ep9
戦いが終わりしばらく経ったショッピングモールでは周囲を警官が囲み、内部には幻想省と提携を結んでいる処理業者が忙しなく働いており、そこには木崎の姿もあった
「はぁ……ああ、せっかくのショッピングモールが…なんでこんな目に…はぁ」
木崎は異様に落ち込んでおり、内部の瓦礫を手を使わずに動かし片付けていた。
木崎は異能力の副作用で金属を操る時は異様に憂鬱になってしまう
「もう午後だ、はぁ、そろそろ警察の人が到着するな、はぁ、人手が足りない…」
現在幻想省は研究課の沼田博士の裏切りにより、研究課施設の調査や捜索、さらに各地で人工神の教会による暴動の鎮圧で圧倒的に人手が足りていなかった。
普段なら異能力者が事件を起こしたら、幻想省は警察組織よりも先に犯人の異能力者を捜索するが現在は一般人への情報統制で手一杯であり、捜索に手が回らず警察組織を頼るしかなかったが異能力者ではない警察官では異能力者への対処が難しい為、許可が降りるまで時間がかかり、事件から数時間経ってやっとその承認が得られた
「木崎さん、刑事の方が到着しました」
ため息を吐き続ける木崎の元に幻想省の職員が刑事の鷹司を連れてやってきた
「刑事の鷹司だ、こりゃひでぇな…」
鷹司は破壊されたモールを見渡し顔を歪める
「どうも、討伐課なのに処理もやってる木崎です…はぁ」
「それは、お疲れさん。それでガイシャは?」
「はぁ、負傷者は26人、死者2名、ただ店内にいた客は全員記憶処理してるんで、その前に目撃証言はこっちで聞いときましたよ、はぁ監視カメラもほとんど爆破されてて残ったデータはそっちに渡しますね」
「ああ、助かる。ロク…その遺体は?」
幻想省の職員から監視カメラのデータと被害者の証言をまとめたものを渡された鷹司は軽く礼を言い、死者について尋ねると木崎はさらに落ち込み、歩き出す
「こっちへ…はぁ、人は何故死ぬんだろう。こんなにも酷い死に方をするほどの罪はあるのだろうか…はぁ」
(…こっちまでため息が出そうになるほど気を落としてるなこいつ、やっぱりさっきの嬢ちゃんたちは特殊だったな。幻想省には変な奴が多い、まあ、話が通じるだけマシか)
鷹司は木崎についていきながら松野たちとの出会いで覆りそうだった幻想省への評価を元に戻した。
ある程度開けた場所にブルーシートが敷いてあり膨らみから遺体が寝かせてあると察した鷹司は手を合わせ、ブルーシートを捲る
「どちらも所持品から身元がわかりました。男性は拓殖信治1950年生まれの76歳、女性の方は山井桃色2007年生まれの19歳、ただ山井桃色の方は身分証が高校の学生証で昔使ってた物だと…はぁ」
「遺族に連絡は?」
「拓殖信治は息子に連絡がついて外で待機してもらってます。山井桃色は学生証の学校に連絡をとって2年前に退学してることがわかったんですけど、保護者の連絡先は使われてなかったので、住所に直接行くしかない…はぁ」
鷹司は情報を聞きながら遺体を調べる、拓殖の遺体は損傷が激しく顔を判別できる程度で致命傷の判断はつかなかったが山井は明らかだった
「こっちの遺体は銃殺か…」
「はぁ、そうですね、眉間に1発即死でしょうね。それ以外には右足に治療済みの銃痕と顔に殴られたような痕も…はぁ、腕を見ました?」
「腕?っ、こいつは…」
山井の遺体の腕を確認すると一部が化膿しており、内出血と注射痕があった。刑事である鷹司はそれが何を意味するかを理解した
「トラックマーク…覚醒剤か」
「はぁ、こんなの見て落ち込むなってのが無理な話ですよ全く…はぁ」
「…恐らく山井はあんたらが追ってる人工神の教会とやらの関係者だ」
「だろうとは思いましたよ。昨日の駅での暴動から続いて各地で異能力者が事件起こしてるんで」
鷹司はブルーシートを遺体に被せ立ち上がる
「拓殖信治の家族に話を聞きたい」
「はい、案内してあげてください。俺は…はぁ、ここをなんとかしないと」
木崎は星6ハンターでありながら異能力が処理向きということで、自主的に処理班の手伝いをしていたので、その場に残ることに、鷹司は幻想省の職員に案内されて遺族の元へ向かい、道中で職員から説明を受けていた
