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118 持ち物検査

前話の後書きに、「亜馬」と「ロバ」についての説明を追加しました。


「客ども、集まれ」


 ゾルカンは全員を呼び集めた。


「今のが、魔獣ってやつだ。魔獣は、魔力あるものに寄ってくることが多い。人間も魔力を宿しているんで、よく狙われる。魔除けの煙は、それを隠してくれるものだ。

 だが、今のは、それを通り越して、()()をかぎつけて襲ってきた。

 つまり、かなり強い魔力を持っているやつか、強い魔法の道具を持ってるやつが、この中にいる」


 カルナリアはさらに戦慄した。

 心臓が危険な状態になる。


「取り上げるってことはしたくねえ。

 だがそれがあると、本来ならやり過ごせるはずなのに今みたいに襲われることが、これから何度も起きる。

 今のうちに、心あたりのあるやつは名乗り出て、教えておいてもらいたい。魔力を隠すものを俺たちは持っているからな」


 ゾルカンが見回すと、バルカニア貴族らしい人物がおずおずと手をあげた。

 最初の「面接」の時には申告しなかった魔法具をいくつか持っているらしい。

 モンリークも、我が身分証は魔法がこめられており高貴な色合いに輝くのだと見せつけてきた。


「あの、これは……私たちがカラントで買い求めたものですが……」


 儚げな人妻、アリタが小箱を出してきた。


「中のものの、鮮度を保つ魔法具だそうです……」


「ふむ」


 ゾルカンは濃密な(ひげ)を引っ張ると、部下に視線をやった。


 彼よりも年上だろうその初老の案内人は、棒、いや杖を持っていた。

 しっかり削り出され装飾もつけられ、根元の方に何か水晶玉のようなものがはめこまれたもの。

 ファラの持つ魔導師の杖に似ている。


 それを、差し出されたものそれぞれに近づけていった。

 恐らく、魔力を測定する道具。


「リャク。リャク。……リュウ。あちらへ。リャク。ムン。リャク」


 彼らの用語らしいことを次々と告げていく。

 どうやら、リャクは微弱、問題なし。リュウはやや多いので注意、ということらしい。ムンは魔力なし、魔法具ではないということのようだ。そう鑑定された者が呆然としていた。


 リュウと鑑定された者は、別な案内人のところへ行くよう言われた。そこで何らかの隠蔽(いんぺい)処置をするのだろう。


「リャク」


 ファラ本人に杖を向けると、そう判定された。


「すまねえな、姉ちゃん」


「いえいえー」


 ファラのマントはしっかり魔力を遮断するものであり、杖も問題ないらしい。


 フィンも、あのぼろ布か何か、その手の隠蔽方法を使っているだろう。でなければ、あの魔法具だらけの人物が、あちこちにいる魔導師の目をかいくぐって放浪を続けていられるとは思えない。


 問題は……………………自分!


 言うべきか。


 しかし、あの杖で鑑定されると。


 カラント貴族や、バルカニア人たちの前で、カラント王国の国宝『王の(カランティス・)(ファーラ)』の存在が明らかになってしまう!


 モンリークは号泣しながら平伏するかもしれないが。

 バルカニア人たちにとっては、隣の国の、最高の宝物だ。

 奪うことに何一つ罪悪感を抱くまい。


 ゾルカンたち案内人も、カラントからものすごい金額をむしり取れるだろうから、どう出てくるか。


 フィンには言っていないから、魔力を隠すものはまったく用意してもらっていない。


(ど………………どうしましょう………………!)


 カルナリアがこれまでで一番の危機感に蒼白になっていると。


「ファラからだ」


 いきなり、レンカの声がした。


 布を差し出された。


「これから冷えるようになるから、こいつを巻いておけ、だとさ」


 差し出された布には、魔力はまったく感じなかったが――。


「――☆」


 ファラが、舌を出し片目をつぶる妙な笑顔をして、何かをアピールしていた。


 ピンと来た。

 魔力隠しの布かもしれない。


 バルカニア人たちの前で『王の(カランティス・)(ファーラ)』の存在が明らかにされることは、ファラとしても避けたいのだろう。


「あのひとによろしく、私はこの通りとっても役に立つっすー…………と言いたいみたいだ」


 レンカがうんざりしたように言うと、離れていった。


 カルナリアはすぐにその布を首に巻き、首輪を隠した。


 念のためということだろう、杖を持った案内人が、客たちを確かめて回っていた。


 カルナリアのところにも来た。


 杖を突きつけられ――心臓が跳ね上がったが。


「……リャク」


 微弱、問題なしと判定された。


 奴隷の首輪に微弱とはいえ魔力を感じたことで、少し怪訝そうにはしていたが、彼ら基準で問題ないので次の相手に移動する。


「私も、頼む」


 フィンが出現した。


 カルナリアの肩に手が置かれた。


 いつもならほっとするのに、今だけは。


(隠し事していて申し訳ありません、ご主人さまっ!)


 後ろめたい気持ちでいっぱいになる。


 フィンは、カルナリアの体が硬いのを、魔獣の襲撃で怖がっていると思ったのか、ずっと手を置き、安心させるように撫で続けてくれた。


 それがわかり、さらに申し訳なく思う。


 しかし――次の疑問と危惧。


 フィン本人に密着し、魔導師ではないことはよく知っているが。


 あの無数の魔法具、『流星』のような強いものは、どう判定されるだろう?


