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魅了が効かない条件

 エブリィ達は目的の巣窟に到着をする。 その道中は当然のごとくと言っていいほどに見ず知らずの男性から声をかけ続けられたお陰で、本来の時間よりも大幅に時間が遅くなってしまった。 夜にならない内に片を付けたかったエブリィ達にとってはこのタイムロスはかなりの痛手である。


「「魅了」の効力もここまで来るといっそ清々しいな。 あんだけ男どもに言い寄られてるんだ。逆ハーレム待った無しだろ。 あれ。」


 ガーナが巣窟の前であるにも関わらずそんな愚痴を溢す。 しかしそんな愚痴をとばさずにいるのも無理はない。 エブリィ達が「マクロの旅の同伴者だ」と名乗り出ると、ガッカリして帰っていく冒険者はいいが、嫉妬にかまかけるのはエブリィ達には関係のない話なのだ。


「それで? 敵はどこから倒す?」

「私はワーウルフからいきたいと思いますわ。 ワーウルフには「雄叫び」で仲間を呼べる方法がありますわ。 数を揃われる前に倒した方が得策かと。」


 マッシュの疑問にマクロが意見を述べる。 しかしエブリィは首を横に振った。


「何故ですの?」

「確かにワーウルフは敵を呼ぶ。 だけれどそれは()()()()()()()()ですよ。 なので僕としてはガイアホッパーの討伐からやることを推奨します。」


 そう説明を受けたマクロは縦に首を振り、アッサリと了承をした。


「あの、提案した僕が言うのもなんですが、普通こういった提案は発注者、もしくは最年長の意見を通すのが筋だと勝手ながら思うのですが。」

「あなた達の実力は知ってるし、なにより私に対して意見を言う人って意外と希少でね。 学生時代はダハシュール先生以外は二言目には「マクロの意見を採用する」だったのよ? 男性でも女性でも。」

「むしろダハシュール先生は効かなかったって言うのがすげぇな。 いや、煩悩がありそうには全く見えなかったからもしやとも思ったがな。」

「マクロ先輩、ガーナ。 お喋りはおしまいだよ。 そろそろ狩り兼先輩の能力の実験を始めよう。」


 マッシュが声をかけた後に1つのアイテムを手に持っていた。 それを巣窟の前になげる。 するとそのアイテムは「パカッ」と割れる。


「マッシュ君。 今のはなにを投げたの?」

「あれは超特殊な音を出すアイテムですよ。 僕らには全くと言っていいほど聞こえない微量な音ですが特定のモンスターには不快な音を発生させるものです。」


 マッシュが説明を終えると同時に巣穴からカマキリに似た生物が飛び出してくる。 とはいえ普通のカマキリよりも数倍は大きい。 そのモンスターこそが狩る対象の1つであるガイアホッパーになる。


「でもガイアホッパーって害になるのは羽音くらいなものじゃないか? 奴らはただ飛び跳ねるだけで温情なモンスターのはずだって言われてるんだけどな。」

「それだって群単位になれば被害は少なからず出るし、温情なモンスターと言ったって怒らない訳じゃない。 普通にしていてもあの手は脅威になるからね。 放っておくわけにはいかないの・・・さ!」


 ガーナとエブリィは会話をしながらもガイアホッパーをいなしていく。 ガイアホッパーも攻撃を繰り出そうとするが、その前にマッシュのボウガンで攻撃が出来ないように的確に手の部分を破壊する。


 その光景に他のガイアホッパー達はたじろいて、それぞれ散り散りに去っていった。


「とりあえず第一関門は突破ってところか。」

「次からが厄介だよね。」

「次はどちらが来るのです?」

「見ていれば分かりますよ。」


 得耐性の3人は次が来るのを待つ。


 そして現れたのは緑色の身体に高い鼻と長い耳。 そして笑い方にどこか悪意を感じる。 そうその姿は正しく典型的とも言える位のゴブリンの集団だった。 前に進んでくるゴブリンとは別に、後ろにバンダナをつけているゴブリンもいた。 そいつがこの集団のリーダー格だというのは嫌でも分かった。


「ゴ、ゴブリン、ですわね。」

「視認できるだけで数は?」

「リーダーを含めれば、ざっと30体ってところかな?」

「異様に多いな。 ゴブリンってそこまでの集団で過ごしたっけ?」

「おそらくは3種族が入り交じって生活していたから、自分達の方が強いということをアピールするために数を増やしたのかもね。 ゴブリンな繁殖方法ってどういう感じなのか知らないけれど。」

「意外と人間と同じなんじゃね? ほら、二足歩行でアレが付いててってなったら・・・なぁ?」

「そんな話は全部終わってから考察してくださいます!!?」


 顔を真っ赤に染めながら話に静止をかけるマクロ。 彼等は冒険者であると同時に知識に興味津々な男子でもある。 興味の尽きることはないが、今は任務中。 ましてや女性がいるにも関わらずそんな会話をしてしまったことに反省をしつつ、目の前の集団を見る。


