51. お茶会の話。
「本日はお招きくださりありがとうございます。」
なんとか気を取り直し挨拶をする。
「いいえ、こちらこそ来てくれてありがとう。」
と嬉しそうなヴィンセント。
今日の彼はベージュのカジュアルスーツで中のシャツの首元は開けてありそこから男性的な色香が醸し出されていてちょっとドキドキする。
髪は下ろしてあり耳が半分くらい隠れているので意外と長いのが見て取れた。
「ここは他に誰もいないから気を張らなくていいよ。」
とベンチに私をエスコートしながら彼は言うが
「誰も…?」「うん、僕が断った。」
給仕は自分ですればいいしね、となんでもないように言っているが
「え、それは…」いいんですか、と聞こうとしたのだが彼はあっという間に慣れた手つきでカップに紅茶を注いでいる。
驚いていると「…執務の合間は自分で淹れて飲むことが多くて。いつの間にか慣れてしまった。」と彼は苦笑している。
「だけど、人に淹れるのは慣れていないから美味しくなかったらすまない…」と差し出してくるので受け取る。
少し緊張していたのが、紅茶のいい香りでほぐれる。
一口飲むととても美味しかった。
「…とても、美味しいです…!」
「それなら良かった」
とヴィンセントも私の右隣に座り、自分で淹れて飲んでいる。
「お菓子も用意したけれど、好みに合うだろうか?」
テーブルの上の皿にはマドレーヌにチョコレートなど私の好きな物が乗っている。
「わあ、好きな物ばかりです。嬉しい…」ひとつ摘んで口に運ぶ。
「…美味しい〜」美味しいお菓子は大好きだ。
ハッとヴィンセントを見るとそれはそれは幸せそうな笑顔をしていた。
「す、すいません…」
お茶が美味しくて、お菓子も美味しくてつい気が緩んでしまったのが恥ずかしくなる。
「気にしないで。…あ、学園はどう?慣れたか?」
「あ、はい。まだ本格的に授業は始まってないのですが、先生方みなさんいい先生ばかりで…」
「うんうん、つい先日まで通っていたのがだいぶ昔のように感じてしまうよ。」とくすくす笑っている。
「そうだ、エリ先生から…お話し聞きました。ありがとうございました、ブローチ…本当に。」
ヴィンセントは目を見開き「…っ え、なん、、先生〜…」と顔を手で覆ってしまった。
「エリ先生は悪くないです。…私が変なこと聞いてしまって…」
最後はいらなかったなと思ったが遅かった
「…変なこと?」「いや、その、何でもないです…」
さすがに本人には言えない…"ヴィンセント殿下をどう思いますか"って聞いたなんて……
これ以上突っ込まれたくなくて「こ、ここのお庭…小さい頃来ていたのですよね…?」と話題を変える。
不思議そうに彼はしていたが話題に乗ってくれた。
「そう、だね。僕が10歳くらいだと…」「私は8歳頃ですね。」
「……あまり覚えて、ない?」とおずおずと彼は聞いてくる。
「…すいません。小さい頃の記憶が、曖昧で…ただお茶会をしていたのは思い出したんです。」
「そうか……当時のことを話しても?」
「はい、お願いします。…もっとはっきり思い出すかもしれませんし。」
「じゃあ、少し歩こうか」とヴィンセントが手を差し出してきたのではい、と掴んで2人で歩きだす。庭を眺めたらなにか思い出すかもしれないし…
庭自体はこぢんまりとしているがとても綺麗に手入れがされているのがわかる。…天気が少し悪いのが残念だ。
「綺麗ですね〜。先日のお庭もとても綺麗でしたが私は、こちらのほうが好きです…」
「あちらは華美な花が多いから確かに綺麗なんだが疲れる…」
「ふふ、わかります。我が屋敷の庭もあまり派手な花は植えていません。」それこそ野原に咲いてる花を植えているくらいです、と言うと
「…いつか、見に行きたいな…」とヴィンセントが笑いかけてくる。
その笑顔をどこかで見た気がやはり、する。
だが記憶を探っても出てこないのが寂しく感じてしまう。
それが顔に出ていたのか
「無理に、思い出そうとはしないでくれ。…昔は昔、今は今なんだ。」
と気を使わせてしまった。
「は、い…すいません…」と少ししょんぼりなってしまったら、そっと頭を撫でてくれた。
驚き目を瞬くと「あ、すまない!嫌だったか…マリア嬢が可愛らしくてつい、手が出てしまった…」とパッと手を離してしまった。
「嫌ではないです。けど驚いてしまいます。」と眉を下げれば
「そう、か…まあそりゃそうか…」と頭をかいている。
それからなんだかおかしくなって2人で笑いあった。
庭を見ながら小さい頃の話を聞いていたのだが記憶は蘇らなかった。
ヴィンセントが私を庭のあちこちに引っ張り回して足が痛いと泣いた、とか隠れんぼをしてヴィンセントが見つからない上に迷子になって泣いた、とか私…泣かされすぎじゃね?という感想しか出てこなかった。
彼もそれに気付いたらしく「俺、マリア嬢を泣かしてばかりだな…」と凹んでいるのだがしゅーんと垂れた獣耳と尻尾が見えてしまうようで笑いがもれてしまった。
「ふ、ふふふ……」「え、なに…?」
「いえ、可愛らしいなと思いまして…」
あ、男性に"可愛らしい"はアレだったか…と思ったが
「……その…ごめん。小さい頃とはいえ思い出してみるとひどいことばかり…」
「まあ、思い出せないってことは大したことじゃないということじゃないですか?」きっと、そうなんだと思う。
しかしならなぜ彼は私を好きでいてくれるのだろうか?やっぱり『過去の記憶は美化される』ってやつではないのだろうか?
「…疲れただろう?そろそろ戻ろうか。」
とヴィンセントが言い出したときだった。




