悪食ユーザーの目覚め
「さてと、とりあえず村には着いたね。」
「あぁ、スライムはまだ来てないみたい・・・ってて。」
エブリィ達が目的地についた辺りでガーナが頭を抑えた。
「大丈夫? ガーナ。」
「ってぇ。 まさか今日が頭の麻痺時期だったとは予測できなかったぜ。 さっきの飛行テストの事もあって、急な気圧の変化に耐えられてねぇ。」
どうやら高低差と自分の特性に完全にやられてしまっていたようだ。
「休憩所で休もうか?」
「いや、大丈夫だ。 それよりも今後の被害予測と対策を立てに行くのが先だ。 俺達が着くまでに大分時間がかかっちまったからな。 少しでも遅れを取り戻さねぇと。」
そう言ってくれることにエブリィはありがたいと思う反面、恐怖もあった。 エブリィを含め、ガーナとマッシュの3人は肉体的に特性を働かせている。 なのでそういった敵の状態異常は効かないし、エブリィに至っては自分の武器にすらしている。 だがその蓄積されている物の大きさは計り知れない。 なので体調管理に関しては3人とも徹底的に行っているのだ。 間違いが起きてからでは遅いから。
「ここの前の街や村の被害報告は受けていますか?」
「そうさなぁ。 そもそもどこから説明すれば良いやら・・・」
「そんなに被害が深刻なのですか?」
村長らしき人に話を聞きに来たエブリィ達だったが、村長としては少し煮え切らない気持ちのようで、話すのを躊躇していた。
村長がチラリと話しているエブリィとトンプソンではなく、ガーナとマッシュの方を見る。 それもそのはず、ガーナは村長の家に着いた途端に頭痛が酷くなったと言って寝込んでしまい、マッシュは持続切れで眠りについているため、こちらもまた横になっている。 普通の人から見ればお荷物になってしまうのは明白だった。
「すみません、彼らは特性上でああなってしまっているので、依頼には支障はきたしませんので。」
「ああ、いえ。 冒険者の方ですのでそのようには思ってはおりませんが、おりませんが故に困っているのですよ。」
「おりませんが故に?」
エブリィもトンプソンも言っている意味が分からないと言った具合に互いの顔を見あっている
「ええ、今回のスライムの被害なのですが、かなり大きめの個体だという事で、こちらも被害に遭われた村には一刻も早く復旧してもらうために建築物の木材などの備蓄を用意しておりました。 しかし実際にその村に行ってみますと、なんていいましょうか、家などの建物にはほとんど被害がなかったのですよ。」
「それは・・・確かに文献のスライムの特徴としては、少し妙ではありますね。」
エブリィは村長の説明に疑問を抱いた。 それもそのはず、スライムというのは食べれるものは腐敗していようが、排泄物だろうが、なんでも取り込んでしまうのだ。
「それで、一体何が無くなっていると言われたのですか?」
だが依頼を受けた以上は内容がどんなであれ結果の報告は必要だ。
「ええ、被害に遭ったのは・・・」
「なるほどなぁ。 だがスライムってそんな賢い生物じゃないんだろ? なんでそんなことになるんだ?」
今回の話を聞いて、スライムの進行ルートの先に構えていたガーナがそんな質問をエブリィにする。
「これは僕の見解だから無視してくれて構わないんだけど。」
そういうとエブリィは人差し指を立てる。
「僕が考えるに、ここの気候や生態系が今回のスライムにとってかなり住みやすい環境にあったことが、要因なんじゃないのかって考えているんだ。」
「つまり、下手に体に蓄積することもやめたってことになるの?」
「にわかに信じがたいけどね。 今回って討伐が目的だけど、少し捕獲して施設に持っていけば、なにか分かるかもね。 環境によるスライムの考えの変化なのかスライムの身体系に変化したのか。」
「・・・奴さん、来たんじゃないのか?」
ガーナの一言にみんな一斉に天を見る。 そこにそびえ立っていたのは森の鬱蒼とした緑とはまた違う澄んだ緑色。 しかも透けていて向こうの空の景色すら見える。 そう今見ている光景こそが、彼らの討伐目標であるスライムである。
「まさか森の木よりも大きくなっているとは・・・」
「えーっと、これはどうすればいいのかな?」
「とりあえず僕が行くよ。 少なくてもみんなが倒しやすくするようにね!」
そう言いながらエブリィが飛び出していく。 スライムの討伐方法としては、拳による粉砕、もしくは棍棒による圧迫があげられるが、小さな個体ならば剣だろうが槍だろうが、細かく刻んでしまえば終わりである。 だがそれはあくまでもスライムの個体が小さければの話。 今回の場合はそうはいかない。
スライムのもうひとつの特徴として、スライムは基本的に集団を作ることはない。 だが同じ個体のスライムがある程度揃ったとき、まるでそうすることが決まっていたかのように、スライム達は重なりあい大きな1つの個体として生まれ変わるのだ。
しかし今回の場合はまた別で、後に持って帰って、調べてもらって分かったことなのだが、このスライムは自然の栄養でここまで大きくなったのだとか。
それはともかくとして今は目の前のスライムを切ることだけを考えているエブリィ。 だが元々の大きさも相まって中々小さくはならない。
「エブリィ、お前がバテたら本末転倒だ。 あれだったら1体ずつに絞った方がいいぜ。」
「それ分裂するって事を前提で言ってる?」
そんな愚痴を吐きつつも、スライムを分裂させていく。 個体事態はあまり強くないため分裂させる事は簡単だ。 だが小さくなる分体積も比例して小さくなる。 なのでこの辺りから狙いが定まりにくくなる上にスライム達も速度が増す。 倒すのに一苦労になってくる。 だがそこで活躍するのがトンプソンの出番である。
