66. 視察の話。
生徒会の仕事が増えた生活が1ヶ月ほど続きようやく慣れてきた頃…
─事件が起きた。
今朝は登校すると玄関で持ち物検査をされた。
騎士もいてなんだか少し物々しい。
なんだろうね?と3人で話しをしながら教室へ行くと中へ入るやいなや
「「おはようマリア!」」
と見事なハモリ声に挨拶をされる。
「おはよう、アリシアとエリザベス。」
同じ顔の美少女が2人、私の前に立ち塞がる。
彼女らはティガー伯爵令嬢で双子だ。
(ちなみに髪を下ろしているのが姉アリシアでツインテールが妹エリザベスだ。家族でも間違うらしくその防止のためだとか。)
「「マリアは何か聞いてませんの?」」
「…? なんのこと?」
「今日は視察があるらしいですわ!」
「たぶんヴィンセント殿下が来ますわ!」
とアリシア、エリザベスがそれぞれ両手を合わせながら私にキラキラした瞳を向けてくる。
「……知らないけど。」
残念ながら本当に何も知らない。…直近の手紙にも、何も書いていなかった。
「「そうなんですの…でもきっと殿下がいらっしゃるのですわ!」」
とまたハモリ声でしゃべっている。
「とりあえず席に行かせて?…後ろがつかえてるから。」
…後ろ、少し離れたところでセリスがミアを引き連れてすごい眼差しを向けてきている。
「…それで、今日何があるって?」
私の席まで双子は付いてきたのでそのまま聞いてみることにした。
「お父様と」「お兄様が」
「「お話ししているのを聞いたのですわ!」」
いつ見てもこの見事な連携はさすが双子というべきか。
ティガー伯爵家は騎士を多く輩出する家系だ。
もちろん現騎士団にも家族が所属している。
今日の警備の話しを耳にしたのだろうか?
……それをべらべらしゃべるのはそれはそれでどうかと思うが…
「確かに今朝はなんだか物々しいわね」
「てっきりマリアなら何か」「聞いてると思いましたのに…」
「でも2人とも家族の話しを聞いたのでしょう?ならなぜさらに私に?」
「「警備のことしか聞こえませんでしたの。」」
誰がくるかまでは聞こえなかったのですわ、とアリシアが言っている。
「じゃあ殿下ではないかもね?」
「「マリアがいるから来るなら殿下ですわ。」」
ずずいっと2人から迫られ思わず仰け反る。
「まあ、私たちの世代は人材としては豊作らしいからマリアちゃんがいるいないに関わらず殿下がきてもおかしくはないね?」
とタチアナが登校してきたようで話しに混ざってきた。
「おはよータチアナちゃん」「おはよう、マリアちゃんとアリーベス」
「「おはよう、タチアナ!」」
「アリーベス……」混ざってる…
「ん?あぁ、私と双子は幼馴染よ。」
屋敷が近いから昔から仲がいいの、とタチアナ。なるほどね。
「ほら、アリシア、エリザベス。予鈴はもう鳴ってますわ。」
とシャロンから促され双子はそれぞれの席へ向かっていった。
それから午前中は普通の授業だったのだが午前最後の授業は担任のアレックス先生で
「あーみんな、噂はまわってるかもしれないが…午後の訓練には視察が入る。」
教室がざわめくなかアレックス先生は続ける。
「予想がついてるかもしれないが、騎士団長と…ヴィンセント殿下がいらっしゃる。」
とピタッとざわめきが収まる。
「ま、あまり気負わないでいつも通りの訓練をしてればいいからな?」
では以上だ、とアレックス先生は教室を出ていく。
…ふとセリスの方を見ると、胸の前で手を組み瞳を輝かせているようだった。
「視察とか、来るんだね…」
今日は3人でパスタを昼食に選んだ。
「…まあ、タチアナが言っていた通り、私たちは"豊作"と言われる世代ですからね。」
─豊作。シャロンを筆頭にトラビス、ニコラス、セリスのような優秀な人材が多いと言われているのだ。
それは平民や留学生もそのようで、視察はスカウトも兼ねているのだろうとはシャロン談だ。
「そういえば騎士団長も来るって言ってたね。」
私は会ったことも見たこともない。あだ名通りの人物なんだろうか…?
「私は昔、騎士団に入らないかと声をかけられたことがありますが、それ以来ですわね。」
「え、そんなことがあったの?」と驚いているのはトラビスだ。
シャロンは貴族ながら平民並みの魔力で、それを補う形で剣術の技を磨いている。
元々センスもよかったらしく腕はかなりのものらしい。
「…だいぶ前ですわ。もちろん断りましたが。」
と彼女はツンとしている。
「あだ名の通りなの?」と聞いてみたが
「…私はそうとは思いませんでしたが…人の良い紳士でしたわよ。」
と思い出す様子で首を傾げている。
「…ま、来るのだから見ればわかるか。」
百聞は一見にしかず。果たしてどんな人物なんだろうか?
魔法の授業では魔法剣の使い手だと習ったが…
午後の授業が始まるも、やはりみな少し浮足立っているのがわかる。
平民の子や留学生の中にはスカウトをして貰いたいと思っている人もいるらしく、ごく一部はすごく気合が入っている。
魔法専攻組にも1、2人期待している子がいるようだが、私・ニコラス・ミアの3人は特に気にすることなくいつも通りだ。
ニコラスはもう騎士団入団が決まっているし、ミアは神殿勤めだし、私はそれよりも魔力操作訓練の方が大事だった。
だって、もうすぐ、やっと初めて1本だけ点せそうなのだ!
ミアと励まし合いながらようやくここまできたのだ。
周囲に気を取られないよう気をつけながら今日も訓練を頑張る。
だがその努力虚しく、彼らが校庭に現れ周囲が騒いだため3本くらい一気に点してしまった。




