74.
あの日の翌日、登校すると大変だった。
あの『黒いモヤ』を見ていたのは私とヴィンセントだけだったが、セリスが何かをしたというのは明白だったようでクラスメイト全員から大丈夫かと質問攻めに。
エリ先生もかなり心配してくれていて私の顔を見るなり泣いてしまった。よくよくお礼も言ったが泣き止んでもらう方が大変だった…
1日で話は2年生にまでいっていて生徒会に顔を出すとエドガー始め2年生みんなからまたも質問攻めに……
アンジェリカからの「もうそれくらいにしなさい」の鶴の一声で収まったが。
我が国はなかなか平和な国なので、事件が起きるとみんな興味津々なのだ。
…私が当事者でなければよかったのだけど。
ニコラスは、放課後のお茶会でお礼を伝えた。
抱きしめられたのには困ったが、仕方がないとその時は諦めたのだけど、それから隙あらば触れてこようとするのを避けるのが大変になった。
ニコラスから触れられるのは、どうしてもやはり…気色悪い……
そうして、あれから1ヶ月ほど経った頃。
「……?」
「…マリア?」
図書館でいつもの3人で今度行われるテストの勉強をしていたのだが…
「…やっぱり」
「マリアちゃん?どうかした?」
ちなみにトラビスはあれから私を"ちゃん付け"で呼ぶようになった。
ほぼ毎日一緒にいるのもあって以前より仲良くなったのだ。
「……ここ最近、どこからか"視線"を感じるの。」
と図書館だからと潜めていた声をさらに潜めて2人に伝える。
「……どの方角からなのかわかる?」
とシャロンから聞かれるがもうなくなってしまったので、わからないと首を横に振る。
──本当にここ数日のことだ。
「授業中や訓練中は塀の向こうから、屋敷も窓掛けを開けてると見られてる感じがする。」
と帰りの馬車の中で話すとシャロンとトラビスが眉をひそめる。
「…それ、おじ様やヴィンセント殿下には…?」
「お父様には伝えたわ。とりあえず窓掛けを引いておきなさい、って。ヴィニー様は今度会うからその時に…」
ヴィンセントとのお茶会のことは伝えた。アシュクロフもいなくなってしまったし、彼に向き合うと自分への決意も込めて─
「私も探ってみますわ。」
「うん…」
「気のせいだといいね……」
と3人で身を震わせた。
それからヴィンセントとのお茶会の日。今日は侯爵家に来る日だ。
ヴィンセントとは手紙のやり取りが以前より増え、休みごとに侯爵家と王宮とを交互に行き来している。
「ごきげんよう、ヴィニー様」
「ごきげんよう、マリア」
今回はよく晴れたので庭の四阿でのお茶会だ。…前回は雨に降られてしまい室内だった。王宮内の散策が出来たのでそれはそれで楽しかったが…
ベンチに並んで座り、しばらく歓談していたのだがここでもやはり…
「……っ」
「…マリア?」
屋敷を囲む、塀の向こう─確実に何かが見ている。
「…実はここ数日、見られているのです。」
「……俺を見ているのかとも思ったが…対象は君だったか。」
「気付いていたのですか?」
「まあ、よくあるからな……」
とスイっと彼も私が感じた何かの方へ視線を寄越す。
「……消えた。」「…ですね。」
なんとなく、ぎゅっとヴィンセントのズボンを握ってしまうも彼はそっとその手を包み込んで握ってくれた。
「…大丈夫、俺がいるから。」
「…はい。」
……しかし本当に、何なのだろう…?
それからしばらくお茶を楽しんだあと「俺の方でも調べてみよう」と言い残しヴィンセントは帰っていった。
自室へ戻ると、楽しかった分やはり寂しくなる。
そんなとき、イヤーカフを触るクセができた。
この1ヶ月ほど、イヤーカフは外さなかった。というか、外せなかった…
ネックレスも失くなってしまった今、彼と私を繋ぐ唯一のモノ…
─"もしかしたら"、の思いが拭えなかったから─。
たまに話しかけもしてみたが、もちろん返事はない。
部屋でぼーっとしていたのだがティアナから夕食は何時です、と伝えられる。
…そういえばティアナの旦那様をようやく紹介してもらえた。
"似てたら嫌だな"とかも思ったが、似ても似つかない人だったから少しホッとした。
短髪でアシュクロフより筋肉質のガタイのいい好青年で、ティアナの好みはこんな人なのかと目を瞬いた。
2人はとても幸せそうで、ちょっと羨ましかったが心から祝福し旦那様のほうには頑張ってとエールを送っておいた。
そしてその日の夕食時、お父様から「1通だけならアシュクロフに手紙が出せる」と聞かされかなり驚いた。
行方は明かせないが手紙なら渡せる、と。
なぜかと思ったのだが…どうやら私は自分でも気付かないうちに食が細くなっていたらしく見かねたお母様が頼んだのだとか。
「……気付かなかったです…」
「そうだろうとは思ってたの。…ヴィンセント殿下もお菓子を全然食べなかった、と心配してたわ。」
「ごめんなさい…」
「責めてるわけじゃないのよ?それだけはわかってちょうだい。」
とお母様の言葉に頷く。
「…まあ、確かに突然だったものな。」とウィルフレッド。
「急ぐものでもないから書くなら、ゆっくり書きなさい。」
「はい。」
お父様からの言葉に甘え、ゆっくり文面を考えることにした。
「あ、ちなみに返事は…」
「…それはわからない。貰えるかもしれないし、ないかもしれない。」
…出さないとわからないということか。
「わかりました。…ありがとうございます。」
それから寝る前に文面を考えてみたのだが、これがまったく浮かばない。
「返事、貰えないと考えたほうが…いいだろうな……」
とぼんやり考えるも…
「………会いたい……」
こりゃダメだな、と布団に潜って寝ることにした。




