55. 熱が出た話。 その②
しばらく待っているとアシュクロフがカートと共に戻ってきた。
パン粥のいい香りが空腹を刺激する。
「自分で食べられますか?」
「さすがにもうそこまでじゃないわ。」
「…どうぞ。」
いただきます、とパン粥のお皿の載ったトレーを膝の上に乗せて少しずつ食べ進める。
何気にパン粥食べたの、前世含め初めてかもしれない。
前世は米のお粥しか食べたことはないし、こちらでもパン粥を食べる機会がなかった。
…結構美味しい。ミルク煮にしてあって、ほんのりとした甘みとパンの塩気がとてもいい。
はふはふと食べていたのだがふとアシュクロフが見つめてきていることに気付いた。
「…そんなに見つめないでよ」
…少し恥ずかしい。
「あ……すいません…」
と彼は顔を反らし、カーテンがまだ開いていたので閉めに行った。
閉め終わりベッドサイドに戻ってきたアシュクロフに話しかける。
「……今日は本当にありがとう。あと、ごめんなさい。」
「…なんの謝罪なんです?」と彼は不思議そうだ。
「さっき、拭いてくれなんて言って…悪かったわ…」
とおずおずと伝えると彼も思い出してしまったのかほんの少し顔を赤くしている。
「い、いえ……でも本当に、絶対、次はないですからねッ?」
と強めに言われてしまったので本当に悪いことをしたな…と凹んだ。
「…いいから早く元気になってください。」
「うん。ありがとう。」
残りのお粥を食べ、果物も食べる。お腹が空いていたからぺろりと平らげてしまった。
「ごちそうさまでした。」
と食べ終わったところで医師を連れてお父様とお母様が部屋にきてくれた。
「マリア、具合はどうだ?」
「もうすっかり熱も下がりました。ご心配おかけしました。」
「念の為、診察させて下さいね」と馴染みの医師から様子を診られる。
「─うん、もう良いようだね。大丈夫。」
と太鼓判をもらい、ありがとうございましたとお礼を言い医師が部屋を出ていくのを見守る。
「…まったく驚いたわ。」「お母様、ごめんなさい…」
「まあ学園も始まり、疲れが出たのだろう」「お父様…」
「特に大事にならなくてよかったわ。…アシュクロフもお疲れ様」
と2人から労われてとんでもございません、と腰を折っている。
「病気だから仕方がないとはいえ、あまり心配をかけさせないでくれ」
「はい。気を付けます。」
「明日の登校は、明日の朝の体調をみて決めなさい。」
「だけど無理はダメよ?」
「はい…」
じゃ今夜もゆっくり休みなさい、とお父様お母様は部屋を出ていった。
「アシュも…ちゃんと休んでる?」
「…人の心配より自分の心配してください。……大丈夫ですよ、ちゃんと休んでます。」
「ねえ、お風呂に入りたいん」「ダメです。」
素早い否定にムッと口を尖らす。
「…お湯を用意しますから今夜はそれで我慢してください。明日の朝、早めに起こしますからあとは明日で。」
…まあ、しょうがないか。
「じゃあ早く寝ようかな。」「そうして下さい。」
用意してきます、とアシュクロフは部屋を出ていった。
1日たくさん寝たけど悪夢は見なかった。
─アシュクロフが手を握ってくれたの、嬉しかったなあ。
また頼んだら、寝るまでいてくれるかな…?
と扉が叩かれ失礼します、と入ってきたのはティアナだった。
「お嬢様、体調が戻られて本当に良かったです。」
「心配かけてごめんね」
ではお手伝いいたしますね、と身体を拭くのを手伝ってくれる。
水で拭くよりはだいぶさっぱり感が違う。
「ありがとう!」「とんでもございません。」
どうぞゆっくりお休みになられてください、とティアナは下がっていった。
まだ一応飲むように、と置いておかれたスポーツドリンクもどきを飲む。
「……日本のスポーツドリンクがいかに美味しかったかがよくわかるわ…」企業努力ってすごい。
しぶしぶ飲んでいると扉が叩かれ、次はアシュクロフが入ってきた。
「もう本当、すっかり良いようですね。」
「お陰様で!」と自然と笑みがこぼれる。
「だけど油断しないように、もう休んで下さい。」
とベッドに押し込められたので布団に潜り込むとアシュクロフがかけ布団をしっかりかけてくれる。
「もう、そこまで心配しなくてもちゃんと寝るわ…………ねえ、また寝るまでいてくれる?」
と言ったはいいが恥ずかしくなってかけ布団で顔を半分隠す。
アシュクロフは驚き目を見開くがふっと笑い
「いいですよ。」とまた手を握ってくれた。
「ありがとう…」「…どういたしまして」
「…"子供じゃない"なんて散々言っておきながらこれですか?」
とにやにやされたのでうるさい、と手をギュッと握った。
「……子守唄でも歌いますか」「……バカ」「冗談です。」
一瞬沈黙が落ち、どちらともなく笑いだしてしまって結局2人でしばらく笑いあった。
そうしていると不思議とだんだん眠たくなってくる。
「アシュ……ありがとう……」本当にそう思うから。
「…いいえ。俺なんかが力になれて嬉しいです。」"なんか"ではないのに。
「アシュ、ずっとそばに居てね……」ずっとずっと…
──私は睡魔と共に落ちていった。
「──ずっと、そばに居る。一生かけて君を守ると誓ったから。」
お医者さんが自宅にくる、なんて経験ありません。




