49. 生徒会勧誘の話。
ところが、その日から次の休みの日までは授業らしい授業はなかった。
科目担当の先生の紹介や教科書・参考書の配布、授業の進め方などが主な内容だったからだ。
実技科目も同じで、武器・防具がまだ出来てないため、とのことだった。
ちなみにエリ先生は実技授業の初日に魔法専攻の生徒にだけ自分のことを打ち明けた。この授業にはセリスが参加しているから。
嫌だと思うなら授業を受けないで構わない、と少し辛そうに伝える彼女がとても痛々しかった。
だが異を唱えたり授業を放棄する、なんて生徒はほぼゼロだった。…セリスただ1人を除いて。
彼女は見学授業をする、ということになった。
実技なのでどうしても直接触れることがあり、それが嫌だと。
…よくわからない感性だ。
セリス以外の生徒は"エリ先生はすごい"、と軒並み好評だったのが救いか。
完璧な変身魔法だし、そのままの状態で強力な魔法を使う。魔法を専攻する生徒は騎士団の魔法使いになりたいのがほとんどなのでそういった高度な技術をもつエリ先生は尊敬に値いするらしい。
ニコラスも強い魔法使いを何人も輩出する貴族一家なのだけど、彼も平民出身のエリ先生を認めている。
そんなこんなありながら明日は学園入学してから初めての休み、という日のお昼休み。
いつものように3人でテラス席で昼食をとっていて、これまたいつものようにエドガーが突撃してきた。
「やあ後輩たちよ。」「入りませんよ?」「まだ何も言ってない!」
とここ数日で定番となったやりとりをする。
ただ今日はいつもと違うことが起こった。
「エド!ここにいたのね!」
「…アンジェ」
やべー、という顔のエドガー。
「入学式の日からお昼休みなった瞬間に消えると思ったら!」
「これには深い事情が」「そういうのは先に伝えるものよ!」
私たち3人は呆気にとられてしまう。
アンジェ…はて…どこかで聞いたような?と考えていたら
「あっ、ごめんね!びっくりしたよね…?」
と件の彼女がこちらを向いた。
「初めまして。私はアンジェリカ。アンジェリカ・ウルフよ。」
と爽やかな笑顔で告げてきた。
「あ、ウルフ公爵家の…」「そ、"熊騎士団長"の娘よ」とけらけら笑っている。
熊騎士団長─現騎士団長のあだ名だ。
熊を素手で倒した、とか風貌が熊のようだ、とか聞いたことがある。…まだ見たことはないので実際は知らない。
「あら、ということはエドガー先輩の婚約者様ですのね。」とシャロン。
「そう。俺の恋人。」とエドガーがさらりと告げているがアンジェリカは「ちょっと!恥ずかしいからやめて!」と顔を赤くしている。
…なるほど。我が国はなかなか恋愛結婚が多いようだ。
「ああ、そうだ。それでエドは一体何をしているの?」
「ん?この子らを生徒会に勧誘してるんだよ。」
と私たちを示すエドガー。
「あ、ごめんなさい自己紹介がまだでした…私はマリア・クローヴィスです。」
「私はシャロン・サーザランですわ。」
「僕はトラビス・グラントです。」
とそれぞれアンジェリカとよろしくお願いします、と握手をする。
「噂の3人組が君たちだったのね。」となにやら納得している彼女の様子に3人で顔を見合わせる。
「2年生の間でね、"優秀な3人組がいる"って。」
「それもあって君たちを勧誘しているんだけど…」
私からしたら寝耳に水な話なのだけどシャロンとトラビスは違うらしい…
「噂になってるとは思わなかったなー」「そうですわね。」と頷きあっている。
ハテナの浮かぶ私にシャロンが説明してくれた。
「…入試成績ですわ。私が1位、トラビスが2位、そしてマリアが3位。」
「え。」
シャロンとトラビスはわかるが、私までそんなとこに食い込んでいたとは…
「まあ確かに3人入ってくれたらいいだろうけど、本人たちの意思が優先されるわよ?」
「だから勧誘しているんだがなかなかいい返事もらえなくてさ。」
「…エド、貴方生徒会のこと何も説明してないんじゃないの?」
とアンジェリカから言われ、ハッとした顔をするエドガー。
やっぱり!と彼女から叱られている。
「エドがごめんね?…今度私から説明させてもらってもいい?」
とアンジェリカ。だが私はある意味一番大事なことをここで聞いておかなければならない。
「あの…セリスさんが入りたがってるって聞いたんですけどそれは…?」
アンジェリカは少し、声を潜める。
「…正直、彼女に仕事は期待できなさそうなの。あの子、エドを使って義兄上様に会いたいだけだから。」
ああ、やっぱりトラビスの言うようなことだったのか…
「貴方達は私のほうから機をみて勧誘するつもりではあったの。…なのにどっかの王子のせいで台無しね。」はぁ、と大袈裟にため息をついているアンジェリカ。
「決定まではまだ時間があるわ。だからゆっくり説明させてくれる?」
と彼女が言うので、聞くだけならと了承した。
バツの悪そうな顔をしていたエドガーだが
「マリアちゃんを説得出来れば良いんだよな?」
と聞いてきた。
「そうですわね。マリアが入らなければ私たちも入りません。」とシャロンとトラビスが頷く。
「…とにかくアンジェリカ先輩の話しを聞いてからにします。」
と今度時間を取る約束をした。




