悪食ユーザー開口録
「例えばこのご飯に、エルビマーダラの粉末をふりかけとしてかけたら、美味しいと思うんだが? どう思う?」
エブリィ達が依頼出発前に朝食を食べているところに、これまた朝食を持ってやってきた、手入れのなっていないボサボサな灰色の髪に、虚ろな目、服装もあまり綺麗とは言えない格好のトンプソン・バジリスが声をかけてくる。
「うーん、粉末は綺麗だから、そぼろみたいには見えるんじゃない?」
「エブリィ、あんまりこいつの話を真に受けたら駄目だって。」
「面白い発想ではあるけれど、やっぱりモンスターって言うのは、ちょっと・・・」
「マッシュも普通に受け答えするなっての。 トンプソンのいつもに付き合わなくったっていいだろ?」
そうは言っているガーナも、聞いている分には面白いと思っているので、本当に嫌がっている訳ではない。 それならば彼の性格上、もっと強く突っぱねているからだ。
「トンプソン・バジリス 18歳 男 ランク24
特性 『悪食』
利点 どんなものでも食べることが出来、それが無機物の場合身体の一部として利用する事が出来る。
弱点 味覚がほとんど感じられない。 定期的に無機物も食べなければならない。」
トンプソンは特性の都合でとにかくなんでも食べる。 草でも石でも鉄でもなんでも食べることが出来る。 もちろんその分身体はひょろひょろしている見た目に反して丈夫である。 ただし毒などは自ら食べることはない。 曰く、「一度食べては見たけれど味がないのに勝手に毒になるのは納得がいかない」のだそうだ。
そしてそんな彼の何を加速させたのか冒険者として働くようになって1年で「個人的に食べれそうなものは、一般の人にも食べられるのだろうか?」という模索に入り、今もこうして意見を連ねている。 最も大半はおおよそ食べれないものを言ってくるので、聞く耳を持つ人はほとんどいない。
ちなみにエルビマダーラは海老の身体とザリガニのハサミを持った川などに生息するモンスターで、攻撃的な分、身体の甲殻部分は脆い。 そのためハサミ等は素材として用いられる事はあるが、食用としては流通していない。 何故ならば甲殻部分が脆いため、身を傷つけやすく、味もシンプルに不味いのだ。 よほど食糧が無い時以外は食べることもないと言われるくらいだ。
さてこのいつもの3人の中にトンプソンがいるのには当然訳がある。
『巨大スライムの大群が村に進軍している。 至急対処されたし。
ランク「20以上」
報酬 4000G なおこの依頼で全滅は出来なくても、村に被害を出ない程度に抑えることが出来ればよい。 スライムの一部を持ってきた場合、報酬の上乗せを約束する。』
スライム。 一般常識として知られているのは、青いジェル状のモンスター。 種類は生息地により変わり、軍隊で行動して戦闘になった場合、一つ一つの個体が合体を繰り返し、上位互換として君臨する。
というのはこの世界の創作冒険録には書かれている。 しかしこの世界では少し摂理が異なる。 冒険録に書かれているスライムは大抵が「弱い」モンスターの総称として用いられるが実際はそんなことはない。 彼らは「食べられないものなど無い」と言われるほどなんでも吸収し、身体に取り入れるまではいかなくても、丁寧な消化活動を体内で行う。
何が言いたいのかと言えば、スライムと言うモンスターは、意外となりふり構わずに体内に入ったものは溶かしてしまうということだ。 そしてそのスライムが巨大化・・・村を覆い尽くしてしまえば、そこに村があったのかすら疑問になる程に綺麗さっぱり無くなってしまうのだ。
「巨大スライムだと、切っても分裂するから剣士や槍使いにとっては天敵なんだよねぇ。」
「それは遠距離武器の僕にとってもだよ。 スライムって弱点らしい弱点無いし、仮にあっても体内だから、そこに届く前に消化されちゃうし。」
