50.
今日は朝からそわそわしている。
いよいよヴィンセントとの"お茶会"の日がきてしまったから。
シャロンに言おうかとも思ったのだけどなんとなく、茶化されたり逆に祝福されるのも少し恥ずかしくて言い出せなかった。
…まあ、プライベートなことだから?そこまで言わなくてもいいよね?
シャロンだってトラビスと婚約した経緯教えてくれないし?…
ちなみにお父様とお母様にはヴィンセントから連絡がいっていたらしく明日は何時に馬車を用意したからね、とただそれだけだった。
そして今は何を着ようかクローゼットの前で悩んでいる。
今日はティアナがヘアメイクをしてくれるらしく気合の入った彼女と一緒だ。
「今日は、薄曇りで少し寒いわね…」
残念ながらほんの少し、天気が悪い。雨は降らなさそうだけど…
「そうでございますね…少し厚めの生地のものがよろしいでしょうね。」
うーん、と悩んで長袖の生成りのブラウスと向日葵色の膝丈スカート、編み上げの茶色いミドルブーツを選んでみる。
「…どうかな?青は寒く感じてしまうし…」と鏡の前で合わせてみる。
ティアナは「よろしいと思いますよ。では化粧は…」とメイクの色を考えているのでその間に着替える。
蝶のブローチを着けようかとも思ったけれど失くしたりしたくないなと思って置いていくことにした。
着替えも終わり、メイクをして貰う。服に合わせてグリーン系を選んだようだ。
髪型はティアナの好きなようにしてもらったらハーフアップにしてアップした髪をサイドでお団子にしてくれた。か、可愛い〜!
こういうのが似合う顔なのが前世からすると、自分のことながら羨ましい。
ハンカチやティッシュ、化粧直しなど忘れ物がないかポーチの中を確認し、時計を見るとそろそろ出発の時間のようだ。
そういえば手土産はどうしようかと思っていたのだけどお父様から初物の野菜を馬車に積んでおいた、とのことだった。
鏡の前で最終チェックをし、ティアナにありがとう!とお礼を言い部屋を出る。
…ちょっぴり、アシュクロフにも見てもらいたかったけど今朝は見かけていない。
御者の手を借り馬車に乗り込み王宮へと、今日は1人で向かう。
何のお話しをしよう、とか今日のヴィンセントはどんな格好してるだろうか、とか馬車に揺られながら考えていたらあっという間に着いてしまった。
城門で守衛から確認され、馬車停め位置を指示される。
緊張しながらも扉を開け降りるときそこにいたのは御者ではなく、エドガーであった。
「あ、れ…エドガー先輩…?」と目を瞬く私。
「ごきげんよう、マリア嬢」と恭しく手を差し伸べてきている。
まあ彼の家でもあるのだから彼がいるのは、別におかしいことではない。
混乱しながらも手を借りて馬車を降り、御者へお礼を言うと「こっち」と少し早歩きで連れて行かれる。
ハテナがたくさん浮かぶが、少し焦った様子のエドガーに声がかけられない。
としばらく進んだところでようやく歩みが緩んだ。
「ここまでくれば、まあ大丈夫だろ…」
「…あの、エドガー先輩説明、してくれますよね?」
「うん、悪いな。急ぎ足させて。」と申し訳なさそうにしている。
外廊を並んで歩きながらエドガーが説明をしてくれた。
「本当は兄貴が来たかったらしいんだが、ちょっと厄介なのが来ててな…」
と彼が言ったところで目の端に、ここ数日で見慣れた赤い髪が揺れた気がした。
「うわ、こんなとこまで入ってきてたか…」とエドガーがまた早歩きになる。
「ごめんなーマリアちゃん…」「いえ…」と2人で黙々と奥まった場所へと急ぐ。
「…ここから先は王城関係者しか入れないからさすがに、大丈夫だろ。」
と少し疲れている。私もだいぶ疲れた…
「……はぁ…あの、あれはやはり…?」と聞くと首肯される。
「…セリス嬢がな、来てるんだよ。あのあたりまでは誰でも入れるからな…そのうち兄貴に会えるかも、とか思ってるんだろうな。」
それは、見上げた根性だな…
「す、すごい…」「すごいよなー…と」
足を止めるエドガーにつられ私も足を止める。
「俺はここまで。あとはここを真っ直ぐ行ってくれるか?」
と庭の入口らしき場所で別れることになった。
「エドガー殿下、ご案内くださりありがとうございました。」とスカートの裾を少し掴み礼をする。
「いや、気にすんな。急いで連れてきてしまって悪かった。」
じゃ、ゆっくり楽しんでくれと彼は手を振り行ってしまう。
「ありがとうございました!」と私も手を振りしばらく見送っていたがヴィンセントのことを思い出し、庭の奥を目指す。
馬車停めからだいぶ奥に進んできたように思うのでここは後宮の庭なのだろう。
小さい頃来ていたはずなのだが…記憶にはないように思える。…違う道を通ったとかだろうか?
春も深まってきているので、花々も山のように咲いている。
王宮広間前の庭よりは素朴な花が多いように見受けられるが、とても落ち着くいい庭だ。
と花を眺めながら歩いていたら少し開けた場所に出た。
端に白いガーデンテーブルとベンチが置いてあり、そのベンチにヴィンセントが座っている。
彼は私に気付くと蕩けそうな笑顔をふわりと浮かべ、こちらに近付いてきた。
「ごきげんよう、マリア嬢」とするりと私の手を取り、甲にキスをするヴィンセント。
「ご、きげんよう、ヴィンセント殿下…」




