79. "2人とも好き"な話。
「…マリアから『見られている』と聞いて調べていたが、神殿からの『監視』の目だと突き止めた。」
ああ、だから"忙しくて会えない"、と…
「セリス・ワイズがあんなことをしでかして、力が移ったのだな?」
ゲイン副神殿長は黙っている。
「……まあいい。調べればすぐにわかる。で、だ。」
「このあたりを封鎖している結界魔道具はどこだ?」
ヒュッとゲインが息を呑む。
「……そこか。」と幌馬車を叩き斬るヴィンセント。
─彼は一瞬、ゲインが視線を寄越したのを見逃さなかった。
「あああああ!!」
叫び声が響く。
「なんて、ことを…!!」
とゲインはヴィンセントに飛びかかろうとしたがびたんっと突然地面に伏した。
え?と思うと彼の背中に黒い人影が乗っている。
…この人物は…いわゆる、"御庭番"というやつだろうか?
「…ヴィンセント殿下、ご無事ですか。」
「ああ、大丈夫だ。」
「……後ろは全て、マリア様が?」
「う……」やりすぎ、た?とヴィンセントを見れば眉尻を下げている。
とその時ヒュ〜、ドーンと空に花火が上がる。
『──マリアッ』
とイヤーカフにシャロンからの声が聞こえる。
「っ、シャロン!」
『無事ですの?!全然連絡がつかないから心配で心配で…!!』
「ごめん…!ちょっと色々あって…」
『というか花火の時間になったら集まろうって…』
「シャロン嬢、マリアは今日はそちらには行かない。」
『…っ?!ヴィンセント殿下?!』
「ヴィニー様…?」
「事情はあとで」
ヴィンセントから手を引かれる。
「後処理を頼む。」
「かしこまりました。…馬はあちらに。」
「ありがとう。」
と鞍の載った馬が1頭。
わけがわからなくて目を瞬いていたが
「…マリア、乗馬の経験は?」「…あり、ません。」
そりゃそうか、とヴィンセントは独りごちているがひらりと馬に乗り「手を」と私に促す。
「…時間ないから、とにかく乗ってくれないか?」
と恐る恐るヴィンセントの手を掴むとぐいっと一気に引き上げられ彼の前に横座りする形になる。
「……やっぱり軽いな、マリアは」
と微笑んでいるが私は混乱から黙ったままだ。
「………大丈夫か?」と心配そうに覗き込まれ、その顔が近くてびくりと体が跳ねる。
「……だい、じょうぶで、す……」
「…そうか。少し揺れるから怖かったらしがみついててくれ。」
と言うや否やハッ、と馬を走らせる。
ぐんっと進行方向とは逆に重力がかかりヴィンセントにもたれかかる形になり、そのまま彼にしがみついた。
ゆっくりめだが走る馬の蹄の音と、次々上がる花火の音と、ヴィンセントの心臓の音とが頭を痺れさせる。
ヴィンセントなのに、アシュクロフの匂いがしてその安心感から私は思わず彼の胸に頬を擦り寄せた。
と、とたんに心臓が早鐘を打ち始めるのが面白くて、ふふっと笑いがもれる。
「……マリア、集中が途切れる…」と彼の口から零れた。
10分も走っていないだろうくらいに馬が足を止める。
顔を上げると…城門?
「降りるから離してくれるか?」とヴィンセントから言われ代わりに鞍にしがみつく。
さっとヴィンセントが降り、「おいで」と手を広げているのでその中に降りる。
「歩ける?」と聞かれるので頷くと城門の脇にある物見塔を登っていく。
まだまだ花火は上がっているが、そろそろ終わるはずだ。
石造りの物見塔は少し高くて、2人で息を切らしながら頂上へ。
「……はぁ…はぁ…結構、高い………」
「す、まない……だけど──」
「──これを、見せたくて。」
と外へと続く扉を開けると、街が一望できる場所だった。
普段は騎士がいるが今日は頼んで誰もいないとのこと。
休憩用のベンチが置いてあるのでそこに並んで座る。
まだ少し、花火があがっている。
「綺麗……」
ようやく呼吸も落ち着き、眺める余裕がでてきた。
今は"マジックアワー"というやつで、空は夕陽のオレンジと夜の闇の半々になっている。
「………きっと、私だけ、知らなかったんですね。」
だがヴィンセントは答えない。
シャロンの言動にしろ、家族の言動にしろ…私だけが、おそらく気付かなかったのだ。
…否、気付いていたのかもしれないが、気付いていないフリをしていたのかもしれない。
と花火が全て打ち終わったらしくあたりが静かになる。
──鎮魂祭の目玉は、花火が終わってから。
しばらくすると、街のあちこちから気球灯籠が上がり始める。
そう、これが毎年の恒例行事。
日本で灯籠流しをするように、こちらでは気球型の灯籠を空に上げる。
紐がついていて凧のような灯籠だ。
いつもは上げる側なので下から眺める方だが…
「すごい…綺麗……」
もう語彙力などない。"綺麗なものは綺麗"、ただそれだけだ。
街の屋根より少し高いくらいに上がっている灯籠たち。
風でゆらっと揺れたりして、ふわふわと蛍のようだ。
「……マリアと、見たかったんだ。」
ヴィンセントが口を開く。
「子供の頃から、マリアと2人で見たいとずっとずっと…」
と、スッとベンチに座る私の前に片膝をつく。
ズボンのポケットから小さな箱を取り出し、中を見せながら
「──マリア。俺と結婚して欲しい。」
箱の中身は青い石の付いた指輪。
「……あ、この石…」とパッとヴィンセントの顔を見れば
「うん、あの魔石だ。」
アシュクロフがくれた、セリスの力で砕け散った、ネックレスと同じ石。
「…元々、この指輪を作るときに割れた欠片で出来ていたんだ。」
「そう、だったんです、か…」とそっと石を撫でる。
「わ、たし…は………」
「……マリア、俺は…ヴィンセントでも、アシュクロフでもなく…俺という"ただ一人の男"がマリアという"ただ一人の女性"を妻にしたいんだ。」
と真っ直ぐ見つめられ、口を噤んでしまうが
「──そんなの、殺し文句じゃん…」
と呟きと共に涙が零れる。
「…アシュクロフを忘れようと、最後にしようと、今日来たのに……」
「……黙ってて、すまない。いくら謝っても済む話ではないと、思ってる…」
「だけど私は、もうヴィニー様も好きなんです。」
「…え。」
「"アシュクロフ"を想ったままじゃ、貴方に悪いと思って…最後の思い出にしようとしたのに。」
「両方選んでいいとか、そんなのどうにかなっちゃいそう…」
と笑えばがばりと抱きしめられる。
『書き手はわかっている』だが『読み手にはなるべくバレないように』と書いていくのがこんなにも難しいのかと…