「だから俺が小さくなったやつを潰すって算段だろ? 後は偏食冒険家のトンプソンがいるって事じゃないか。」
ガーナがトンプソンを指差してトンプソンは「ニカッ」と笑う。 その笑った時に見せた歯はとても白かった。 その中でも犬歯に当たる部分の発達が凄く、およそ人の犬歯の成長とは思えない。 それを活かして、彼の武器はこの犬歯による噛みつきが彼の武器になる。
「そういえば場所ってどこになるんだっけ?」
「えーっと、ここは・・・アルマーニ水源かな。 あそこと言えば水がいいから野菜が良く育つって有名だよね。」
「ま、食べ物に関しては困らんだろ。 問題は行く方法だな。 アルマーニ水源と言えば、タラーサレンからかなり高い位置にあって、そこに行くために激流と滝を登らなきゃいけないだろ? どうやって行くよ?」
彼らの言っているアルマーニ水源は水源というだけあって高い位置にあり、そこから流れる水は、近くの農村の大切な水脈となっている。 もちろん下流へと流れて、タラーサレンの他、様々な街にも流れている。
「前回はどうやって行ったんだい?」
「前回はパーティーがパーティーだったから、魔法だったり特性を活かしたりと、色々とやったんだけど、今回は厳しそうかな・・・」
「ああ、近距離特化の俺達にとってはつらいな。 体力はあっても、あそこを迂回するのだけは、あんましオススメ出来ねぇな。」
エブリィもガーナも滝の周りの森の中を抜けるのは得策出はないと思っているようだ。
「じゃあ、ボートかなにかを手配する必要があるね。 どこかにあったかな?」
「いや、最初は上流に向かうから、ボートはむしろ帰りでいいよ。 でもそうなってくると本当にどうやって行ったらいいやら。」
「・・・あっ。」
「どうした? マッシュ?」
何かに気が付いたマッシュが、先程の掲示板に歩いていって、少し見渡した後に1つの依頼書を持ってくる。
『新たなる魔導飛行機器の実験に付き合って欲しい。 他の依頼との同時並行も可とする
ランク 「20以上」
報酬 3000G』
「これを使って行けばいいんじゃないかな?」
そう嬉々として持ってくるマッシュなのだった。
サラータレンの街から馬車で1時間。 エブリィ達はアルマーニ水源から流れている川の下流に来ていた。 ここから歩いて滝壺のところまで行くのが今の目的だ。
「こんだけ暑かろうが森の木々の中を抜けるなら涼しくなるってもんだぜ。」
そう、ここは木々が生い茂る森の中。 川から吹いてくる心地よい風に当てられ、更に木々がそこそこ密集しているなかを進むので、日差しが強くても、木々がそれを和らげてくれるので、涼しさが出てくる。 それだけでも冒険をするにはかなり楽になるのだ。
「木・・・かぁ・・・」
そんな中トンプソンは上を見上げながら共に歩いている。
「どうしたのトンプソン。 またいつもの話?」
エブリィがトンプソンに語りかける。 彼らは知っている。 トンプソンが目に見えたものを呟いたりするときは、彼の癖が現れることを。
「この木そのものが食べられる木だったらいいのになって思うんだ。 そうすれば、これから起こり得るかもしれない食糧問題だって解決できるんじゃないかな?」
彼の癖、それは彼が悪食故に口に出してしまう「もしかしたら他の人も食べられるものならどうだろうか」という疑問だ。普通の人なら全く思い付かないことでも、彼は彼ならではの感性で考えて、それを口に出してしまうのだ。
「確かこの木事態は食べられないけれど、樹液ならいけるって話だったよ。」
「おい、話を加速させるな。 あんまり考えないようにしてたんだからよ。」
「ということは食べようとは思ってたんだ?」
「・・・この辺りは水が上手いから、もしかしたら栄養があるんじゃないかと思ってな。」
「なんだ、考えてることは一緒なんだ。」
「お前ほどじゃないけどな。 そもそも食べてみたいと思ったのは樹液の話であって木そのものを食いたいって訳じゃないからな? そこだけ間違えんなよ?」
