92. 『答え』の話。
「…では、マリアの"答え"から聞こうか。」
談話室のテーブルを挟んだソファ2脚にそれぞれお父様とお母様、私とヴィンセント、と座りお父様が静かに口を開いた。
「私、は…ヴィンセント殿下をお慕いしています。…アシュクロフではなく。」
とはっきり、きちんと"わかった上だ"と告げる。
「彼からの求婚に応じます。」
「──そうか、わかった。…ではヴィンセント殿下からは何かありますか?」
「クローヴィス侯爵閣下、娘さん…マリア嬢との結婚の許可を下さい。」
と立ち上がり腰を折るヴィンセント。
「…!……わかりました。…不出来な娘ですがどうぞよろしくお願いいたします。」
とお父様も立ち上がり腰を折っている。
そうして「ありがとうございます…!」とがっちり握手している。
周りから拍手が起こりみんなから「おめでとう!」と声をかけられる。
えへへ、と嬉し恥ずかしく思いながら「ありがとう!」と返す。
それから夕食を全員でとった。聞くと今日はヴィンセントやシャロンたちは我が家に泊まるらしい。
…ちなみに今日の夕食は祝いだから、とお酒をほどほどに飲まされていた。私も少しもらった。
夕食後もまた談話室へ集まり、みんなで話しをすることに。
ヴィンセントはいの一番にジョセフに捕まっていた。結構、先輩後輩として仲が良いようだ。
私はというと、シャロンに捕まった。
「……で、結局何がありましたの?まさかあそこで殿下の声がするとは思ってなかったですわ…」
とシャロンが愚痴る。
「えっと…話すと長いんだけど──」
と起きたことを話していく。
そして"聖女の力"のことも─
「やはり、私の予想が当たりましたわね。」
とシャロンがため息をついている。
「シャロンは…何をどう知ったの?」
「…おおよそ、殿下と同じだとは思うのですが、"視線"を調べた結果、といったところかしら。」
「なる、ほど……」
「僕もシャロンから言われて驚いたんだけど。」
当たってたね、とシャロンと頷きあっている。
「それで、その聖女の力のことは…」
「それは私から。」とシャロンを遮ってジョセフから解放されたヴィンセントがやってきた。
「ヴィニー。もうジョセ兄様はいいの?」
「うん。…"覚悟しとけ"と言われた。」
と少し呆れ顔だ。何を覚悟するのだろう…
「…マリアは本当に"あっという間"に受け入れますのね。」
とシャロンから言われ、目を瞬く。
「そ、う…?」「…まあ、マリアらしいですわね。」
「それで…聖女の力のことなんだが。あれだけ神殿長らが必死であったことを考えると本当にマリアになっているのだと思う。」
「……神殿側は、発表する気でしょうか。」
「それをされる前に手を打ちたいのだが…とりあえず婚約の発表は明日朝一だ。…まあ、神殿側はしばらく静かだとは思う。マリアに手酷く追い払われたからな。」
くくく、と笑うヴィンセント。
「…何をしましたのマリア?」「……内緒。」
…嘘とは言え、『処女じゃない宣言』をしたなんて言えるわけがない。
「で、だ。エドガーやアンジェリカにも頼んだのだが、君たち2人にも学園でマリアを出来る限り守って欲しい。」
「もちろんですわ。」「当たり前の話ですね。」
と2人は快諾してくれるのがとても嬉しい。
「僕は国側からも少し探りを入れます。…どうも我が国の新興貴族がおいたをしているようなので。」
「すまない、頼む。」「お安い御用です。」
…本当に、私の親友とその婚約者は頼もしい。
それからしばらくして談話室は解散になった。
ヴィンセントの部屋はどこだろうと思ったのだが、どうやら私の部屋の隣のようだ。
「…アシュの部屋じゃないのね。」
「…久しぶりに行ってみるか。」
もうあとは寝るだけになったところで2人きりになったので以前の部屋に遊びに行く。
「マリアは知ってるか?ここ。」
「え?」何なに?と近寄るとヴィンセントが元・私の部屋へと繋がる隠し扉を開けてくれた。
「?! は?え??」
「くくく…本当に知らなかったのか。」
と彼が笑っている。
「え、なにこれ…知らないわ!」
「これのお陰で君を6年間、支えられたんだ。」
「…どんなに隠してもバレてたのはこれがあったから…?」
と驚きヴィンセントを見ると頷いている。
知らなかった…いつもどうしてすぐわかるんだろうと不思議だったがまさかこんなものがあったとは……
「…なんだか複雑だわ。嬉しいような気味が悪いような…」
「ああ…まぁ……そうだよな…」
と何やら歯切れが悪いし若干顔色が悪くなっている気がする…
これは─
「──何を隠してるの?」
「うぐ………」
「ヴィンセント?」
と笑顔で詰め寄れば
「ご…めん……その……一晩中君の寝顔を見てたことが、ある………」
と手で口元を隠し、顔もそらしながらだが教えてくれた。
私は盛大に目を瞬いた。
「それは……」「……ごめんなさい。」
まるでいたずらが見つかった子供だ。…実際はいたずらよりタチの悪いことがバレたわけだが。
「……というか、よく襲われなかったわね私。」
確かに"アシュクロフ"は絶対に一線を引いていたのだ。
「…あの頃は、ひたすら君を癒やしたかったんだ。」
とヴィンセント。
「"悪夢"で荒んでいるマリアが見ていられなくて…俺が出来る精一杯を君に注いだ。…君はすぐに懐いてくれて、すごく嬉しかったのだが…当時は、少し違った、な?」
…あぁ、アシュクロフと出会った頃は確かに前世の面のほうが強く出ていた。
「……悪夢の原因が前世だったから…あちらの感覚が強く出ていたわ。……その…"アシュクロフ"は、好みだったのよ…」
と素直に伝える。別にもう、この想いは遠慮しなくてもいいのだから。




