78. 貴方の"色"の話。
「ア、シュ……うわっ…ちょ、」
割り込んできた人がなぜか私の腕を掴んで引っ張っていく。帽子もどこかに転がっていってしまった。
「マリア!マリアッ」
とアシュクロフが呼ぶ声がするがどんどん連れて行かれる。
「だれ?!何するのっ」
「静かにしろ。」
と掴んだ腕を後ろに捻られ何か腕輪のようなものを嵌められる。
「痛い…!」
「黙ってれば傷つけず連れていってやる。」
恐怖と混乱とが頭を支配するが歯を食いしばり、魔法を使おうとするが発動しない。
「…え。」まさか。
「魔法は使えないぞ。その腕輪は魔封じだからな。」
「……っ」
そうしている間にもどんどん人気のない裏路地へ連れて行かれる。
声をあげようとも思ったのだが…腕輪を嵌められたあと背中に押し付けられるものがあり、あげることができなかった。
周囲の人も祭りの喧騒のせいでか気付きそうで気付いてくれない。
少し開けた場所へ出る。そこには1頭立ての幌馬車が1台と破落戸が4人。
着く頃にはだいぶ冷静さを取り戻していたので、シャロンの言っていた破落戸は彼らか…と観察をする。
と、私を連れてきた男が幌馬車に向かって「このお嬢さんか?」と聞いている。…まだ他に誰かいるのか。
『ああ…大丈夫だ。……君は、"マリア・クローヴィス嬢"だね?』
「………」
『…だんまりか。まあいい。誰かに気付かれる前に…ッ?!』
と幌馬車の男?は突然焦りだした。
瞬間、自分の腕が自由になり後ろから誰かの腕が腰にまわされる。
「──俺の、マリアに、何をする。」
地を這うような低い、怒気が籠もっているが今日1日聞いていた声──
「…ア、シュ……」
帽子を被っていたはずだが急いで来てくれたのかなくなっている。
「…マリア、大丈夫か?」
といつもの調子で聞いてくる彼に泣きそうになりながらも首を縦に振る。
「大丈夫…」
あ!と腕輪を外そうとするがなぜか外れない。
「んっ……なんで…」
「……魔封じの魔道具か。…面倒くさいものを。」
『それは"聖遺物"だぞ!壊すなど考えるなよ…!』
と幌馬車から声がするが
「……そうか、なら大丈夫だな。」
とアシュクロフは腕輪をパキンっと壊してしまった。
「え?は?」私が目を見張り驚く。
「大丈夫。こんなものもう必要ない。」
彼が、アシュクロフが言うことが、よくわからない…
というか私を掴んでいた男は…?と見ると足元に転がっていた。息はしているようだ…
腰に手を回されたまま少し幌馬車から離され
「マリア、あいつらと遊んでくるから、ここから絶対動くなよ?」
と優しく言われ、私はクラクラと軽い目眩を覚えつつも頷く。
──予感は、あった。
私の額にキスをし、破落戸に向かう彼。
──彼の手には、白く輝く"片手剣"。
──どうして、貴方が?
あっという間に2人、男を斬り伏せる。血は出ていないから昏倒させているのだろう。
と少し離れたところから小さな火球が彼目掛けて飛んでくるも、それを斬り落とし片手剣を弓に変え撃ってきた相手を射る。
だが、武器を作り変えたせいか、彼に変化が起きる。
見慣れたいつものオレンジ色の髪はさらさらと、最近見慣れてきた銀色に─
──見たくは、なかったかもしれないが目が反らせない。
──『どうして』という思いが私を支配する。
ちょっと前まで私を見つめていた茶色の瞳は、この国に、唯ニ人の─濃紺色に──。
──予感は、あった。
──あの人をよく見るようになって、背格好が似ている事。
──髪の長さも、眉の形も、唇も瞳も。
──声も字も………私を見つめる表情も。
『お、前は…!!』と幌馬車の中から声が響く。
「ん?……ああ、武器を作り変えたから魔力が足りなくなったか。」
と彼は自分の前髪を引っ張っている。
『ぐ……っ 斬り伏せろ!そこにいるのはマリア嬢のただの従者だ!』
「…馬車ごと斬ってやろうか?」
「兄ちゃん、そこまでだ。」
…彼に気を取られて地面に伏していた男が起き上がっているのに気付かなかった。
「……っ」
「…お嬢さんも、何に気を取られていたのか知らないが…最後まで気を抜いたらダメだ。」とニヤリと男は口の端を歪めていて、私の首には刃物が光る。
「マリアッ」と彼が私を呼ぶ。
だが私は──
「…貴方は、誰?」
「……っ!」
一気に彼の顔が苦痛に歪む。
「…お嬢さんアンタ何を」「ちょっと黙っててくれる?」「はぁ?」
「マ、リア……」
「私は、貴方の手を取ってもいいの?」
はく、と彼が何かを言いかけて口を噤むも
「……マリア…俺、が誰であろうと…君への気持ちは、絶対に、絶対に変わらない。
それだけは、信じてくれ。」
と真っ直ぐ、濃紺の瞳に強い光が宿る。
「──わかった。信じる。」
と私の首に当てられている刃物を握る手ごと凍らせる。
「…は?」
「アンタはちょっと凍ってて。」
と男を首まで一気に凍らせる。
そうして彼の方へ歩いていく。
「…私、これでもちょっと怒ってるの。」
と笑顔で歩み寄ればじりっとほんの少し彼が後退る。
「貴方も凍ってて」と彼と対峙している男も凍らせ、地面に伏している2人は土塊に閉じ込める。魔法を撃ってきた男は木のそばにいたので木で拘束する。
彼の前に立って、にこりと笑えばひくっと彼がぎこちない笑顔を見せる。
だが─
「素晴らしい!まさかここまでとは!」
と無粋な男の声がする。
「……ゲイン副神殿長。」
「…さすがに殿下は私の顔を知っていましたか。」
ヴィンセントは私を彼から隠すように立ち塞がる。
「マリア嬢の従者だと思っていましたが…殿下だとは。」一体どちらが本物なんですかね?と言っているが
「……マリアに何か用か?」
「ふっ……いいでしょう。…彼女は、"聖女"に選ばれたのですよ!」
とゲイン副神殿長は喜色満面だ。
「それで?」とヴィンセントは吐き捨てるように言う。
「…っ、ですから彼女を神殿が保護」「その必要はない。」
「俺が守るのだから、神殿から保護してもらう必要は、ない。」