「はいはい。」
ガーナの言い訳を軽く流しながら彼らは滝壺の方へと向かって歩いていく。 そしてそんな木々を抜けると、大きくは無いものの、高さがある滝へと出くわした。 上から落ちてくる水と水面から跳ね返ってくる水が重なって、真昼なのにここだけ涼しく感じるほどだ。
「さてと、これの出番が来たね。」
マッシュが旅行用で使うのの他に持ってきたもう1つの鞄の中から取り出したのは、小型ロケットのような装置だった。 これがもう1つの依頼の調査アイテムの魔導飛行機器である「バックパックフライト」と呼ばれたものだった。
「それ、取扱説明書はあるのか?」
「ちょっと待ってね。 えーっとここにあったはず・・・あ、あったあった。 『このバックパックの中には飛行するための魔法陣が埋め込まれており、それを利用した燃料加熱と三半規管制御装置を備えた機器となっている。』・・・」
その後に使い方、注意事項、記録方法などを書かれたのをある程度把握したのちに、4人はバックパックフライトを装備して、滝の上を見る。
「本当に大丈夫なんだろうなぁ? こういっちゃあなんだが、俺達はこれからほぼほぼ両手が塞がる状態になるんだぜ?」
取扱説明書を読み終わって、このバックパックフライトの欠点として、バランスを取るために取っ手が2つがあるのだが、これが制御装置の役割を担っているので、逆を言えば、これを持ち続けなければ身体がバックパックフライトを背負った身体を支えきれずに正しく飛べなくなってしまうのだ。
「まあ、その辺りは祈るしかないよね。 敵が来ないようにね。」
そんな会話をしつつ、4人はバックパックフライトを作動させる。 「ゴゴゴゴゴ」という音と共に足が宙に浮き、そのまま空へと舞い上がった。
「うわぁ凄ぉい。 本当に飛んでるやぁ。」
「ちょっと遅くないか? まだ改良段階だからか?」
「前を守るものがなにもないから、まずは安全確保からじゃないかな? 魔方陣で飛行能力がつけられてるんだから複合魔術式でとうにかならないのかな?」
「その辺りはまだ研究段階なんじゃない? でもそれもまた難しそうだよね。」
三者三様に意見を述べあっているが、その会話も静まり返る。 4人の上に黒い影が出来たからだ。 上空を見上げればそこには怪鳥が飛んでいたからだ。
「・・・さぁて、このまま見逃してくれるわけないよな?」
「どう見ても僕らを視界に入れてるね。 あれ。」
「このバックパックの機動力だとちゃんと避けきれるかわかんないよ。」
「避けなくてもいいじゃないか。」
3人の敵に対する意見をいなしたのはトンプソンだった。
「僕が先陣を切る。 というよりも僕の後ろについてきて。」
「おいおい! 突っ込む気か? こいつの速度じゃ返り討ちだぜ。」
「いや、もうこれにかけるしか無さそうだよ? 怪鳥の方から突っ込んできた!」
キェーという声と共に怪鳥が突っ込んでくる。 その様子を見てトンプソンは大きく口を開ける。 とはいえ、人間の顎の限界値までだが。
「嬉しいねぇ。 食材の方から来てくれるなんて。」
そう言いながら突っ込んでくる怪鳥の嘴を口で受け止める。 止めているのは頑丈な歯とその顎。 彼は色んなものを食べているため、自分の口よりも大きいものや、歯よりも固いものくらいは、最早苦にはならない。
そしてその嘴をおもいっきり噛み砕いた。 怪鳥は嘴がやられたことにより退散していった。
「あいつ、なんて怪鳥だったっけ?」
「かなりの羽毛で覆われてたから、ウモウチョウだね。 こんなところで出会うなんて。」
「とにかく1つの驚異は去ったみたいだし、後は滝を昇るだけ・・・トンプソン?」
「うーん、嘴って結構固かったりするんだよねぇ。 それに骨っぽいし・・・」
かなり余裕そうなトンプソンを見ながら、エブリィたちは滝を進むのだった。




