67. 視察の話。 その②
「ああ〜〜…」
うう…この程度で気が散るとかまだまだだわ……
「マリア、大丈夫…?」
とがっくりしていたらミアが心配そうに声をかけてきてくれた。
「ミア…ありがとう〜」
彼女とは訓練でかなり仲が良くなった。名前も呼び捨てに出来るくらいに。
「やっぱり気が散るよね。」とミア。
「うん…でもこれくらいで散らしてたらいつまでたってもダメな気がする…!」
「そうね!私も頑張るわ。」
と2人で気合を入れ直す。
ミアはやはり私より上達が早くてもう5本くらい点けられるようになっているが、まだ集中力を最大に使っているためそのあたりから上手くいかないようだ。
マスターするとパパパッと点けられるようになるらしいので、そこまで頑張りたい。
と向こうのほうからどよめきがあがる。
あっちは…剣術専攻の?
「? なんだろうね?」「ね…?」
とミアと2人でそちらを見てみると誰かが模擬戦をしているようだった。
「行ってみる?」
「え」
声をかけてきたのはエリ先生だった。
「このままじゃ集中できないでしょ?…私も気になるし。」
とウインクするエリ先生と3人で見に行くことに。
人垣の空いてるとこへ行くとシャロンと……相手は、ヴィンセント…?
─どうやら2人が模擬戦をしているようだ。
2人の得物は学園の模擬剣だが空気は真剣そのもの。
キンキン、と鋭い金属のぶつかり合う音が響く。
お互い一歩も引く様子がない。シャロンがほんの少し押しているように見えるが…
あと一歩というところでヴィンセントが好転しシャロンが膝をつく。
「…っは、はぁっ、はぁっ……さ、すが殿下ですわ……っ」
「……っ、シャロン嬢…っこそ…はぁっ、ここまでとは…思いませんでした…っ」
と2人握手をしお互いを讃えあっている。
ヴィンセントがシャロンの手を引き立たせたその瞬間、ギャラリーからわーっ!と拍手と歓声が上がる。
2人は一瞬驚くものの手を上げギャラリーに挨拶をしているがシャロンが私に気付き駆け寄ってきた。
「マリア!見てましたの?」
「うん。シャロンすごかったね!また腕上がった?」
「ふふ、負けましたが、ありがとう。…さすが殿下ですわ。」
と汗を拭いている彼女は悔しそうな顔をしつつもどこか嬉しそうだ。
「さ、戻りましょうか?」とエリ先生から言われ私もシャロンに手を振り訓練を再開する。
「シャロンさんてすごいのね。」
「シャロンは魔力が低いから…小さい頃から剣術を習ってるの。」
「私は剣の腕はからっきしだったから…魔力があってよかったわ。」
とミアとしゃべりながら魔道具の方へ戻るとセリスが魔道具を触っていた。
「…セリス様も練習なさる気になりましたか?」
とミアが少し冷めた声で尋ねている。
「………私がやるはずないわ。だって私は聖女なのよ?…こんなものは下賤の者がやるのよ。」
と彼女はフンッとさっきまで座っていたであろうベンチに戻ろうとしたのだが
「懐かしいな。私もよくやっていたよ。」
とヴィンセントが私たちの後ろから声をかけてきた。
「ね?エリ先生。」と同意を求めているが
「そうね。でもヴィンセント君は最初からほぼ出来ていたんじゃなかったかしら?」
とエリ先生はくすくす笑っている。
「…参ったな。でも訓練はよくやっていたんだ。」
と言うやいなや1つ飛ばしで灯りを点していくヴィンセント。
私とミアはもう感嘆の声しか出せない。
「さすがヴィンセント君ね。剣術もだけど操作の腕も上がったんじゃない?」
とエリ先生が手放しで褒めている。
「コツとかあるのでしょうか?」とミアが食いついている。
「うーん…ひたすら練習しかないと思うが…まあ、がちがちに硬まっていると出来ないかもな。」
「確かに、つい体に力が入ってしまいますね…」
ミアは、頑張ってとヴィンセントから励まされている。
私は「あとはもう練習しかないのかあ…」と独りごちる。
「─マリ「ヴィンセント殿下っ」
ヴィンセントが何か言おうとしたのだがセリスが遮るように声をかける。
「……なにかな、セリス嬢」
「わ、私にも魔法を教えてくださいませ!」
「…今さっきやらないと貴女は言っていたのではないか?」と小さくため息をついている。
「そ、れは…あんな…あんな人に教わりたくなどないからです。」
とセリスはエリ先生を睨みつけているが
「……エリ先生はとても優秀な方だ。それでも教わりたくないなら黙って見学をしていなさい。」
とヴィンセントが冷ややかな声で返している。
「………っ」
セリスはとても悔しそうだが自分からやりたくないと言ったのだから自業自得だ。
もう話しは終いだと言わんばかりにヴィンセントは私の方を向く。
「マリア嬢、一気に上達するかもしれないことを試してみても?」
「え。」
「ほら、手を出して。」
とヴィンセントから言われそっと手の平を上にし、彼の前に差し出すと
「…………わかるか?1本点けるのはこれくらいの魔力なんだ。」
少しどきどきしてしまって最初はわからなかったが軽く深呼吸をして目をつぶり自分の手の平に集中する。
「…………あ。」かすかに魔力を感じる。
自分で思っている以上に小さな魔力だった。…なるほど、米粒くらいかな?
「…っ わかりました。ありがとうございます!……あ、ミアも…」
とミアにもと思ったのだが
「気持ちは嬉しいけど、私は他人の魔力を感じられる程適性は高くないの。」
と残念そうだ。
「ちなみにどれくらいだったの?」
「えっとね、米…うぅん、脱穀前の麦粒わかる?それくらいなんだけど…」
あぶないあぶない。この国に『米』はない。
「麦…わかるわ。あの1粒くらいなのね?」
と聞いてくるので首肯した。