「ゴブリンって身体の一部を切り取ったところで怯まないんだよね。」

「そうだな。 お前の武器の場合は部位破壊も兼ねてのものだからな。 でも拳なら・・・」


 ガーナは斧を振り下ろそうと飛びかかってきたゴブリンの頭を拳で粉砕する。


「こうやって粉微塵にすればなんの問題もない。」


 身体はまだ空中なのでそれをひょいと避ける。


「相変わらず容赦がありませんわね。 その光景を見るだけで、野蛮に感じてしまいますわ。」

「敵意剥き出しのモンスターに慈悲なんか掛けてたら冒険者として割り切れないですよ。 それと先輩。」


 ガーナがなにかを言い掛けながらマクロの方に振り向く。


「ゴブリン達は、どうやら先輩を狙っているようですよ?」


 確かにゴブリン達の目線はマクロのみを捕らえている・・・ように見えた。 一番後方にいるはずなのにその目線を一切離さない。 マクロはその表情を見て薙刀を構える。


「確かに見ているわね・・・ これって私の「魅了」の特性が働いてる・・・ってわけないよね?」

「ええ。 そうですね。 文献通りならゴブリンの巣を荒らした冒険者がゴブリンに敗北した時の末路は、男なら瞬殺、もしくはなぶり殺し。 女なら輪姦といったところでしょうか? そしてマクロ先輩。 ゴブリンはあなたを真っ先に狙ってくるでしょう。 女、それも顔や体が良ければなおのことやる気が出るってものですからね。」


 エブリィは淡々と説明しているがその顔は少し青ざめている。 気分が悪いわけではないようだ。


「・・・ねぇエブリィ君。 随分と文献の内容に詳しいのね・・・ いえ、これ以上はお互いのため・・・かしら?」

「そういった話は全部終わってから話してあげますよ。 いくらでもね。」


 マクロは興味があったが、少なくとも今は聞かない事にした。 大体察してはいるが、下手に聞いて、支障を来すのも問題だろう。


「じゃあ僕達は発情し始めたこいつらをなんとか倒しますので、こぼれ球はなんとか対処してください。 ゴブリンの作る武器は棍棒や斧が多めなので、遠距離なのはあまり使わないです。 投げなければ、ね。」


 そう言って武器を構え直すエブリィを見て、薙刀を構えるマクロ。


「ごめんなさいね。 変なことを聞いて。」

「今は依頼をクリアすることです。 吐き出すのは何もかもを終わらせてからです。」

「おーい、終わったか? そろそろ加勢してくれるか? 30体はさすがに2人では対処しにくいんで・・・な!」


 そう言って殴り倒すガーナが後ろの2人に声をかける。 マッシュもボウガンで応戦しているが、致命傷には至っていない。


「分かったよ。 マクロ先輩。 先程言ったように・・・」

「ええ。 分かったわ。」


 そうしてエブリィ達はゴブリン退治に乗り出すのだった。


「ふぅ・・・あと10体になったが・・・まさか他のところから援護を要請するとはな・・・ゴブリンネットワークを甘く見てたぜ・・・」


 あの後、もう少しでリーダー格に近付けるといったところで、新たにゴブリンが湧いてきて、それの対処に再度追われていた。 リーダー格でないゴブリンはさほど戦闘力は高くない。 だが多勢に無勢というように、数で劣るエブリィ達に取っては戦闘的消耗が激しかった。


「このゴブリン達が終わったら、インターバルが欲しいかな・・・僕は・・・」

「そうか、マッシュの「特性」が切れちゃうのか・・・」


 言われてみれば、戦い始めてから2時間近く戦っている。 ガイアホッパーとの戦いの事もあるので、体力は回復させておきたいと考えているが・・・


「・・・マッシュ、もう少し頑張ってもらえるかな? ここで眠ったら、本当に目が覚めなくなっちゃうからさ・・・」


 横から突如として現れた、ゴブリン達よりも一回り大きく、青い毛並みを持った二足歩行の狼、ワーウルフが群れをなしていた。


「っ! ここでワーウルフかよ! これじゃあキリが・・・」

「待ってガーナ。 今は逆に好都合だよ。」


 そう言ってエブリィは一度武器を下ろす。 そしてゴブリン達とワーウルフ達の行動を見ている。 するとゴブリン達は、遠くにいるエブリィ達よりも、近くに突如現れたワーウルフに目標を変更していた。


「・・・どういうこと? ゴブリンじゃあ、ワーウルフには勝てないでしょ?」

「あいつらは互いの縄張り意識の中で戦ってるんですよ。」


 エブリィの言葉にマクロは首を傾げる。 彼女もそれなりに討伐依頼はこなしてきた身ではあるがここまで入り乱れた混線はあまり経験がない。 そんなマクロにエブリィが説明を始める。


「ゴブリン達の縄張りにおける攻撃目的は「侵入者の排除」、対してワーウルフの攻撃目的は「自己防衛」。 つまり今の状態はゴブリン達にとっては「縄張りに入ってきたからとりあえず殺せ。」となっていて、ワーウルフ達は「自分達の害になりそうなので、排除しておこう」というものになっているので、双方の思いが対立している形になってるんですよ。」

