58. 魔法の話。 学園編③
「じゃあ…測ってみたいです。」
「…わかったわ。これに集中してみて?」
と先程ニコラスが受け取っていたものと同じものを渡される。
魔道具はちょうど温度計のような形をしている。
日本の小学校の教室とかでよく見た温度計みたいな、木の土台に水銀計のようなものが付いている。長さは15cmほどだけど…
目盛りなどはなく、今は玉の部分になにやら液体?のようなものが入っているだけで棒部分はまっさらだ。
…通信器、作ったときみたいにしたらいいのかな?
目を閉じ魔道具に集中する。
とパキンっと鋭い音がした。
恐る恐る目を開けると……案の定、液体らしきものが玉とは反対の棒の上の方から漏れ出している。
………また、やった…
ふるふると震えながらエリ先生を見やると
「……………」
彼女も驚き固まっている。
「せ、せんせい……」
「…………ハッ! マリアさん怪我とかない?!」
「私は大丈夫です…けど…魔道具は大丈夫じゃないですね………」
「そうね………」
とお互い苦笑いを浮かべるしかできなかった。
これはマズイ状況なんじゃないかと思ってみんなの方を見たのだけどみな訓練に集中していてこちらを見ている生徒はいなかった。…良かった。
「……とりあえず、マリアさんは"測定不能"ね。」
「どう、なるんでしょう…?」
「…一旦黙っておきましょう。あまりよくないけど…貴女の意思が決まるまでは周知しないほうがいいわ。」
私が騎士団の魔法使いやエリ先生のような魔法使いになりたい、というなら喜ぶべき能力だから然るべき対応がされるが、私にはまだその意思はない。
しかしこの力は騎士団や魔法使い団体などからしたら喉から手が出るほど欲しい力だ。
本人の意思とは関係なく、甘言で惑わそうとしてくる輩もいるかもしれないからとりあえず黙っておこう、とのことだ。
エリ先生いわく、外国からも欲しがられるくらいの力だと。
「貴女は王族に匹敵するわ。だけど王族は手出しできないけど貴女なら拐かしも辞さないのがいるかもしれない。」
「ひぇ……」
だから身を守る魔法の知識を増やしましょう、と今後の方向性が決まった。
攻撃魔法の精度をあげつつ知られている守護魔法の知識を増やす…その日から私の実技訓練はそうなった。
──だけど、私の測定風景をただ1人、見ていた人がいた。
「…今日は楽しみだったのに、一気に大変なことになったな…」
今は校内清掃の時間で私はゴミ箱を抱え、講堂裏の焼却場に来ている。
よいしょ、とゴミ箱の中身を焼却炉の中に入れるとボッと一気に燃えだした。
この焼却炉も魔道具だ。ゴミを入れると勝手に燃えていく。
…というか"掃除の時間"とかまんま日本の学校ね。掃除の時間って日本にしかない文化らしいし。
さて、と踵を返すとニコラスがそこにいた。
「……ニコラスは、私を脅かすのが趣味なの?」
「そんなわけないじゃん。…たまたまだよ」
「掃除はどうしたの?」「担当箇所は終わらせたよ。」
「……」 …何か用なんだろうか?
「……マリア、さっきの授業。」
と近付いてくるニコラス。
後退ろうとしたけど後ろはぼうぼうと燃える焼却炉だ。
「…ちょっと危ないからこっちきて?」と手を引かれる。
焼却炉から少し離れ、講堂傍へと連れてこられる。
…なんとなく、怖い。昔からよく知る彼だがここ最近の行動は不気味だ。
「…さっきの授業ってなんの話?」
「…性急だね、意外。」
「早く帰りたいんだもの。」
ふふっと笑うニコラス。こっわ!
「じゃ、単刀直入に聞くけど……魔力測定用の魔道具壊してたでしょ?」
…やはりか。よりにもよってニコラスに見られてたとは……
「……それがなに?」「この僕が意味がわからないとでも思うの?」
と壁ドンされる。…しかもご丁寧に逃げられないよう両手で。
さてどうしたものかと思案していたのだがニコラスがぐっと顔を近づけてきて
「僕の父様とかが知ったら、欲しがるだろうね。──それこそ無理矢理にでも。」
「………っ」
そう、ニコラスとは同い年でニコラスにはまだ婚約者がいない。
私の力を知れば、家のためにあらゆる手段で手に入れようとしてきてもおかしくはない。
「……黙ってて欲しい?あれを見てたのは僕だけだったし僕が黙ってればわからないね。」とにこりと笑う彼。
「そう、ね…そうしてくれるならありがたいわ。」
でもきっと対価を要求される。無茶振りだけはありませんように、と心の中で祈る。
「じゃあ…
これから学園のある日の放課後、僕とお茶してくれる?」
とパッと壁から両手を離し私から少し距離を取るニコラス。
「……は?」
「休みの日以外、放課後にお茶に付き合ってくれるなら黙っておくよ。」もちろん場所は食堂でいいよ、と笑顔だ。
「え……そんなでいいの…?」
それはすごくお安い御用すぎやしないだろうか?
「うん。…僕はね、どこかの王子様と違ってきちんと手順を踏んで君を口説く。」
さっそく今日からね?、と言うが早いか素早く私の頬にキスをしてニコラスはその場を去っていった。
ぽかんとしたままの私1人が取り残された。
「……みんな簡単にあちこちキスするな?」
と変な感想がもれる。…なにかバイブルでもあるのだろうか?
「いや、そういうことじゃなくて。」と1人ツッコむ。
「マリア!ごみ捨てに一体いつまでかかってますの?」
「あ、シャロン。」
だいぶ時間が過ぎていたらしい。シャロンが探しに来てくれた。
「もうみんな帰ってますわ。」
「ごめん、実は──」と先程のことを含め今日のことを軽く説明した。




