70.
「──消失したようです。」
「…そうか。」
ここはギレスビア国に1つある島に建つ神殿の一室。
豪奢な神殿服を着た男と少し簡素な神殿服を着た男が声を潜めながら話している。
「"次"はもう間もなくわかるかと。」
「うむ。…あの娘は思い込みが激しくて御しやすかったが…」
「……まさか浮いた話ひとつないヴィンセント殿下に"相手"がいたのは誤算でしたね。」
「…お互い不可侵だからな、仕方がない。」
先にわかっていれば処分もやぶさかではなかったが消失してしまった今は"次"を素早く捕まえなくては、と男は考える。
「あの娘はどうされますか?」
「"次"が判明するまでは閉じ込めておけ。ミアも一緒にな。」
「…それと、判明しだいすぐに捕まえられるよう、よく準備しておくように。」
「はっ。」
と簡素な神殿服を着た男は部屋を出ていった。
「──これで娘のミアに出てくれれば諸手を上げて喜ぶんだがな…」
豪奢な神殿服を着た男──ミアの父親、マクシミリアン・クロスベル神殿長だ。
部屋には「はぁ」と彼のため息だけが響いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……うぅ…暗い怖い暗い怖い……」
1階のトイレは食堂へと続く渡り廊下の手前に位置している。
保健室・学園長室・倉庫・トイレといった並びで保健室からはさほど遠くはないのだが学園長室と倉庫が意外と長く、暗闇も相まってすごく遠くに感じてしまう。
「…大丈夫か?まさかマリアが"おばけ"が怖いとは思わなかったな。」
くくく、とヴィンセントは笑っているが私からしたら
「笑いごとではないです〜〜っ」
「おっと、転けるなよ?」
今、私は怖いのでヴィンセントの後ろに彼の服を掴みながら下を向いて歩いている。
灯りを点けたらと思ったのだが周りが驚くかもしれないしそこまで遠くないからと却下された。…ヴィンセントはにやにやしていたので正直"確信犯だな"とは思っているが何も言えない。
「ヴィニー様は平気なのですか…?」
「ん?俺は夜目が利くほうなんだ。」
「そう、なんですか…」
いざトイレに着いたのだがもちろん、暗い。
「暗い………」
「ほら。」
とヴィンセントがほわほわと大きめの蛍のような光の玉を3つほどトイレの中に飛ばしてくれた。結構明るい…
「……ここまで、それでよかったのでは…?」
「…………」
ジト目を向ければ顔を背け知らんぷりをする彼。
「…早く行かないと消えるぞ。」
「!!」
…しかしこの玉はどういう魔法なんだろう?あとで聞いてみるか…
トイレを済ませ手洗い場で、歯磨きが出来ないのでとりあえず口を濯いでおいた。
そしてトイレを出る頃、光の玉はすうっと下に落ちて消えてしまった。
照明弾のような原理なのかな?
ヴィンセントは少し離れた場所で待っていてくれた。
「お待たせしました。」
「……では、戻ろうか。」
と今度は手を差し出してきたのだがさっと後ろに回り込み服を掴む。
「…戻りましょう。」
くくく、とまたもヴィンセントが笑っているので急かすようにぐいぐいと押すが
「……あれは、何だろうな。」と校庭の方を彼は見ている。
…校庭?校庭……
『──学園の校庭を真夜中、徘徊する幽霊がいるらしいわよ。』
『嘘だあ。』
『結構目撃談があるのよ。なんでも入学前に病気か事故かで亡くなった子が学園に通いたくて彷徨ってる、とか──』
とサラの声が蘇る。
……ま、さかね…とちらりと校庭を薄目で見ると、人影がうろついているのが見えた─
「〜〜っ!!」
と怖くなりヴィンセントに抱きつく。
「わ!……え、なんだ?ごめん? あれ、警邏してる騎士だぞ?」
──警邏中の、騎士…?
恐る恐る顔を上げ、よくよく見ると確かに人影は騎士であった。
「……ごめん。いたずらが過ぎたな。」
とこちらを向くヴィンセントが頭を撫で、額にキスをしてくるも私は涙目でふるふる震えている。
「保健室へ戻ろう。あそこは明るいから、な?」
こくこくと頷き、彼が差し出してきた手を握って保健室へと戻った。
保健室の入口にいる騎士団長からヴィンセントは軽くお叱りを受けた。
『可愛らしいのはわかりますが度が過ぎれば嫌われますよ』と。
…ヴィンセントはかなりしょんぼりとしていたので、まあ許そう。
ベッドサイドの椅子に座り項垂れているヴィンセント。
「……すまない、つい…」
「いえ…もう、しないでくださいね」
「わかってる。もうしない…」
さて寝ようかなとも思ったのだが、どうも寝られる気がしない。
「……寝られないか?」
「そう、ですね…でも、横にはなっておきます。そのうち寝てしまえるかも」
とよいしょっと布団に潜る。
あれ、そういえば制服の上着を着ていないと気付く。
「ローブとか…どう…」
「エリ先生が脱がせていたよ。荷物類は更衣室の荷物入れに入れたままだ。」あれは鍵がかかるから防犯は大丈夫、と。
「あと教室に残っていた荷物はシャロン嬢が持ち帰った。」
「なるほど、わかりました。」
シャロンにお礼をよく言わなければ。あとエリ先生にも…
ヴィンセントが「消すぞ。」とベッドサイドのランプをふっと消す。
一気に暗くなる。布団に潜っているからかそこまで怖くないのだが…寝付けそうには、ない。
「…眠るまで起きているよ。」
「え。」「というか徹夜でも平気だ。」
「……じゃあ、おしゃべりしましょうか。」
「そうだな。」
少し冷える、と隣のベッドから1枚取ってきて包まるヴィンセント。
「あ……そうだ、私…王宮の迷路で迷子になったんですよね?小さい頃。」
「…思い出したのか?」
「はい。さっき…眠っているときに──」
と夢?の話しをする。
アシュクロフの手の話しまでしてしまったのだがヴィンセントは穏やかな顔で最後まで聞いていた。




