96.
「─はあ、やっと見つけました。こちらにいらしたのですか。」
とため息とともに、するりと人影が現れる。
声のしたほうを見ると御庭番の人のようだ。
「…この間の?」
だが先日の人とは少し違う気がする。
「あ、すまない…」
「屋敷内は入れないので…」
どちらに行かれたかと、と苦笑する御庭番の人。
「ああ、そうだ。…紹介しておこうか。彼女は今後、君付きになる。名前はカレン。」
「よろしくお願いいたします。姫様。」
「カレンさん、こちらこそよろしくお願いします。…というか女性もいるのね…」
「呼び捨てでも構いませんが…」との申し出があったがまだ"初めまして"の段階なのでそのうち、と今は辞退した。
「…男の護衛なんて近付けたくもない。」
とヴィンセントが独りごちているのをカレンと2人で顔を見合わせ、くすくす笑った。
だが彼は「カレンまで笑うのか。」と拗ねている。
「…これは失礼致しました。」とカレンの瞳は弧を描きつつ謝っている。
…お姉さん、のような感じなんだろうか?
「…カレンは、5つ上で姉くらいにしか思ってないから安心しろ。」
とヴィンセントから頭を撫でられる。
「殿下は姫様と出会った頃から姫様一筋ですから大丈夫ですよ。」
2人から穏やかに見つめられ、気恥ずかしいが幸せな気分になる。
もう戻って下さい、とカレンから促され屋敷内に戻る。
「…ところでヴィニーはいつ、王宮へ戻るの?」
「ああ……それなんだが、結局しばらく侯爵家に厄介になることになりそうなんだ…」と頬を掻いている。
「? どういう…」
「王宮、だと…広すぎるんだ。」
「…護衛的な問題?」「そう。」
我が国は基本的に平和なので、騎士団員も御庭番も人員ぎりぎりだったりするらしい。
それが今回のような件になり護衛の手が足りないとなった。
ならば王宮からしたら狭い我が侯爵家に最重要護衛対象2人をまとめて置いてしまえ、とのことらしい…
「それに…"アシュクロフ"になって侯爵家で働いていたほうが色々な目から誤魔化せる。」
と彼の部屋へ行くと文机に手紙がそれなりな数、乗っている。これらは王宮に届いてカレンが持ってきたらしい。
「…手紙?」「…懲りない連中だな。」
と一応中を確認し、次々魔法で燃やしていく。
「…???」
「……言いたくないが、中身は『娘か自分を妾もしくは愛人にしてくれ』だ。」とため息をつくヴィンセント。
「……モテモテね?」と茶化すと
「やめてくれ…俺はマリア以外にモテたくない…」とがっくり項垂れた。
と、いくつか確認もせず燃やしていくのがあり
「それは?」
「…………君宛てだ。」
「え。ちょっと、見せてよ!」
「…見せたくない。というか内容は俺宛てと大体同じだ。……差出人でわかる。」
とすごく不機嫌だ。
「…違ったら?」「それはない。本当に差出人でわかるから大丈夫だ。」
なんだか解せなくてむぅ、と口を尖らすと可愛いとキスをされた。
それから1週間くらいは様々な来訪が続き、少し落ち着いた頃王妃様からお茶会へのお誘いが来た。
私のお母様にも会いたいから一緒に、と。
ヴィンセントもまだ滞在していたので3人で王宮へ向かう。
「……自分の家のはずなのにどうも慣れない。」
「ふふふふふ……」
と2人で笑っているのを王妃様とお母様がにこやかに眺めている。
「本当に、良かったわ…マリアちゃんが選んでくれて…」
「王妃様……」「もうっ、義母様と呼んで頂戴?」
と言われるが2人いるのでどうしたものかと考えていたのだが
「…名前を付けたらいいんじゃないのか?」とヴィンセント。
なるほど!「メアリー義母様!」と元気に呼んでしまったが王妃様はとても嬉しそうだ。
「マリア、婚約式の衣装を合わせたいのだが…」
「え、でも…」
「行ってきて頂戴?今日呼んだのもそれがあるからなのよ」と王妃様。
ならば、と言われたように2人で庭をあとにする。
ウエディングドレスは代々着るのがあるらしくサイズを直すだけで自由に出来ないから、と婚約式のドレスは好きにしていいらしい。
なのでブローチのときのようにヴィンセントがデザインの下地を考え、ミカエル女史に製作を依頼したそうだ。
応接室へ着くとミカエル女史が待っていてくれた。
「御婚約、おめでとうございます〜!そしてご依頼ありがとうございます〜」
「ありがとうございます。今日はよろしくお願いします。」
と挨拶をすると満面の笑みが返ってきた。
では、早速…と
「お渡し頂いた図案を大元にしまして…このような感じにしたのですが〜…」
とトルソーを指し示すのでそちらを見ると
純白の、マーメイドラインだが散りばめられているモチーフは─蝶のようだ。
「…素敵、ね。本当にヴィニーが?」
「……うん。…あの立太子の日に着ていた衣装が、とてもよく似合っていたから…その形を元に君の好きな"蝶"を合わせてみたのだが…」
蝶が翅を開いた形で左胸に大きく飾ってあり、そこから大小様々な大きさの蝶の刺繍が真珠と共に螺旋状に裾の方まで施してある。
背中部分にも鎖骨あたりに被るような形で蝶のモチーフ。…これは着ると私に翅が生えたようになるんじゃないだろうか?
「早速、試着して最終調整させていただきます〜」
との声と共に私は準備をされていく。
髪型やアクセサリーも決めるようで、王宮の侍女さんが数人いる。
「…緊張する…」
「ふふふ…どうぞよろしくお願いいたしますね、姫様。」
とカレンもだがみなどうやら"姫様"呼びすることが広まっているみたいで、少し恥ずかしいが"妃殿下"とか言われるよりマシか…と思った。




