52. お茶会の話。 その②
ぱらぱらと雨が降り出し、みるみるうちにざーっと降り出したのだ。
「えっ」「わっ」
急いで近くの木の下へ避難する。少し距離があったのでだいぶ濡れてしまった。
「確かに天気悪いなとは思ったがまさか降り出すとは……」
「そうですね…ああ、びしょびしょ…」メイクとか落ちてないだろうか…
と突然肩に何かをかけられる。
ヴィンセントの、ジャケット…?
「っ、殿下、気持ちはありがたいですが殿下が風邪をひきます!」
と返そうとするがぎゅうぎゅうと前を合わされてしまって身動きができない。
「殿下…?」「無理……雨に濡れて、身体の線が出てる……」
…それはラッキースケベというやつか。
「あ、魔法で乾かせば」
「ここでは魔法は使えない。…襲撃を考えて結界が張ってある。許可された人以外使えないんだ。」
おおーさすが王城…!と感動してる場合ではなかった
「でもそれならますます殿下が風邪を…」
私がひくのと殿下がひくのとじゃどう考えても後者のほうがマズイ。
「じゃあ、こうする。」
とヴィンセントが言ったかと思ったらぐいっと引っ張られる。
「…これなら、温かいだろう?」
私はヴィンセントに抱きしめられていた。
この人はどさくさに紛れて一体何を…!と思ったがなぜかその感覚に覚えがあり、存外心地が良くて動けないでいる。
この感覚はなんだろう?やはり小さい頃、慰めるとかしてもらっていたのだろうか。…よく泣かされていたみたいだし。
とか考えていたのだが手をつく形になってしまっているヴィンセントの胸が早鐘を打っていることに気付いた。
……この人すごく、ドキドキしてる…
その事実が、状況を冷静に知らしめてきて私自身の心臓もつられるように早鐘を打ちだす。
私は何も言葉を発せなくて、ヴィンセントも先程から私を抱きしめたまま黙っている。
ただ、ただ、雨音だけが2人に降り注いでいた。
としばらくしたら「殿下〜!ヴィンセント殿下〜?」と声が聞こえてきた。誰かが雨に気付いて迎えにきてくれたようだ。
「ここだ!」とヴィンセントが声をあげる。
「ああ、殿下!申し訳ありません。雨に気付くのが遅れました。」と従者が駆け寄ってくる。
「私は大丈夫だがマリア嬢がだいぶ濡れてしまった。急いで魔法使いを呼んでくれるか。」
「かしこまりました。─こちらをどうぞ。」と傘を差し出される。
「すまない、ありがとう。」
「では呼んでまいりますがどちらに」「…私の部屋に」
かしこまりました、と従者が走り去っていく。
「…え、殿下のお部屋に?」「…ここから一番近い」
なる、ほど…?でもいいのかな?とも思ったが彼がそう言うのだから従うほかないだろう。
「ほら、もっと寄って。」と肩を抱かれ室内へと向かう。
なんで1本なんだ傘…と思いながらもだいぶ身体が冷えているので寒さでか頭があまり働かない。
幸い道中は誰にも見られなかったし実際部屋もすごく近かった。
待ち受けていた侍女さんから失礼します、とタオルで軽く拭かれていく。
「私はちょっと着替えてくる。」とヴィンセントは行ってしまった。
ソファに座るわけにもいかないしどうしようと思っていたら魔法使いの方が着いたらしく扉が叩かれ確認後、従者の方と一緒に入ってきたのだが入ってきた魔法使いにすごく見覚えがあった。
だって、それはエリ先生だったから。
「エリ、先生?」「あら、お客様ってマリアさんだったの。」
と2人で驚く。
「とりあえず乾かすからこちらに。」と言われ魔法をかけてもらう。
ふんわりと乾かしてもらったら侍女さんが再度失礼します、とメイクや髪型を直してくれた。
「ありがとうございます。」とお礼を言うとこちらにどうぞ、とソファを示されるので座らせてもらうことにした。
エリ先生も、と彼女を見るとちょうどその時ヴィンセントが戻ってきた。
「…あれ、今日の担当、エリ先生だったんですか?!」と彼も驚いている。
ヴィンセントから促され先生もソファに座り3人でお茶会の続きが始まった。帰ってもよかったのだが、せめてもうちょっと身体を温めてからと止められたからだ。
まずはなぜエリ先生がいるのか、ということから聞いた。
彼女は『宮廷魔法使い』というのに登録してあるらしく、これは騎士団に所属しない優秀な魔法使いが何人かいるそうだ。
そして彼らは『許可された人』たちで王城で不測の事態が起きたとき活動する。(今回は"大事な客人が雨に濡れた"という事態だったらしい)
これらは当番制で今日は学園が休みだから、エリ先生が当番ということだ。
「なるほどー。それで先生が…」
「殿下の大事なお客様が雨に濡れた、なんて呼び出されたから来てみたらマリアさんだったなんて私も驚いたわ。」
「僕はまさか今日の担当が先生だとは思わず…」
と3人それぞれで驚いている。
「今日は2人でお茶会だったの?」
「あ、はい。…僕がマリア嬢をお誘いしたんです。」
「天気が悪いなとは思ったんですが、まさか雨に降られるとは思いませんでした…」
「災難だったわね…」とエリ先生は苦笑している。
「あっ、そうだ先生!マリア嬢にブローチのことしゃべったんですか?!」とヴィンセントが突然エリ先生に詰め寄る。
「…あら、しゃべってはダメだった?」
「や、だって…恥ずかしいでしょう…」と顔を赤らめるヴィンセント。
「うふふ…私は素敵なことだと思ったから伝えたのよ。恥ずかしがることなんてないじゃない。」
「あの、それ本人がいないとこでしてくれませんか…」
私も流れ弾でなんとなく恥ずかしくなる。
ラッキースケベとかおっさんですかそうですか。




