88. 剣の舞いの話。
「…自分が思った以上に嫉妬していて、驚いた。」
と困り顔のヴィンセント。
「ほんと、兄貴は呆れるほどマリアちゃん一筋だな。」
「…ところでエドガー先輩は何かご用だったんですか。」
なんとなくいたたまれなくなって話題を無理矢理変える。
「ああ、いや…マリアちゃんいるとは思ってなかったから…だから別にもういい。」
「?」とヴィンセントと2人で顔を見合わせる。
「エドガー?」
「…いや、久しぶりに一緒に手合わせどうかなって…」「見たい!」
と私が速攻声を上げた。
「ヴィニーの魔法剣もっと見たい!」
「…マリアがそう、言うなら…」と若干引き気味だが
「やったー!」とヴィンセントに抱きつけばしょうがないな、と眉尻を下げている。
「…じゃ、修練所で」
「ああ、準備したら向かう。」
もう私は楽しみでにこにこ顔だ。
「…マリア、剣の手合わせなんて楽しいか?」
「すごく楽しみよ!魔法剣すごく格好良かったし。」
他にもたくさん見せて!と詰め寄れば満更でもない顔をする彼。
「…頑張ったらご褒美くれるか?」
「そうね、"何でも"はダメだけど…叶えられるものだったら。」
「…わかった。」
──私は知らなかった。ヴィンセントの二つ名が『剣聖』だなんて。
修練所は騎士団本部の奥にあるそうで、向かう道すがら話しを聞く。
「エドガー先輩も魔法剣使えるのね…知らなかった。」
「うん…それもあるから、アンジェリカとの婚姻に問題がないんだ。」
代々ウルフ公爵家には魔法剣の使い手が出るそうだが、今代は奥様が早世されたこともあり子供はアンジェリカ1人。
アンジェリカには魔法剣の才が出なかったらしく最悪、他所から迎える、という方向だったのだが運良くエドガーが様々な条件に当てはまった。(今では恋人同士だし両家とも万々歳らしい。)
エドガーはそのまま次期騎士団長だがコネで…など言われたくないから、かなり修練・鍛錬を積んでいるとか。それでよく手合わせをしていたが最近は忙しくて出来ていなかった、と。
「ようやく、現団長の足元に近付いたと聞いている。」
「騎士団長様は強いの?」
「…うーん…陛下の次、くらいか?」
「……ヴィニーは?」
「…内緒。」「え、なんで!」
「……ご褒美、欲しいからな。」といたずらっぽい笑顔のヴィンセント。
あ、これ失敗したな…と私は冷や汗をかく。
内緒にするってことは、"一番強いやつ"だコレ…
「今更、"無し"はだめだからな?」
とニヤリとする彼に私は苦笑いしか返せない。ズルい……
修練所につくとたくさんの騎士たちが修練・鍛錬をしていた。
「ふわぁ…こんなにたくさんいるのね。」
「マリアの周りは平和だからなぁ。俺も久しぶりに城に帰って騎士の多さに驚いた。」と苦笑している。
「おはようございます、ヴィンセント殿下、姫様。」
と私たちに気付いた騎士団長が挨拶をしてきた。
「おはよう。朝から邪魔するよ。」
「おはようございます。お邪魔します。」
騎士団長は私を"姫様呼び"することにしたようだ。まあ、団長ならいいかなと思う。
「兄貴、こっち」とエドガーが呼んでいるので2人でそちらに向かう。
「マリアちゃんは、ここな」
と椅子を用意してくれたようだ。
この場所は先程の場所からさらに奥、実戦形式の手合わせ等をする場所らしい。その端に私は座る。
「この線から中には入らないように。」
とヴィンセントから注意される。学園の結界のようなものだろうか?
「わかったわ。」
「…えっと…一応先に言っておくが…結構、怪我をする。」
「骨折れるとかもザラだよなー」
と言う2人に私は目を瞬く。
「俺が治癒魔法得意だからすぐ治せるんだけど…」とエドガー。
「正直、見ていて気持ちのいいものではないと思うぞ。」
それでも、見るか?とヴィンセント。
「それ、今更言われても…」
「手合わせ自体は見なくてもいいぞって意味だ。」
「まあ、見たいと言ったのは私だし、ちゃんと見るわ。」
いつも通りにしてみて?と伝える。
「…わかった。じゃあ"勝利の女神"の口付けをくれ。」
とニヤリとするヴィンセントにしぶしぶ頬にキスをしてやる。
そのとき、「……ご褒美」と囁かれるが「ダメ。」と答える。
「え、なんで」「エドガー先輩との手合わせはいつものことなんでしょう?だからダメ。」
「……まあ、しょうがないか。」と不服そうだが頑張って、と笑顔を向けると破顔しエドガーと対峙しに行った。
──軽く土煙の漂う中、銀と金がくるくると舞っている。
魔法剣はもちろん金属製ではないのだがグラスを強く打ち合わすような、だけど小さな剣戟の音がする。
2人の手合わせは本当にギリギリのラインをいっていた。
小さい頃からずっとやってきたのだろうな、と私でもわかる。
そして言われたようにたまに鮮血が舞う。それを気にする様子もなく2人は真剣かつ楽しそうに刃を合わせている。
だが怪我が増えるのはエドガーだけ。ヴィンセントは傷ひとつ負わない。
映画の殺陣を見ているような感覚で見ていたら
「姫様は平気なんですね。」
と隣から話しかけられた。
「団長様…そうですね。物語の一場面のようです。」
とちらっと姿を確認しすぐに舞う2人に視線を戻した。
「…アンジェリカはすぐに悲鳴をあげていました。」
「……ふふっ…変、だと思いますか?」
「…いいえ。"さすがだな"と。」
「そこまで大したものではないです。…"美しいから見ていたい"でしょうか。」
「あぁ…」「まるで劇で舞を舞っているみたい。」
「…姫様は面白い方ですね。」
とふと気付くと周囲に騎士たちが集まってきていた。
「…いつまでやるのかしら。」
「そうですね。どちらかが参ったと言うまで、ですが…」
と言い淀む騎士団長に何事かと視線を向けると
「……ヴィンセント殿下がえらく張り切ってますね。それとエドガーも。」
と苦笑している。
「姫様にいいとこを見せたいのでしょうね、お互い。……おや」
周囲の騎士たちからも少しどよめきがあがる。
エドガーが少しヴィンセントを押しているのだ。鍛錬の結果もあるだろうが、ヴィンセントがどうも精細を欠きだした。
「ふっ…姫様に気を取られてますね。」
「……大体、勝つのは?」「ヴィンセント殿下です。」
なぜ私に気を取られるのかと思ったが、騎士団長と話しているから?それとも騎士が私を囲んでいるから?
…だけどそれで集中を欠くのは、今後の課題ではないだろうか。
騎士団長がエドガーを呼び捨てなのは義理の息子になるからです。
公式の場ではちゃんと敬称が付きます。