「遺族の方にはモール内で遺体となって発見されたとしか伝えてません。遺体の損傷が激しいので外で待っていただくように伝えてあります」
「どこまで言っていいんだ?」
「こちらが今回世間に公表する事件の内容です。それに矛盾するようなことは伝えないでください」
職員から渡された紙を受け取り読み始めると直ぐに鷹司の表情が曇った
「……本当にこれで報道するのか?」
「ええ、今回の事故は高齢者ドライバーが誤った操作で老朽化が進んだショッピングモールに車で激突し整備に問題があった車が爆発し、建物が倒壊し運転手含めた死者2名ということになります」
淡々と答える職員に鷹司はイラつき、口調を荒く反論する
「それはあんまりじゃねーか?異能力者が暴れた事件を1人の爺さんに押し付けてるもんじゃねーか」
「ええ、異能力という存在が世間に露呈しないようにした結果です」
「…秘匿しなきゃいけない理由は知ってる、だがあんたらのやり方はどうも好きになれない、どうせ報道では事件に関係なく言う必要のない個人情報を流して世間に拓殖信治は悪者だっつう風にヘイトを向けさせて、事故の真相から目を背けさせようってことだろ?」
鷹司の予想に職員はなんてことないような表情で頷く
「ええ、よくご存知で」
「っ!これは死者に対する冒涜だ」
立ち止まり受け取った紙を握りしめながら鷹司は職員を睨みつける。そんな鷹司に対して顔色を変えずに平然と言い返す
「1人の人間の名誉よりも、大勢の人間の平穏を優先してるだけですよ。それに情報から判断するのは世間です。共感力が高い方が勝手に声をあげてくれるので最近は楽ですよ」
鷹司が立ち止まっている間に職員は少し歩き、車のそばで頭を抱えている男性を指して振り向く
「あちらの男性が拓殖信治のご子息、拓殖陽介さんです。あとはお任せしますよ」
「……ちっ」
鷹司は歩きながら紙をポケットに雑に入れ拓殖の息子に近づき話しかけた
「拓殖洋介さんですか?刑事の鷹司です。この度は」
「刑事さん、親父…父は本当に…」
「誠に残念ではありますが、亡くられています」
拓殖の息子は絶望の表情を浮かべて俯く、実の父親が死んだと知ったばかりでその父親が悪役に仕立て上げられそうになっている状況に鷹司は葛藤し言葉を詰まらせる
「…ここで…何が起きたんですか?なんで親父は死んだんですか!」
「…それは…」
全部本当のことを言ってしまおうかと悩むが幻想省が許さないだろう、それに大勢の平穏を優先という言葉が鷹司の中でこだまする
「お父様は……誤って車を操作し…」
鷹司は言いづらそうに、そして悔しそうに幻想省のシナリオ通りの説明を拓殖の息子にした。
全てを暴露したところで記憶処理されて終わりで鷹司にできることは何もなかった。
説明が終わったあと拓殖の息子は涙を流しながら話し始める
「…親父は、歳でした。お袋が死んでから、一気にボケてしまって、お袋が近くにいると1人で話してるのを見ました…ただ受け入れるのに時間がかかってるだけで行動には問題はなかったから、いや、言い訳ですね…俺にも家庭や仕事があったからって、危うい状態の親父を放置してしまった。俺にも責任があります」
「……」
「…なんとなく、お袋が死んでから親父はずっと死場所を探してるようなそんな危うさがあったんです…」
その後鷹司はかける言葉が見つからず、ただ事務的に聴取をしてその場を離れた
「くそっ!」
行き場のない怒りと自分への失望で鷹司は壁を殴り、拳からは血が流れた。
そんな鷹司の元に職員が近寄る
「ご協力感謝します。手がかりはありましたか?」
「お前っ…ちっ、もうお前らにキレる資格は俺にはねーよ」
鷹司は電子タバコを吸い始め、諦めたように座り込む、その様子を見た職員は初めて少し表情を変えた
「人々の安寧は清廉潔白な正義の味方ではなく、どこにでもいる悪人が守ってるものですよ。事務的にね」
職員はそれだけ言うと仕事に戻った。
鷹司は空を見上げながら煙を吐き、せめてやれることをしようと携帯を手に取った
