87. 新たな家族の話。
「それで、私たちはいつ孫を抱けるのかな?」
と私たちの向かいに座った陛下が言い出して、私は盛大にむせた。
「父上っ!?」
「おや、てっきりそうだと思ったのだが…違うのか?」
「あなた、マリアちゃんの前ですよ?」
と王妃が諫めてはいるが期待に満ちた目をヴィンセントに向けている。
ヴィンセントはむせる私の背中を擦ってくれながら
「はぁ…だからこんなに早く会わせたくなかったんだ……」
とため息を吐いた。
ようやく私も落ち着き、「もう大丈夫」と彼に伝える。
「はあ…びっくりした。」
「すまない…父上が変なことを…」
「大丈夫、ちょっと驚いただけだから。」
と笑顔を見せれば眉尻を下げる彼。
「まあ、とりあえず…彼女に求婚は受けて貰えました。」
「おぉ、それは良かった!」
と陛下と王妃が手を取り合って喜んでいるのが少し恥ずかしいが
「あの…ふつつか者ですが…よろしくお願いします。」
とぺこりと挨拶をする。…ちょっと不敬な態度かな、とも思ったのだけど2人の雰囲気が、こっちのほうがいいかと思ったのだ。
「こちらこそよろしくね。アイリーンから話はよく聞いているし、ヴィンセントからも聞いているから…本当にこの子を選んでくれてありがとう。」
と王妃がとても嬉しそうな優しい笑みを浮かべている。
「…この子、昔からあまり我儘を言わない子で。そんな子が『どうしても欲しい子がいる』なんて言うから」「っ、母上!それは…っ」
とヴィンセントが顔を赤くしながらかなり焦っているが、あら内緒だった?なんて王妃はくすくすと笑っている。
「マリア嬢、本当にいいのだね?」
と陛下から確認の旨を告げられ
「は、い……私に…妃が出来るとは思っていませんが、彼を…愛してしまったので、一番側にいられるなら頑張ってみようかなって……」
と伏せ目がちに告げればおやおや、あらあら、と2人から声が上がる。
「─大丈夫そうだな。」「そうですね。」
と笑顔で頷きあう陛下と王妃。
ヴィンセントが静かだな、と横を見やると両手で顔を覆って声にならない声を上げながら悶えているようで、耳の端が赤いのが目に入った。
「では明日、発表する準備をしておいて構わないな?」
「はい。お願いします。」
と持ち直したヴィンセントが答えている。
「それでは邪魔をしたな。」「また今度ゆっくり会いましょうね。」
と2人が部屋を出ようとするが
「……ああ、そうだ。…神殿のやつらがマリアを渡せと言ってきている。くれぐれも注意するように。」
「……わかりました。」と硬い声でヴィンセントが答えている。
ゾクリと背筋を這うものがあり、縋るように彼を見れば大丈夫と笑顔を向けてくれた。
ではな、と部屋を出ていく2人にさすがに見送りくらいは、と
「ありがとうございました。」とカーテシーをし見送る。
陛下と王妃は一瞬驚き、ふわりと笑って出ていった。
出ていくときに王妃が小さく手を振ってきたので私も笑顔で振り返しておいた。
完全に扉が閉まったところで息を吐き、
「……緊張した。」と独りごちれば後ろから抱きしめられる。
「わっ」「……もう、逃さないからな。」
と囁かれびっくりして彼を振り返るとそのままキスをされた。
「ん……ふぁ……」
「……もっかい、"愛してる"って…」
向き合う形に身体を回されキスの雨を浴びている。
「…ン……や、だ。」
「なんで。」
「……言ったら、暴走するのが目に見えているから。」
そんなもの、火を見るより明らかだ。
「…お願い。」と甘い声を出しているがどさくさに紛れて私の胸に顔を埋めている。
「……そういうことするからでしょ。」
早く離れろ、と耳を引っ張るが
「……………もう少し……うぐっ」
私が彼の脇腹に鉄拳を叩きこめばしぶしぶ顔を上げる。
「マリアぁ……」「だーめ。」
それならば、といった感じでヴィンセントがまたキスの雨を降らせてくる。
「ちょ……ヴィニー…さ、すがに……もう……」
「だめ。」
と一向に解放してくれない。
もう立てなくなってきていて、ヴィンセントに支えられてかろうじて立っている感じだ。
「……やっぱりマリア、感じやすいんだね。」
と唇をぺろりと舐められる。
ヒィ、バレてる!と私は一気に覚醒した。
「もう、離してぇ」「じゃあもっかい"愛してる"って。」
そうしたら離してあげる、と満面の笑みで告げてくる。
…詰んだ。どう転んでも詰んだ、と思った。
朝イチから貞操の危機とか洒落にならない。
ぐるぐるとどうにか切り抜けられないかと考えを巡らせていたのだが
「──マリア。」
とほんの少し低めの声で急かされる。
もう腹を括るしかないのか──
「兄貴、おはよう!」
とノックもなしにエドガーが入ってきた。
「………エドガー。」
「………ごめん、なさい……」
私はもう恥ずかしさからヴィンセントの胸に顔を埋めるしか出来なかった。
そのあとはエドガーが可哀想になるくらいヴィンセントから怒られていた。早々に私が止めなければいつまでも終わらなさそうな感じで。
「ありがとう、マリアちゃん…助かった……」
「…エドガー先輩がちゃんと伺いいれてから入ればよかっただけですよね?」
「うぐ……」
「いつもアンジェリカ先輩からも怒られてるじゃないですか。」
と呆れ顔をすれば
「いやあ…てっきり昨日のうちに帰ってるかと……」
「それでも伺いいれてから入室するものです。」
ね?とヴィンセントに同意を求めると少し渋い顔をしている。
「…ヴィニー?」
「……あ、いや…」「兄貴、俺に嫉妬すんな。生徒会で一緒なんだから仕方ないだろう?」
兄弟のやり取りに私は驚き目を瞬く。
「……アンジェリカから頼まれたし、エドガーの近くにいるほうが色々と安心できるかと思ったんだが…」
と複雑そうな顔をしている。
KY弟くん。




