41話「手紙の内容」
「おそらくトリヴァインの国王は、クヴェル殿が水竜神であることに気が付いたのでしょう。
文献にも水竜神が青い髪の少年やトカゲの姿になり、街を散策していたと記されておりました。
トリヴァイン王国では文献は焼失したそうですが、先代や、先々代の国王から伝承という形で伝わっていても不思議はありません」
リスベルン国王の推測は当たっていると思う。
自分たちでクヴェルの像を破壊しておいて、今更戻ってきてなんて勝手だわ。
「クヴェルを探す理由はわかりました。
ですが、トリヴァインの国王が私を探している理由がわかりません」
トリヴァイン王国を出る時、クヴェルと一緒に馬車に乗ったり、宿に泊まったりした。
国王は私とクヴェルが、今も一緒に行動していることをきっと知っているのね。
「アデリナ殿には異母妹イルゼ殿がおりましたな」
「はい」
「彼女の王太子妃教育が上手くいってないようです」
「はぁ……」
そんな理由で戻って来いって?
私を何だと思ってるの!?
「アデリナの妹は、無知で幼稚で愚鈍だったからね。
早々に王太子妃教育に音を上げたんだろうね」
クヴェルが吐き捨てるように言った。
「私を呼び戻して、代わりに仕事をさせようっていうの?」
「その可能性は十分にあるね。
本当、君のことをバカにしてるよね」
クヴェルの体から冷気のような物が漏れ出ているのを感じた。
「トリヴァインの王族は、どれだけ面の皮が厚いんだろうね。
逆さ吊りにして串刺しにしてやりたいよ」
憎々しげにそう呟いたクヴェルの目は、鋭く尖り、怒りの色を宿しているように見えた。
私より、クヴェルのほうが怒ってるみたい。
「国王陛下、私達はトリヴァイン王国に戻るつもりはありません」
「安心してください。
我々も、恩人である貴方がたをトリヴァインに渡すつもりはございません。
そのような真似をして、クヴェル殿の怒りを買いたくないですからね」
リスベルンの国王はこちらの味方みたい。
「ただ、アデリナ殿の祖国のことですので、お耳に入れたまで」
「それを聞いて安心しました。
どうかその手紙は燃やしてください」
「ええ、そういたしましょう」
国王は手紙を丸めた。
「果たしてそれでいいんでしょうか?」
テオドリック殿下が、話に割って入ってきた。
「テオドリック殿下、それはどういう意味ですか?」
「クヴェル様、あなたはアデリナ殿に話していないことがあるのではありませんか?」
テオドリック殿下が、クヴェルに視線を向けた。
クヴェルは冷たい表情をしたまま何も話さない。
「私はこの国に保管されているトリヴァインの文献を読みました。
そしてわかったことがあります」
「テオドリック……それ以上は踏み込んではならん」
国王が険しい表情でテオドリック殿下を止めた。
「ですが父上、話さなければトリヴァイン王国は滅亡します!」
「……えっ?」
トリヴァイン王国が滅亡する……?
それってどういう……?
「クヴェル様、あなたはトリヴァイン王国を守護していました。
そのあなたが国を離れた。
あの国はもともと、荒野だった。
あなたがいなくなれば、また元の状態に戻るのではありませんか?」
……ドクンドクンと心臓が嫌な音を立てる。
どうしてそんな単純なことに気が付かなかったんだろう。
クヴェルなら荒野を緑豊かな国に変えることができる。
彼にはそれだけの力がある。
私はこの旅を通してずっと見てきた。
そんな力を持ったクヴェルが国を離れたら……。
トリヴァイン王国は……。
窓から外を見ると、トリヴァイン王国のある山の向こうが黄褐色に霞んでいた。
トリヴァインの空があんな色に染まるのを見たことがない。
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