76. 夏祭りの話。
アシュクロフへの手紙を託してから数日。
まだ返事はない。…このまま返事はない、と思っていたのだが……
学園も夏休みに入り2日ほど経ち、明日はいよいよ鎮魂祭の日だ。
そういえば"夏"なのだが、日本ほど暑くはない。
湿気がなくカラッとしているが日差しはじりじりと暑い、といった感じ。
そしてサラがいよいよお腹が大きく目立つようになってきた。
臨月まではまだあとひと月ほどあるがだいぶ大きいし、よく動くかなり元気な子のようだ。
最近は決まった時間散歩をして体力作りに励んでいる。体力がなければ出産に耐えられないからだ。私も休みの日などに付き合った。
あと、名前の最終候補も決まったらしい。
こちらは、当たり前だが、エコー検査がないので性別は生まれるまでわからない。
なので今回は名前候補をそれなりの数出しておいて生まれたあと候補から決めるそうだ。
まあ、中には襲名制をやってるとこもあるらしくたまにちぐはぐな子もいたりするが…
とにかく母子共に、元気に生まれてくれればと願ってやまない。
そんなことを思ったりしながら、四阿で読書をしていたのだが、ティアナが1通の手紙を持ってきた。
「ありがとう!…差出人は…」……無記名だ。
少し、心臓が期待で跳ねる。
恐る恐る封を切り中に入っていた便箋を開くと
『わかりました。私も、お待ちしております。』
と、たった一行だが、確かに彼の字だった。
泣きそうになるのを、ティアナがいるのでなんとか堪える。
「…お嬢様?」
「…手紙、ありがとう……」
いえ、と彼女は少し怪訝そうだがそのまま下がっていった。
──会える。…アシュクロフに……
ハッと私は自室へ急いだ。
─明日着る服、決めなくちゃ…!とクローゼットを全開にし品定めしていく。
しばらく洋服たちとにらめっこをし、決めたのは
白の長めの半袖パフスリーブブラウスに紺色の細いリボンを襟元に結んで、水色のトレーンスカートと編み上げサンダルにした。
あとは明日、ティアナにヘアアレンジとメイクを手伝って貰って……
その夜はまるで遠足前の子供のようだった。
なかなか寝付けなくて、いやでもちゃんと寝ないと楽しめない!と目を瞑るも…いろいろ浮かんでしまいやはり眠れない。
ああ、これは無理に寝ようとしないほうがいいな?ともう諦める。
するとなぜかするっと眠れるのだ。人間って不思議だ…
──鎮魂祭の日の朝。
よく晴れている。というかこの日は晴れることが多いそうだ。
そして一晩経って、少しは冷静さを取り戻していた。
朝食をとり、昨日時間をかけて選んだ洋服に着替え、ティアナにヘアアレンジなどを頼む。
暑いので編み込みでアップにして貰った。メイクは黄色で可愛らしく。
帽子を被るよう言われるが髪型を気にしたらちょっとやそっとじゃ崩れないから大丈夫です、と言われたのでちゃんと被っていく。熱中症になっても嫌だしね。
今日はポシェットを持っていくことにした。
全身鏡で最終チェックをし、ティアナからもお墨付きをもらったところでシャロンが迎えに来てくれた。
「おはよう、シャロン、トラビス君。」
「おはよう、マリア。……返事きましたのね?」
馬車に乗り込み、シャロンからさっそく聞かれるのでこくりと頷く。
「…よかったわね。でも、何かあれば…必ず連絡するのよ?」
「うん。わかってる。…ありがとう」
夏祭りも兼ねているので街はもうだいぶ人が出てきている。
大通りからは少し離れたところで馬車を降り、あとは歩いていく。
待ち合わせの文房具屋前まで3人で向かい、トラビスが懐中時計を見ている。
「…時間何時だったっけ?」
「…11時よ。」「…あと10分くらい。」
「……マリア…気を付けてね。」
「…シャロン……本当にありがとう。トラビス君と楽しんでね!」
ええ、と微笑みながら頷く彼女。
そして少し心配そうにしながらも2人は喧騒に消えていった。
──軽く深呼吸をして、時間になるのを待つ。
日本では、スマホや携帯が普及してしまったからすぐに連絡が取れてしまいこの『来るかもわからないまま、待つ』というのがあまり多くはない。
だけど小学生くらいの頃は、こうやって友達を待っていたな、なんて懐かしく思い出していた。
『──お嬢』
と急に耳に入る。
え、と空耳かと思い軽く周囲を見渡せば
『─そのまま店の裏手に』
とイヤーカフから聞こえる。
久しぶりに聞いた彼の声に、心臓が早鐘を打ち出す。
また深呼吸をして、そっと文房具屋の裏手に向かう。
緊張から少し、吐き気がしてしまう。
大丈夫、大丈夫…とゆっくり軽い深呼吸をしながら歩いていくと
──見慣れた、彼の姿が目に入った。
今日は目深に帽子を被っている。
半袖の開襟シャツに灰色のズボン。
あちらも、私を見つめて待っている。
「ア、シュ………」
私は小走りで彼に近付き、そのまま抱き着いた。
彼も…アシュクロフも私をぎゅっと抱きしめ返してくれる。
「アシュ…!アシュクロフ…!」
「っ、お嬢…」
しばらく無言で抱き合っていたのだが人が来たのでどちらともなく離れる。
「…アシュ、なんで……」
「…すいません……言い訳はしません…」
「……どれだけ罵ろうかと思ってたの。」
「……っ」
「でも、顔見たらどうでもよくなっちゃった。」
と笑うと彼は一瞬驚いた顔をして、眉尻を下げた。
「お嬢「今日は」
「今日は…せめて、名前で……」──今日で、"最後"だから。
「わか、りました……」
「あと口調もね?」
アシュクロフは少し困った顔をしながらも頷いてくれた。
そのうち、洋服の絵をTwitterとかにあげられたら、と妄想だけ捗ります。