時同じく市井と八乙女の2人は拓殖からもらった金を使い、追手を警戒しながら怪我の治療をしていた
「…ごめん、目の前のことに必死になりすぎてた…」
市井の謝罪に八乙女はほっとしたように返す
「状況が状況だし、それに元はと言えば…」
「やばいことに足を突っ込んだのは確かだけど、真里が命を狙われるほどのことをしたとは思えない。いつもの理不尽だ真里は悪くない」
自分を責めようとした八乙女に市井は反論する。2人は親や、世間から理不尽な目に遭うたびにお互い支え合ってきた。だからこそ市井の言葉には力がこもっていた
「ありがとう羽駒くん」
「それはこっちのセリフだ、俺は真里がいるから理不尽な世界でも生きていける。明日君と笑えるなら何も怖くない」
市井は八乙女を怖がらせたことと、怪我を負わせてしまったことを死ぬほど後悔していた。拓殖に諭されなかったら八乙女を守ることよりも敵を倒すことを優先させてしまっていたかもしれないと自分の中の優先順位を今一度確認する
「君だけは絶対守る」
「私も羽駒を守るよ。それで2人で生きていこう?」
八乙女は真剣な目をした市井の手を握り目に涙を浮かべながら笑った。
2人は頷き合い、市井は決意を固めた
「そろそろいこう、居場所はバレてると思って行動しよう。拓殖さんが稼いでくれた時間を無駄にしないためにも」
「うん、無事だといいけど…」
「…ああ」
2人は拓殖の死を知らなかったが作業着こと、根津と戦った市井は拓殖の生存は絶望的だと感じていた。たまたま市井の銃弾を止めるために磁力を反発させていたからのこそ、車での突撃が有効打になったが、鉄の塊である車と磁力を操れる根津とは相性が最悪だ。
だがそのことは口に出さずに市井は車を走らせ、出来るだけ現場から離れるためにしばらく進んでいると、ふと違和感を覚えた
「……ねぇ、さっきから後ろの車ずっとついてきてないか?」
「…そうかも」
用心に越したことはないと、市井は出鱈目に曲がったり、同じ場所を回ってみると後ろの車は同じようについてきていた
「っ!こんなにすぐに場所からバレるなんて!」
市井は後ろの車が追手だと確信して車のスピードを上げようとするが、横から勢いよく別の車にぶつけられ、車体が大きく揺れる
「っ!」
「きゃ!」
車は横転を避けたが大きく道路から外れ、市井はそのまま東京湾に面した工業区域へと逃走した
「ちっ!なんか増えてる!」
3台の真っ黒な車が市井を追って工業区域へと進入してきた。追手の車の窓から柄の悪い男が数名身を乗り出して何かを叫んでいるのが見え、八乙女はそれを見て答える
「なんか…人工神の教会っぽくない」
「ああ!絶対反社だろ!」
走り続け、人気がなくなると追手の男たちは銃を構え始めた。それをバックミラー越しに確認した市井は冷や汗を流し、振り向こうとした八乙女の頭を押さえる
「真里!」
「えっ!」
その瞬間銃声が響き、車のガラスが割れる。
市井も運転をしながら身を低くしてやり過ごす
「真里!ちょっとハンドル持ってて!」
「え?ちょ!羽駒くん⁉︎」
市井はハンドルを手放し、八乙女は慌ててハンドルを握る。市井も銃を構えて応戦しようと窓から身を乗り出し、運転席の男に異能力を発動し撃とうとするが一瞬思いとどまり、異能力を使わずに車のタイヤを狙い、引き金を引くと狙い通りに前輪に当たり車は大きく揺れ道から外れた
「よしっ」
「羽駒くん!撃ったの⁉︎」
「タイヤにね!感覚は掴めた!」
市井は高校時代に弓道で県大会まで進んだ経験があり、今までの銃撃で銃の感覚も掴み、異能力を使わずとも命中精度は高かった。
もう1発撃とうとしたが、さらにもう1台車が死角から現れ、市井たちの車に激突した
「うわっ!やばいやばい!」
「キャァァァァ!」
車は道を外れ、横転し市井は身を乗り出していたせいで車から放り出されそうになり、八乙女はシートベルトのせいで車内に取り残されそうになった
「くっそ!捕まれ!」
市井は慌てて八乙女を掴みシートベルトを撃ち壊すと八乙女を庇うように車外に転がりでた