「さてと、スライムを誘き寄せるアイテムは持ったね? トンプソン。」
「OKだよ。 ちゃんと仕込んであるから。」
「それじゃ、そっちの奴は任せたぜ。 もう半分は捕獲用に俺とエブリィで何とかしてくるからよ。」
そう言ってガーナは今も切り続けているエブリィの元に行く。 そして分かれた後にトンプソンはあるアイテム、「スライムの香水」を利用する。 これを振り撒くことでスライムはその匂いにつられていくと言うアイテムだ。
「さあ、僕のところに来るんだ。 スライム達よ。」
そう言いながらトンプソンは口を大きく開く。 そして小さくなったスライムが口に入った瞬間に・・・歯と言う名のシャッターが振り下ろされる。 プチンという音と共に撃破する。
「・・・うーん。」
「どうしたのさトンプソン?」
「スライムって、噛んだ瞬間に潰れちゃうから、食感もなにもないんだよね。その辺りに関しては、ちょっと味気ないって言うかさ。」
「味は分からないんじゃなかったの?」
「なんでも食べれるって味だけの問題じゃないんだよ。 昔はそれこそ固いものを噛み砕けなかった事もあるし。 大きいものが口に入らないのと同じだよ。」
「同じ・・・なのかな?」
倫理観の問題なのかもしれないと、マッシュは自分を無理やり納得させた。
一方切っては潰し、切っては潰しを繰り返しているエブリィとガーナは疲労が見えていた。 というのもスライムの体積が小さくなったことで狙いが上手く定まらず、また少し放置するだけである程度の大きさに戻ってしまうため、作業が難航していたのだ。
しかも今回に限っては特性や習性が珍しいと判断したので、その一部を捕獲するためにも動いている。
「スライムって何だかんだで変幻自在だから下手な入れ物だと捕獲できずに逃げられるんだよね。 こんなことなら捕獲用道具持ってくれば良かったなぁ。」
「無い物ねだりしてもしょうがないし、なにより今回の作戦は現地で決まった作戦だ。 準備をするにしても時間がかかる。 ありものでどうにかするしかないって。」
目論見が外れて嘆くエブリィとそれを宥めるガーナ。 この二人の相性がいいのはお互いに性格や考えを知っているからである。
そんなことをやりつつもスライム達は着実に分裂していき、そろそろかとエブリィとガーナは目配せをして、かなり急拵えした、スライムを詰めるための瓶を取り出す。 そしてそれに「スライムの香水」をたっぷりと染み込ませ、後は瓶を横に置けば、蛸壺ならぬスライム壺が出来上がるという訳だ。 そして寄ってきたスライムが瓶のなかに入ったのを確認すると、すぐさま縦にしてスライムでは開けることの出来ない蓋をする。 これでスライムの捕獲が完了した。 だがまだ油断は出来ない。 二人はしばらく様子を見て・・・
「ふぅ。 これでスライムの捕獲は完全に完了したね。」
「あぁ、スライムはたまに融解性の高い奴もいるからな。 今回のはそう言うタイプじゃなくて助かったぜ。」
融解性のあるスライムの捕獲の場合は融解する物を見極めなければあっさりと捕獲用道具を溶かして逃げてしまう。 スライムだけでも幅広いのだ。
「っとそうだ。 向こうはどうなったかな?」
「おお、向こうには駆除を頼んであるからなぁ。 何とかしてるとは思うが、向こうは武器が武器だからなぁ。 案外苦戦してるとも考えられるぜ。」
「とにかく一度戻ろう。 話はそこからだよ。」
そう言ってエブリィとガーナは元来た道を戻る。 そしてマッシュとトンプソンが交戦している所に戻ってきた。
「マッシュ。 トンプソン。 これ以上はやめておこう。」
「え? なんで? 今回の依頼は駆除じゃないの?」
「依頼書には「対処」って書いてあるし、村に被害が出ない程度に対処したら依頼内容敵には終了なんだよ。 それに捕まえたのを持って帰るわけだから、そこで全滅させてしまったら次に回収出来なくなっちゃう。 村の人には説明がいるけど、とにかく一度離れるよ。」
そう言ってエブリィは2人に声をかけて、ガーナは手に持った煙玉を使って辺りを煙で包む。 いくら賢いスライムと言えど、目が見えなければ追いかけてくることはない。
そうして依頼をしてきた村に戻って、事情を説明する。
「確かに被害にあった村の情報と一致します。」
「このスライムは今までのスライムとは違います。 調査機関にこれをサンプルとして持っていきます。 何かの素材になる場合があるので、数匹は残しましたが、それでもしばらくは大きいスライムとしての脅威は無いでしょう。 ですがいくら気性が穏やかと言っても、むやみやたらに刺激しないように説得をしておいてください。」
「分かりました。 今回はありがとうございました。」
そうお礼を言われて村を去る。 そんな帰り道スライムの入った瓶を振りながらガーナが不思議そうに見つめていた。
「しかしこいつら、何だって人の食糧だけ狙うようになったんだ?」
「まあ普通に考えれば資源が良かったとしか言いようがないね。 そうじゃなかったらスライムはなんでも食べちゃうモンスター、良くも悪くも掃除屋だよ。 後はこれらの生態系がどう変化したかだよ。」
「そうだね・・・どうしたの? トンプソン?」
「あー、うん。 ちょっとこのスライムを食べてた時にね。 思ったことがあってね。」
なにか思い当たる節があっただろうか? と思いつつトンプソンの答えを聞いている。
「味は感じなくても食感を楽しめればいいんだなって。」
そんなことかいと3人は体を傾げるのだった。




