86.
翌朝、目が覚めると見慣れぬ天蓋。
「…あぁ…私、昨日……」気絶&寝落ちしたんだ…
ハッと色々頭をよぎるが、寝間着はきちんと着ているし身体も別に痛いとか違和感とかもない。
…我慢、してくれたのか…とちょっと罪悪感を感じるがいやいやもしがあったら大変なのだから良かったのだこれで。
だけどぎゅうぎゅうに抱きしめられている。ヴィンセントの抱き枕状態だ。
「ヴィニー、起きて。ヴィニー…」
と軽く揺するが起きる気配はないばかりか
「ん…マリア……」
ともぞもぞしだした。
…朝だね…ブツが当たってますよお兄さん……
ああー軽く腰が…さすがにこれ以上は私に知られたくないだろうと思い
「ヴィニー!起きて!」と少し強めに揺する。
「う……」「おはようヴィニー」
焦点の合わない目が数度瞬く間に私を認識し、蕩けそうな笑顔が浮かぶ。
「──お、はようマリア…」
とそのままキスされた。
「おはよう。…離してくれる?……大変なことになる前に。」
と苦笑すればハテナの顔のヴィンセント。
仕方なく手に当たるソレをほんの少し触ればバネ人形のように飛び起き私から離れていった。
「ごごごごめん…っ!!」
と顔が真っ赤だ。…昨晩はあれだけ攻めてきたクセに。
「…男の子だからしょうがないわ。」
「……いやっ…その…すまない……というか知っているんだな…」
「まあ前世分の知識と経験があるから…だけどこの身体は清いものよ!」
と言えばフハッと吹き出すヴィンセント。
「そんなこと、堂々と胸張って言うな。」と笑っている。
「じゃ、着替えたあとどうしたらいい?」
「ああ…えっと…俺の部屋に来てくれるか?朝食はそこで。」
と掛け布団に包まったままの彼。…朝って大変なのね、と新たな知識(?)を手に入れた。
早々に退散したほうがいいだろうと思って了解の旨を伝えながら寝室をあとにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……さ、すがにコレはないな…」
と主張するものを見る。
夢想したことは数知れずだが、夢想した相手に知られるのはすごく恥ずかしい。
しかも彼女はわかっていた。わかっていながら、俺が恥をかかないよう配慮してくれたのだ。
「……"経験"の差か…」
と独りごちて……凹んだ。
その辺りの知識は、勝てないのだろう…
だが堂々と『自分は清い』なんて宣言する令嬢…フフッと思い出し笑いをしてしまう。
「……可愛すぎる。」
──ここであれを"可愛い"なんて感じる俺も大概だな、と考えながらようやく治まったので自室へ向かう。
ああ、これからは私服で会うのがさらに増えるからマリアの好みを聞こう。
やっぱり、好きな人には"格好いい"と常に思われたいから。
今日はどれにしようか──
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
昨日の服、と思ったのだが、どこにもない。
…これは洗濯に持っていかれたのか…な?
じゃあ、とクローゼットを開けてみると、ちゃんと服が並んでいた。
彼らしく私好みかつ似合う服が揃っている。
とその中に、珍しいものを見つけた。
セーラー服型の白色のワンピース。
このデザインは、見たことがない。…我が国、のではない気がする。
とても可愛いのでそれを着ることにした。
そして、セーラー服と言えば…みつ編みだろう!(?)
…まあ、手の込んだ髪型とか出来ないし、下ろすのは暑いからね…
準備が終わり、また寝室を通ってヴィンセントの部屋へ行く。
一応、扉をノックした。すると、
「別にそのまま入っていいのに」
と言いながらヴィンセントが開け、部屋に引き入れてくれた。
「…そ、れ」
「あ。ありがとう!これすごく可愛いわ!」
とセーラー服をひらひらしてみたのだがヴィンセントは固まっている。
「…もしかして着ちゃダメだった?」
「いやいやいや、マリアのために揃えたのだから!」
とガッと肩を掴まれる。
「……可愛い。可愛すぎる。どうしよう可愛い。えっ、なんだこの可愛い生き物は。……食べてしまいたい。」
と、とてもとても不穏なことを言い出したので
「ヴィンセント!!」と強めに呼びかけ正気に戻す。
「ハッ…俺は……」と目を見張るヴィンセント。
「大丈夫。欲望がだだ漏れだっただけよ。」
「だだ漏れ………」
と唖然としているので強く頷くとがっくりと項垂れた。
「ごめん…」
「気にしないで。ね?」
と2人で用意してもらった朝食をいただく。
「食べながらでいいんだが、今日の大まかな予定を聞いてくれ。」
「あ、予定があるんだ…」
「…ほんの少しだが。」「…まあいいわ。」
と先を促すと
「…まず父上と母上に会って欲しい。」
「……陛下と、王妃様…」
「ああ、そこまで堅くならないでくれ。侯爵殿と夫人より…緩い人たちだから。」
と苦笑している。
「それから…マリアの、ご両親に挨拶、を…だな。」
とどぎまぎしている様子が可笑しくて
「ふ、ふふふ……散々、我が家で暮らしておきながら、今更……」
んふふふふふ、と笑いが止まらない。
「マリア…」と眉尻を下げているヴィンセント。
と、突然部屋の扉が開かれ
「おはよう、ヴィンセント!マリア嬢!」
とお父様くらいの男性が入ってきた。後ろにはお母様くらいの女性。
私は驚き目を瞬くが、陛下と王妃様だと気付く。
急いで挨拶しようとしたが
「ああ、いい、いい。そんな畏まるな。」
と止められてしまった。
困り、ヴィンセントを見やると少し呆れ顔をしている。
「…父上、母上。もう少し我慢して下さい。マリアが驚いているではないですか。」
「だって、アイリーンから手紙で様子を聞くだけだったから早く会いたくて…」
と王妃様が胸の前で手を組んでいる。
「え、っと……おはようございます…?」
「おはよう、マリア嬢」「おはようマリアちゃん」
と、とりあえず挨拶をすれば2人から満面の笑みで歓迎の意味が存分に含まれた挨拶が返ってきたのでとても嬉しくなった。




