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私の執事の秘密のオシゴト。  作者: ruka
本編
56/135

54. 熱が出た話。

マリアが熱を出すなんて、昨日のが祟ったのだろうか?

彼女は寝不足はあっても、健康優良児で病気ひとつしてこなかったらしいし。


「…お嬢、水飲みますか?」

「……ん…飲みたい…」

ゆっくり身体を起こす彼女の背中に手を添え支えてやる。

そこまでひどい熱ではなくてよかった…

コップを渡すとありがとう、と両手で受け取り少しずつ飲んでいる。

彼女が飲んでいるのは"経口補水液"?とかいうらしい。

医師の指示でただの水に砂糖と塩を規定量と飲みやすくするためレモンが絞ってある。熱があるときはこれを飲むのがいいのだとか。

「…あんまり美味しくない…」

「ちゃんと飲んでください。」

だが半分くらい飲んだところでまたあとで飲む、と返された。


また寝かせようとしたのだが

「……汗拭きたい」

「…じゃあティアナさん呼ん」「手拭いちょうだい」「…はい」

濡らして欲しい、と言われたので洗面台で濡らしたものを渡す。


「…むう…熱冷ましあればなぁ…うわぁベタベタ……」

と何やらぶつぶつ呟きながら寝間着の上のボタンをひとつふたつ外しはじめた。

ハッと気付き急いで後ろを向く。……あぶなかった。


「アシュ」

「…なんですか?」

「新しい寝間着ちょうだい…着替えたい…」

と言うのでティアナさんが用意してくれていた新しい寝間着を渡そうとしたのだが

マリアは背中を出した状態で「ついでに背中拭いて?」と手拭いを渡された。

「っ、はぁ?!お嬢、さっ、すがにそれは…っ」

急いで空いてる手で自分の目を隠すもすでにバッチリ見てしまって動悸がする。

「自分ではよく拭けなくて…」とマリアは言っているが

「……それならティアナさん呼んできますから!」

「…待つのが面倒くさい」…なんという理由…!

「いやだからって男の俺に」「…アシュなら別に見られても平気だわ」

〜〜っ このお嬢様は本当にたまに突拍子もないことをしでかすな…

「……くしゅんっ」「あっ………ほ、本当にいいんですか…?」

「…別にあとから訴えたりなんてしないわ」

……意を決して、なるべく見ないように薄目でマリアの背中を拭く。


「…これでいいですか?」

「ありがとう。さっぱりした〜」

死にそうになりながら彼女の背中を拭いて、今は寝間着を着替えているのを待っている。…もちろん後ろを向いて見ないようにしているが。

「もういいわよ。」

「………本当に次はないですからね。」

「わかってる。本当にありがとう、ごめんなさい。」

と言いながらマリアは補水液の残りを飲んでいる。

「お陰でだいぶましになったわ。」とふわりと笑う彼女。

「…まだ寝ていて下さい。」

飲み干したコップを受け取り、マリアを布団へと押し戻す。

「うん……アシュ、寝るまでそこにいてね?」

とまだ熱で少し潤んだ瞳で見つめられると、彼女に会った日のことを思い出し胸の奥をかき乱される。

「大丈夫です。ちゃんといますから…しっかり寝て、早く治して下さい。」

…自分でも気付かないうちにマリアの手を握っていた。

だが彼女は逆に安心したような顔つきですやすやと寝はじめた。


…発熱で、不安だったんだろうか。

俺にも覚えがある。病気をしたときはひどく、人恋しく感じるのだ。


「……いやでもだからって"拭いてくれ"はないだろう…」

と独りごちる。

思い出しそうになって慌てて頭を振り、追い払う。

早くよくなって、いつものマリアに戻って欲しい──。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


1日、よく寝たからか夕刻過ぎ頃までにはすっかり熱は下がった。

頭の痛みもなくなっている。

怠さと面倒くささが合わさり別にいいか、と思ってアシュクロフに背中を拭いて欲しいなど言ってしまったがかなり悪いことをした…

あとでもっとちゃんとお礼と謝罪をしなければ。


しかしまさか熱を出すとは思わなかった…

この15年、健康優良児で生きてきて初めて…?

お母様が言うには赤ちゃんの頃も発熱などしなかったらしくかなり心配されたがアシュクロフもいるし大丈夫だからと仕事に送り出した。

と、お腹がぐ〜っと鳴る。体調も戻りお腹が空いていることを身体が思い出したらしい。

「うーん…どうしよう。いきなり動いたらそれはそれできっとすごく心配される。」

まだダメだとベッドに戻りたくない。…明日は絶対学園に行きたいから。

どうしたものかと考えていたら部屋に誰かが入ってきた。


「…あれっ、お嬢起きてたんですか。」

急に入ってすいません、とアシュクロフが謝っている。

「いいわ、気にしないで。ついさっき目が覚めたの。」

「具合はどうですか?」と額に手を当ててくる。

「もうすっかり。」と笑顔を見せると安心したように手を引っ込めるアシュクロフ。

「うん、熱も下がってるみたいですね。」

「あ、お腹空いたの。何か食べるものある?」

「…1日食べてないですからパン粥など頼んできます。」

あと果物とかは食べられそうですか?と聞かれたので頷いた。

「ありがとう、お願い。」

「…まだ寝台から降りてはダメですよ?」と言われたので「はぁい」と返事をする。

彼は苦笑しながら待ってて下さいね、と部屋を出ていく。


ベッドから降りるなと言われたが顔を洗いたいと思い洗面台で洗う。

鏡の向こうの顔色は、もうすっかり大丈夫のようだ。

アシュクロフが戻る前にさっさとベッドに戻る。…そんなに早く戻るとは思わないけど。

今日はお風呂入れるかな…ダメだったら明日の朝に入ろう…


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