9. 回想し思い出す話。
私には決して少なくない魔力量があるらしい。
ただ、まだ身体が成長途中で障りがあるかもしれないから大魔法の類いはやらないように、と言われていた。
でもこの際、そんなこと言ってられない。
目の前の命が今にも消えそうなのだ。
それが繋ぎ止められるなら…っ
頭の中から引っ張り出してきたそれを唱える。
『──完全回復─』
ゆっくりとサラの傷を撫でてゆく。
体中からごっそりと力が持っていかれる感覚がするがなんとか振り絞る。
最後まで撫で終え、軽く見た感じ跡形もないように見えるがあとで医者にも診てもらった方がいいだろう。
ウィルフレッドが「サ、サラ…?」と彼女を揺する。
「…う、うぅん……」…良かった、ちゃんと治せたみたい…というかクラクラしてきた……
ウィルフレッドとサラが驚きつつも笑顔で話している。
「ああ……良かった、義姉様… ほんとうに……」
──私は意識を手放した。
「──……ちゃん! マリアちゃん?」
ハッと目を数回瞬く。
「あ………」
「大丈夫…?"あれ"の話をしたから思い出させてしまった…?」
少し泣きそうな、心配顔のサラが覗いてくるので
「義姉様。ごめんなさい大丈夫!…ちょっとその婚約式ごっこの記憶がないか考えてたの。本当よ?」とにこっと笑う。
「そう、ならいいのだけど… 無理はしちゃダメよ?」
「うん、気を付けるわ。…にしても本当、そのごっこ遊び思い出せない……」
最後の方は独り言のようになりながら昼食の残りを片付ける。サラはすでに片付いているようでお茶を飲んでいた。
「ご馳走様でした。今日も美味しかった〜」
「そうね、この数ヶ月で食事の有り難みが身にしみたわ。」
少し膨らんできた下腹部を愛おしそうに撫でながら言う彼女は幸せそうだ。
「これからはたくさん食べないとね!なんせ2人分だもの。」
触ってもいい?と了承を得てから私も撫でさせて貰う。
「元気に育つのよ〜!みんな楽しみにしているからね!」
「ふふっ… ありがとう。…本当にマリアちゃんのお陰よ。」
サラも"あれ"のときを思い出したのか少し瞳が潤んでいる。…もしあの時、死んでしまっていたらこの小さな命は無いのだから無理はないか。
「どういたしまして! 私は部屋に戻るね。」
「ええ、一緒に昼食ありがとう。」
「こちらこそ!じゃ、また夕食のときにね。」
「またね。…無理しちゃダメよ?」「義姉様こそ〜」と少し意地悪そうな顔で笑い合う。
ばいばい、と手を振って自分の部屋へと戻りティアに飲み物の用意をお願いしてソファに座り込む。
…あのあとの話は伝聞ででしかないが収拾は比較的簡単だったらしい。
暴漢は叫び声を聞いた工房の方々が取り押さえてくれていたのであっさり逮捕。
私の治癒魔法は街の顔見知り数人のみに目撃されたためみな快く秘密にする約束をしてくれたらしい。(あれから6年経つが何もないので約束は守ってくれているのだろう)
サラは医者にも診てもらったが傷跡も綺麗さっぱり。
ウィルフレッドは……彼女の斬られた背中の白い柔肌をバッチリ見てしまって鼻血を出したとかなんとか。(現場に家の者が駆けつけたとき鼻血を出していて一時騒然となったらしい。…義姉様が説明して事なきを得たと彼女が笑いながら言っていたっけ。)
私はというと…3日ほど目を覚まさなかった。
その当時持っていた魔力ぎりぎりまで使い切っていたようであとちょっと使い過ぎていたら命に関わった、と。
目が覚めるまで使用人含め家族全員、特にサラにかなり心配をかけた。目覚めた日はちょっとした祭りになったくらいだ。
…ちなみに暴漢は、精神異常者だったらしく様々な角度から検分されたが結局ただの異常行動に運悪く出遭ってしまった、と結論付けられた。
男は処分されたようだった。(もう絶対に2度と現れないから安心しなさい、とお父様に言われた。つまりそういう事よね。)
そして頼んでいた祝いの品は後日家に届けられ、2人からすごくお礼を言われた。私がデザインしたブレスレットなのだけど今だに揃って付けてくれているからとても嬉しい。
「お嬢さま、こちらに置いておきますね。」
「ありがとうティア。あとは自分でやるわ。まだ頭の中整理したいから1人にしてくれる?」
「かしこまりました。夕食の準備が出来ましたらお伺い致します。」
「うん、お願いね。 …あっ ティアは私が10歳のときの"ごっこ遊び"の話、覚えてる?」
「食堂で話されていた事、ですか。 ──そうですね…」
うんうんと頷く。ティアは顎に手を当て考えているようだ。
「─確かにサラ様が仰られていたように、そのようなことを話していたと思います。『ウィル兄様とサラ義姉様の婚約式が素敵だったと王妃様にお話ししたら"じゃあ僕と婚約式ごっこをやろう"と言われてごっこ遊びをしてきたの!』と……」
「"僕と婚約式ごっこ"…?」うーん、と頭をひねる。
……確かに、お母様に連れられ8歳頃から王宮でのお茶会に参加していたのは覚えている。
王妃様とお母様は親友だから後宮の庭の片隅で私たち母娘と王妃様と…3人だけでは……なかった…!
ハッと思い当たることがあり、思わず立ち上がってしまう。
「お、お嬢さま…?」
「思い出したわ……!! 毎回ヴィンセント殿下とたまにエドガー殿下もお茶会に参加してた…!!」




