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私の執事の秘密のオシゴト。  作者: ruka
本編
83/135

81. くまのぬいぐるみの話。

物見塔を降りきると黒ずくめの人物が待っていた。

「どうかしたか?」

「…お忘れでないかと思いまして。」

とくまのぬいぐるみを差し出してきた。

「あ、くまのアシュクロフ!」

ンフッ、とヴィンセントが笑っているが

「…ヴィニー、"落とさないで"って言ったよね?」

とその人から受け取りながら睨むとサッと顔をそらされた。


「ありがとうございます。」

「とんでもございません。…殿下は落としたわけではなく、きちんと(わたくし)どもに預けていたのですよ。」

とフォローされてしまった。

「…ふふふ……ありがとう、ございます。」

ほぼ目しか見えない格好をしているがその目が弧を描いたので私もにこりと笑顔を返す。

では失礼します、とするりと闇に溶け、いなくなってしまった。


「すごい…かっこいい!!」と私が興奮するとヴィンセントが

「……俺とどっちが?」と子供のような拗ね方をする。

それが可笑しくて、愛しくて頬にキスをしてやる。

「…! マリア…」

と頬を押さえながら蕩けそうな笑顔をする彼。

だが巡回中の騎士たちに見られ

「ヴィンセント殿下〜」「ヒューヒュー!」「これから夜勤なんですから勘弁してくださいよ〜」

と茶化され、2人で恥ずかしくなる。


「…こんばんは、お仕事お疲れ様です。」

「みな、ご苦労」

と2人で騎士たちに挨拶をする。

「お心遣いありがとうございます。…殿下、また修練所来てくださいよ!」

「…わかった。今度行くよ。」

とヴィンセントは手を上げている。騎士らと仲が良いようだ。

「私も見てみたい!」

「え!…汗臭いだけだぞ?」

殿下そりゃないっすよ、やらこんな可愛い子きたら張り切るやつが出るな、とか言われながら話しをしていたら

「お前たち何をやっている。」

と低めの声が耳に入る。

「団長…っ すいません!失礼します!」

と騎士たちは急いで仕事に戻っていった。


「あ、騎士団長様…」

「こんばんは。マリア嬢……姫様のほうがよろしいですか?」

と爽やかな笑顔で言われ驚く。

「えっ、はっ?!なぜですか!」

「ふふふ、可愛らしい方ですね。陛下が羨ましいです。」

一体何が…と私は目を瞬くしかできない。

「…団長、マリアが驚いているからそれくらいに」

とヴィンセントが苦笑している。


「あ、騎士団長様…()()()はありがとうございました。」

だいぶ過ぎてしまったがまだお礼を言えてなかったと腰を折れば

「…とんでもございません。あれが職務ですから。」

と一瞬驚き、それから優しい笑みが返ってきた。

シャロンが言っていた『人の良い紳士』の言葉の意味がわかった気がする。

『しっかりとした大人の男性』なのだ。

…少し、前世の恋人を思い出し寂しくなる。

「……マリア、団長がいい男なのは認めるが、あまりそう…目を奪われないで欲しいな?」

とヴィンセントがまた拗ねている。

「…ヴィニーとは違いすぎるわね。」と意地悪を言えばますます拗ねる。

「姫様、そのへんで」と騎士団長が笑いながら私を諌める。

「ふふふ…さっき意地悪されたからお返しよ。」

と私が言えばヴィンセントは眉尻を下げている。


護衛も兼ねて、騎士団長と共に廊下を歩きながら話しをする。


「あの、私、勉強不足で騎士団長様のお名前を存じ上げなくて…」

「おや、それは失礼致しました。…私はエドワードと申します。エドワード・ウルフ」

「エドワード様…ありがとうございます!」

「そういえば娘のアンジェリカがずいぶんとお世話になっているようですね?」

「そんな!こちらこそお世話になりっぱなしです。」

と両手を横に振ると穏やかな笑顔を浮かべる騎士団長。

…あだ名が"熊騎士団長"なんて本当にどこから出てくるのかと思うほど、素敵で穏やかな方だ。

「……あだ名が気になりますか?」

「っ、あの……すいません…」どうやら顔に出てしまっていたらしい。

「…そういえば俺も聞いたことがないな。」とヴィンセントも興味があるようだ。


「……最初、言い出したのは妻、アンジェリカの母ですね…彼女なんです。」

「奥様が?」

「はい。………もう亡くなってだいぶ経ちますが。」

「っ…え、と……」

「ああ、気にしないでください。」

奥様を思い出したのか寂しそうにしながらも、幸せだった事を感じさせる顔をしている。

「…その妻が、彼女とは政略結婚で外国からの輿入れだったのですが顔合わせのとき自己紹介をしたら『エドワード…じゃあ貴方はテディなのね』と」

私はヒュッと息を呑むが、騎士団長は話しを続ける

「『これからよろしくね、私のクマさん』と言われ、それが周囲に知られまして…それからあだ名が"熊騎士団長"になったのです。」

「…そう…だったの、ですか……」

「…マリア?」「っ、姫様!大丈夫ですか?何か粗相を…」

と急に2人が焦りだしたのだが、私は目を瞬く。

「マリア…」とヴィンセントに頬を拭われそこで涙が出ていることに気付いた。

「……あれ?なんで…」と気付いてしまったらぽろぽろと、ますます涙が出てくる。


()()()()()()での、エドワードの愛称は『テディ』。

そしてテディと言えば……『テディベア』──。


──『私だけ』では、なかった…


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