ったのはルパ自身なのに、自分で言ったことすら覚えていないらしい。
「……とにかく、防寒対策しろだってよ」
「ボクは羽で体を包むから平気!」
「俺だけかよ……」
防寒対策と言っても、服を着こむくらいしかできない。
とりあえず明後日になるまでに、準備を進めておきますか……。
そして、後日。
「ま……魔王様?」
「俺は問題ない。明日には向かうぞ、氷山へ――ゲホッ、ゲホッ」
とんでもない事態が起こった。
そう――
俺たちのデュークが、急に高熱を出したのだ。
理由は単純である。
「ごめんなさい、魔王様……! 私のせいで、ケホッ」
「くしゅん! ……まったく、お前が菌をうつしたからだぞ」
昨日の夜、俺たちが寝た後。
少し体調がよくなっていたレルシは、魔王デュークのもとへ、挨拶に行っていたらしい。
しかし普段から魔力を根こそぎ使っているデュークは、免疫が弱っていた。そのまま風邪の菌をうつされて、熱にうなされているわけだ。
「魔王様でも風邪ひくんですね……」
「うるさい。俺も普通の魔族だ」
俺たちで必死に看病しているが、熱が下がる見込みはない。
これはヤバいな……。どう考えても明日には下がらない。でもこれって、俺にとってチャンスなのでは?
さっむい雪山に行かなくて済むかもしれない!!
「ねね、魔王様。そんな体じゃ無理ですよね? 雪山へ向かうのは延期にしましょう?」
「ぐっ、しかし――」
「明後日も一週間後も変わらないでしょう?」
「……そうだな。ならば延期に――」
うまくいきそうだと思った時に、余計な邪魔が入ることが多い不運な俺。
突然、フローリアさんがデュークの部屋に入ってきた。
「そういえば、3日後から雨が降るって予報を聞いたわよ。降った雪が凍った雪山の地面を歩くのは、危ないんじゃないかしら」
「……はぁ!?」
嘘だろ、雨が降るのかよ!
いや……、焦る必要はないよな。だったらその固まった氷が溶けるのも待てば――
「ねーねぇ、エルたん。早く行こうよ、ボクは早く堕天使に戻りたいよぉー」
俺の気持ちを全く察していないルパが部屋に入り、腕にしがみついてきた。
うおおお、最悪だ! 俺がこいつに雪山に行くことを教えちまったんだから!
「執事、早く行こ。パパいなくても問題ない」
フューレまでもがそう言い、フローリアさんが頷く。
レルシも「フューレ様が行く気なら大丈夫だと思います」なんて言い出した。なんでこいつらはさぁ、4、5歳くらいの幼女を雪山に派遣して問題ないと確信してるのかなぁ……?
「だって大人の執事さんもいるし、元堕天使もいますからね」
「そうだな。勇者である執事がいれば問題ないだろう」
「それはっ――」
まずい。ついにデュークが承諾しそうだ。
頼むからこの面子では危険だと言って、止めてくれよ……! 俺は勇者じゃねぇから……!
「よし! じゃあ俺は休むから、3人で行ってこい! ゲホゲホっ」
「やったー! エルたんとお出かけ楽しみー♪」
「私の炎のどうぶつさんで雪山を燃やす」
……あ、これ終わりました。
(じゃなくて!)
何としてでも、雪山のミッションを、問題児2人抱えて生き残らねば……!!