「な、なるほど。 でもそれならなんでエブリィ君は武器を下ろしたのです? こちらに向かってくるかも知れないのに。」


「ゴブリン達は縄張りに最も近い敵を攻撃します。 なので、今の状態で近いのはワーウルフ側です。 そしてワーウルフは自分達に害を加えなければ攻撃を仕掛けることはありません。 なので、この状態を維持しつつ後退しましょう。 討伐対象にはワーウルフも入っていましたが、巣穴の都合を説明しておけば、報酬は減りますが、しばらくこの巣穴に来る者はいなくなるでしょう。」


 エブリィ達はそういった「状況判断」にも長けているので、組織やギルドも納得してもらえる。 努力と知恵の賜物なのだ。


「それで、このまま撤退をするってこと?」

「そうなります。 ワーウルフの視界に入らなければ逃げれれば僕らは手負いすることなく帰れます。 なので慎重に・・・足音も出さないようにそっと・・・ゆっくりとです・・・」


 そう言いながらゆっくりと、ゆっくりと下がっていき、そのまま去れる


「パキッ」


 と思いきや、小枝が割れる音が聞こえた。 踏んでしまったマクロを含めてエブリィ達3人、そしてワーウルフの耳にも当然聞こえている。 ちなみに先程までいたはずのゴブリン達は既にワーウルフ達が処理してしまったようだ。


「・・・失敗の落とし前は自分でつけるわ。」


 そう言って帰る進路方向とは逆、ワーウルフ達のいる方に歩みを進めるマクロ。


「マクロ先輩! なにを・・・!?」


 ガーナの制止も聞かずにただ前に進むマクロ。 そして


「ワーウルフ達よ! 此度はあなた達の棲家に無断で入ってしまったことを詫びたい。 しかし我々は争う気持ちは微塵もない。 これ以上はあなた達の生活を脅かす事の無いように取り繕おう。 それで許してくれないか?」


 マクロがそう宣言をして、ワーウルフ達は顔を見合わせた後、エブリィ達に向かってくることなく、ゴブリン達の戦利品を取って戻っていくのだった。


「・・・ふぅ。 どうよ。 私の魅了と交渉術のなせる技・・・」


 自慢げに振り返るマクロのチャイナドレスの胸ぐらを、後方にいたエブリィは掴んだ。


「なにを考えているんですか! あんたは!」


 エブリィはひどく怒っていた。 普段温厚で怒る事が滅多にないと言われる程の彼が怒っていた。


「確かに僕達はあなたの「魅了」の特性を使った戦術を考えると同時にそれの実践的な形でやると言いました! でもあの状況下でやるものではないし、ましてや今回ワーウルフだったから理解をされましたが、これでゴブリン側が残っていたらあなたは確実に拐われています! 時と場合、やる相手を見定めてください!」


 マクロはそこ気迫に胸ぐらを捕まれていることを忘れて仰け反る。 さすがにこうなることは予測していなかったのだろう。 しかしその瞳に恐怖はない。 むしろどこか納得したようにも見えた。


「・・・ごめんなさい。 もうこんなことはしないわ。」

「分かればいいんです。」


 そう言ってエブリィは踵を返して、歩き始める。 頭をかきながら。


「先輩。 怒ったあいつを許してやってください。 正直俺達だって肝を冷やしたんですから。」

「ええ、さすがに怒りはしないわよ。 彼の言っていることは正しいし。」


 マクロたちも仕事が終わったので帰路につくことにした。



「そういえば結局のところ「魅了」が聞かない条件って、なんなんです?」


 帰りの馬車の中、ガーナがふと気になっていた事を話題にする。 マッシュは連戦で疲れて寝ているし、馬車はエブリィが引いている。


「そうね。 細かいことは別にするけれど、主に3つあげられるわ。」


 そう言ってマクロは指を3本立てる。


「まずは知性がないこと。 これは基本的にはモンスターに当てはまるわ。」

「モンスターにまで魅了が効いている様なんて見たくはないっすよ。」

「私もそう思うわ。 次は年齢が関係してくるわ。 具体的には65歳以上の人には効かないし、年下も13歳以下、つまり特性が現れない年齢の子には効かないわ。」

「その辺りは思春期とかが関係してきそうだな。」

「そして最後、愛する人がいれば、私の魅了は効かないわ。」

「愛する人って、それは年齢に比例しないんすか?」

「そうね。 結婚していなくても、恋人同士じゃなくても、それは同じだったわ。」

「へぇ。」

「・・・ガーナ君。 あなた達でなにかそう言った話はしなかったりするの?」

「え? いやぁ、そう言った浮わついたものはないっすねぇ。 他の二人も聞いたことないっすよ。」

「ふーん・・・」


 話終えたマクロはなにかを感じ取ったようだが、それ以上の事はなにも言わず、ただただ馬車に揺られているのだった。

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