60.
「………なんで了承しちゃったんですか……」
は〜っと深いため息をつくアシュクロフ。
「…だって、ニコラスのお父様が私を無理矢理にでも手に入れようとするかもしれないって彼が言うから…」
「…そこでヴィンセント殿下の事を言えばよかったのでは?」
「そ、れは……迷惑かけたくなかったし、あれはまだ"あってないような"話でしょう…?」
「じゃあ俺の事は?」
「アシュ、は……」
──アシュクロフの事を言ってしまおうかとも思ったが
『もし、この力がバレて彼に何かされたら?』と考えてしまい言い出せなかった。
「い、言えなかった…」「なぜ?」
少し怒った様子の彼に意を決して伝える。
「だって……アシュに、貴方になにかあったら嫌だもの…!!」
と私はここで抑えきれなくなってぼろぼろ泣き出してしまった。
ギョッとする彼の顔が目に入る。だけど涙は止められない。
「ニコラスは、イルミネ伯爵家は魔法使いがたくさんいるのよ?しかも強めの!もし、アシュに、何かされたら抵抗できないもの…!」
貴方になにかあったら絶対嫌だ、と泣きながら彼に縋りつく私。
「………ごめん、君を泣かすつもりはなかったんだ」
と彼は私をギュッと抱きしめてくれた。
そうしてそのまま頭を撫で、背中を擦ってくれる。
いつも、いつだって、私を助けてくれるのは彼なのだ。
もう勢いに任せて好きだと言ってしまおうかと思ったがこの関係性を、この安心感を手放せなくて、私はただ黙って彼の胸で啜り泣いた。
しばらくそうやって泣いていたし、アシュクロフも黙って抱きしめていてくれたがいつまでもそうしてはいられない。
ぐいっと彼の胸を押し返し謝る。
「ごめんなさい…泣いたりして…」
「………いえ。俺もすいませんでした…お嬢の気持ちも考えず。」
「それは気にしないで……まさかこんなことになるなんて、わからないもの…」
「……ヴィンセント殿下には」「言わないつもりよ。」
え、とアシュクロフから声がもれる。
「…言ったところでどうにもならないし、事態が変な方向に向かっても嫌だし、今のところ私が放課後ニコラスに付き合うだけで済むなら安いものでしょ。」
と笑ってみせるが彼は辛そうな表情をしたままだ。
「……アシュ?」
「……っ、お嬢が、そう言うなら…」
としぶしぶ了承してくれた。
「あぁ……そうだ、その殿下から手紙が届いています。」
「…ありがとう」と手紙を受け取る。
このままじゃ読めないから顔を洗おうとソファを立ち上がると
「──どうか、自分だけで抱え込まないで下さいね。」
と私の手の平にキスをしてきた。
「わかっ、てる…ありがとう…」
この時、気付いたのだけどアシュクロフからキスされるのは嫌ではない(好きな人だから当たり前なんだけど)ということと…
──ヴィンセントからされるのも嫌ではなかったな、ということ。
ニコラスからされるのはどうにも、気持ち悪さが拭えないというか…
そういったことに、なぜだか気付いた。
ヴィンセントからの手紙にはお茶会に来てくれてありがとう、とのお礼とよかったら次の休みもどうだろうか?との伺いの手紙だった。
…少し魔法の話を聞きたいなと思い、了承の旨をしたためた返事をアシュクロフに託す。
確かに届けます、と言う彼にお願いねと頼みながら好きな人を通じて別の男性への手紙を託すとか変な話だなと思ったがそれが彼の仕事だからな…と心の中で独りごちる。
それから夕食の時間になったようだったので泣き腫らしたまぶたを治癒魔法で治し食堂へ行った。
翌日から午前は座学、午後に訓練、放課後にはニコラスとお茶、という日々が始まった。
午後の訓練はミアがやっているのと同じ訓練をしながらエリ先生が持ってきてくれる資料を読み込む、といった形になった。
それに伴ってニコラスはお茶をしながら魔法の色々を教えてくれるようになった。小さい頃自分がやっていた訓練方法とか。
あとは『こういう魔法を使った人がいたらしい』などの知識。
「─でも、王族だけが知る魔法とかもあるんだよね。」
「そうなの?」と聞くとお茶を飲みながら頷くニコラス。
「あと『聖女の力』のことはさすがの我が家でもわからない。」
アレは魔法とは違う力らしい、と彼は言う。
「……へぇ…セリスさん、ずっと実技訓練やらないのかな…」
「そうだね…一応治癒魔法が使えるらしいんだけど……」
…それは初耳だ。詳しく聞こうと思ったのだが
「……そろそろ帰るね。…帰りたくないけど」
とジッと私を見つめてくる。
「………またね」と私は知らないふりをして手を振る。
そう簡単ではないか、と呟きながらニコラスもまたねと手を振り帰っていった。
「……魔法、じゃないんだ。」聖女の力…
というか実際のところどんな力なんだろう?
…あ、明日ヴィンセントに会うから聞いてみようかな?
「マリア、帰りますわよ。」
「はぁい」
とシャロンとトラビスのもとへ行く。
…なんだか待っててもらうのが悪いなと思っていたら
「…なんですの?」
「あ、いや…待っててもらうの、悪いなって……」
「…3人で1台の馬車なのですから待つのは当たり前ですわ。それに、私たちもたくさんお話しできて案外楽しんでますのよ。」
とトラビスと2人でにこにこしている。
だから気にしないで?とトラビスからも言われるので2人に感謝はすれど過剰な罪悪感は持たないようにしようと思いながら帰宅した。
手の平へのキスは『懇願』だそうです。
Twitterでry
通学用馬車はシャロンの家のやつです。