「はぁ、はぁ、真里…怪我は?」
「ないよ、怖かったぁ」
なんとか2人とも軽傷で立ち上がると、乗ってきた車が大きな音と共に横転し、追ってきた黒い車から柄の悪い男たちが降りてきた。
市井は庇うように八乙女を背後に隠し対峙すると柄の悪い男の1人が口を開いた
「テメェが、兄貴を殺った、車泥棒か…」
「…車泥棒は否定しないけど殺してはない」
「っ!しらばっくれてんじゃねぇ!誰に喧嘩売ったか、思い知らせてやる!」
柄の悪い男たちが一斉に銃を撃ち始め、市井は八乙女を連れて近くのコンテナに身を隠す
「悪い予感が当たった!」
「どうしよう!」
応戦しようにも市井が治療中に確認した残弾は4発、追われてる時に2発撃ったので残りが2発、目測で相手は6人。状況は悪かった
「真里、異能力を使って逃げてくれ」
「私は!羽駒くんを置いて行ったりしない!」
八乙女が自分を置いていくなんてことはしないとわかっていた。そのことが市井は嬉しくもあり辛くもあった
「俺は逃げられないけど、真里なら誰にも気づかれない、だから、俺を助けに来てくれ。時間は稼ぐ」
我ながらずるい言い方だと思ったが、八乙女を逃すためなら、迷いはなかった。
八乙女もそう言われてしまうと従うしかなかった
「…絶対に助けに戻るから!」
「ああ、頼んだ」
八乙女が認識できなくなると、市井は深呼吸をして耳を澄ませる
(銃撃はまばら…あの車のやつの仲間なら使ってる銃は同じなはず、なら8発撃ったら隙ができる)
市井は銃をしまってから砂利を拾い、銃撃が止んだ瞬間にコンテナから身を乗り出して男たちを視認し砂利を投げる
「ぐあっ!」
「いてっ!」
砂利は全て男たちに当たり、もう一度砂利を拾ってからコンテナから飛び出し、男たちに接近する。
近距離で1人の男の銃を蹴り、手から銃が離れた瞬間に隠し持っていたナイフで男の足を切る
「ちっ!がぁ!」
「なっ!おい!撃て撃て!」
「バカっ!撃つな!」
市井は足を切った男を盾にして砂利を真上に投げ、銃を構えるとお互いの動きが止まった
「テメェ、なにもんだ⁉︎」
たった1人で自分たちをここまで追い詰めた市井の強さに1人の男がそう聞くと市井は表情を変えずに答える
「居酒屋じょん2号店の店長」
「はぁ?」
その時市井が真上に投げた砂利が重力に従い加速し、男たちに正確に降り注ぐ
「ぐあっ!」
「あだっ!」
男たちは身をかがめ当たりどころの悪かった数名は意識を失い、盾にした男を殴り飛ばし耐え切った者の顔に素早く蹴りを喰らわせ、追手全員を倒した市井は息を深く吐く
「になる予定だ。多分。はぁぁ案外なんとかなったな」
決死の覚悟で八乙女を送り出した市井は銃を持った男数名を1人で倒し切ったことに驚き、少し小っ恥ずかしさを覚えた
「大したことないじゃん、俺って喧嘩強かったのか?」
倒した男たちの衣服を漁り、銃のマガジンを2つ手に入れ、八乙女を呼ぼうかと思っていると車のエンジン音が聞こえ警戒する。
しばらくして車が近くに止まり、鈴が鳴るような甲高い音が近い感覚で鳴っている音と話し声が聞こえてくる
「めっちゃ、鳴ってる!近いってこと?」
「ええ、今さっき鷹司刑事から付近のショッピングモールで襲撃があり、アパートの襲撃犯と同一人物の可能性が高いことも教えていただきましたし」
「あ、さっきの電話ってそのことだったんだ」
「あれ?聞いてなかったんですか?スピーカーにしてたんですけど」
「なんか、聞いちゃまずいことかもしれないと思って別のこと考えてた。聞こえてくる音を受け流すの得意なんだよねうち」
「すごい…特技ですね」
聞こえてきた会話にショッピングモールやアパートなどの単語が聞こえてきたことで市井は警戒しつつバレないように静かに移動を始めたが隠れる前に声の人物と相対した
「え!清美ちゃん!いたいた!」
「落ち着いてください。市井羽駒さんですね。私たちは幻想省の者です」
現れたのは松野と笠原の2人だった。幻想省と聞いた瞬間に市井は冷や汗を流す。
辺りには鈴の音が響き渡っていた