 案内人が杖を向けてきた。


 カルナリアは強く緊張したが――。


「ムン」


 意外にも、魔力皆無という判定がなされた。


「…………」


 案内人も、明らかにおかしいという顔。


「問題ねえなら、それでいい」


 ゾルカンが言い、杖はフィンから離された。


「どうやって隠しているんですか?」


 小声で訊ねた。


「この布、私の服……下着、特に胸当て」


「!」


 あのずぶ濡れの一夜に見た、フィンの豊かな()()を包み、支えている下着。

 それにも確かに、何かの魔法紋様が刺繍されていたが。


 あのやわらかなふくらみに、それが密着しているのか。


「何だ、その手は?」


 カルナリアの手は自然にわきわきと動いていた。

 恥じて、硬く握った。


「ゾルカン」

「何だ、ぼろ?」

「今の魔獣は、美味いのか?」

「そりゃ、ブタだ、すげえが……」


「一頭、死んだようだ。後に残っている者たちが、人手を欲しがっている」


 フィンは、それを確認できる場所にいたということか。


「おうっ!」


 ゾルカンはすぐ部下を呼び集め、転げ落とした岩をどけて、その向こうへ行かせた。

 フィンもいなくなってしまった。手伝いに行ったのか、それとも。


 亜馬隊、客たちは移動を再開した。


 カルナリアは、亜馬には乗らないまま歩き出した。


「乗らないのか?」

「今みたいなことがまたあるかもしれないですし……私も、まだ元気ですから、歩けるうちは歩いた方が、体も慣れますし、何かあった時に()()()に力が残っていてくれます」


 しばらく身を預けて愛着の出てきた亜馬を撫でて言うと、ゾルカンは感心したようにうなった。


「ご主人さまの教えがいいんだな」


 誇らしくなり、自然と口元がほころんだ。


 だがそのフィンは、相変わらず、どこにいるのかまったくわからない。






 沢沿いにしばらく進み、登り……。


 この沢を作った渓流の、源流らしい泉のあるところで、停止した。


 割と平らで、周囲には崖や岩壁が見え、比較的安全な場所のようだ。

 まだ陽は高いが、今日はここで野営するらしい。


 あちこちに天幕が立てられ始め、火も起こされた。


「手伝うっすよー。これも案内料の一部っすからー」


 ファラが案内人たちの間を回り、魔法を使う。

 杖を向けると、たちまち薪から煙が上がり、炎が起きた。

 それを次から次へと。


 魔法はまずいのではないかと思ったが、先に広く魔物よけを施した上でのわずかな行使なので、問題ないようだ。

 大いに喜ばれていた。


 ……あれは大丈夫なのに、『王の(カランティス・)(ファーラ)』は勘づかれたとは。

 魔獣との距離が違うにしても、やはりこれはとてつもないものだ。


 ともあれ、カルナリアも働くことにしてエンフのところへ行った。


「手伝います」

「ああ、頼むよ」


 足を止めれば、カルナリアも女性班の一員だ。

 ファラと同じく、できることを手伝うのは当然だと思った。


 だが、パストラ、息子のカルリト、人妻アリタたちは、魔獣襲来で肝を冷やしたのもあってか、疲労困憊という(てい)で座りこみ、手伝おうとはしない。


「……そりゃ、楽してたからねえ」


 パストラらしい声がぼそっと聞こえてきた。


「…………」


 無視する。

 自分がフィンのおかげで楽をさせてもらえたのは本当のこと。

 それなら、腹を立てるよりも、他人の役に立つように振る舞うべきだろう。


「はやくしろよ」


 と自分より年少のカルリトに言われたのは少しムッとしたが。


 男の案内人たちが立ててくれた天幕に入り、エンフと共に、女性の寝場所として必要なものを用意してゆく。入り口をめくっても奥が見えないようにする、衝立(ついたて)状の幕。寝やすい床。天幕の(ふち)をめくられないようにする処置。

 女性だけが利用する水桶その他のものも、指示をもらって用意し始めた。


「…………ものすごいものを見てるっす」


「あいつ、本当に……()()なのか?」


 ファラとレンカが近くに来ていた。


 指示を受けて細々(こまごま)と働くカルナリア、カラント王国第四王女の姿に、仰天している。


「世が世なら、すげー不敬罪っす」

「ありえねー。あいつおかしい。()()どっかで入れ替わってないか?」


 ぼそぼそ言い交わすのが、聞こえてきてしまった。


「そこの二人、動けるなら、手伝ってもらえませんか?」


 言ってやった。


 どちらも、一瞬、隠せない怒りの色をのぞかせた。


 王女に命令される。奴隷に命令される。どちらの屈辱だろうと、前に猫背の男の首に線を刻んでやった時のことを思い出しつつ考えた。


「お、そこの二人、今日はこっちかい。頼りにしてるよ、よろしく!」


 エンフが、年を重ねた者ならではの如才なさで二人を巻きこみ、荷物の大きさや寝床の位置などについて要求を聞き出し、やるべきことを指示する。

 その手法には、見習うべきものが多くあった。




何とかごまかせた。ファラ、渾身のペコちゃんスマイル。レンカの「また」入れ替わって、というのは第51話参照。あの頃の君は冷酷無残な殺し屋だった。次回、第119話「肉祭り」。苦手な人には嫌かもしれない描写あり。

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