47. 先生とお話しの話。
「あ、だから校内案内前に不思議そうに見つめてきたのね。」
とエリ先生はなにやら納得している。
「ごめんなさい。違和感を感じてしまって…義姉様の言葉を思い出したところだったんです。」と正直に告白する。
「…違和感?ということは貴女も魔法適性が高いのかしら。」と嬉しそうにしているので
「魔法の授業楽しみです!」と伝える。本当に楽しみだから。
エリ先生がとても優しい笑顔をしているからなのか、それとも誰にも話せないことをただ聞いて欲しかっただけなのか─
「先生は、ヴィンセント殿下のことをどう思いますか?」
と気付いたら口から滑り出していた。
あっ、と口を手で抑えるも時すでに遅い。
エリ先生は驚き目を見開いたがすぐにふっと笑顔になり
「ヴィンセント君ね…とてもいい子だったわ。」と話し始めてくれた。
「彼も貴女と同じように私に違和感があったらしくて、そうっと『病気や呪い…ですか?』って聞いてきたのよ。」
ヴィンセントも魔法適性が非常に高いと聞いたことがある。
「だから正直に話したのだけど『そうなんですね。』の一言だったわ。…けどそれから別に色眼鏡で見たりすることなく極々普通に接してきてくれたのが、些細だけど嬉しかった。」
私は黙って話を聞いていたが
「…そのブローチ、彼から貰ったのよね?」
と聞かれたので素直に頷いたが少し恥ずかしい。
「それね、あの子が図案を考えていたわ。」
「え。」─デザインを…?
エリ先生はくすくすと笑いながら話を続ける。
「図書館で虫の図鑑を積み上げていたことがあってね。何をしているのか不思議に思って聞いたら『好きな人が蝶のモチーフが好きで、装身具をあげたいのだけど図案がないから自分で描いているんです。』って。」
これを、あの人自ら…、と私はブローチを撫でる。
「…どんな事情があるのかはわからないけど、私が知っているのは『あの子は真っ直ぐに好いた人を想っている』ってことよ。」
それに、と彼女は私を見つめる。
「それに…貴女とあの子の2人なら─この国の未来も悪くない、と思えるわ。」私の主観ででしかないけどね、と笑う彼女。
「先生……でも私、」好きな人がいるんです、と話そうとしたが
「お待たせしましたわ。」とシャロンたちが迎えに来てしまった。
「あら、…また今度聞くわね」
「はい……」
先生さようなら、と私たちは帰路につく。
「エリ先生と何かお話しを?」とシャロンは少し心配そうだ。
「心配性ね、シャロンは〜。さっきのことお礼言われてたの。」
「ああ…先生のアレは、本当なんですの?」と小声で聞いてくるシャロン。
あまり人に聞かせたくない話しではあるので馬車でね、と馬車停めに向かう。
馬車に乗り込み出発したところでエリ先生の事情を2人に説明する。
「なるほどね…最近うちでもそういう人達を認めよう、みたいな動きは増えてきてるよ。」とトラビス。
「ま、でも特に何かしたりする必要はないわね。」
「そうですわね。先生が困っていたら助ける、でよいと思いますわ。」
だから普通にしよう、と3人で約束しあい、あとは他愛もない話しをしながら下校した。
じゃあまた明日ね、と私は馬車から降りシャロンたちと別れ自宅へと帰ってきたがまだ入学初日だというのにすごく疲労感を感じる。
「……疲れた…」主に精神が。
「あ、お嬢。おかえりなさいませ。」
とアシュクロフの姿がひどく懐かしく感じられてしまい
「ただいま……」
と思わず抱きつきそうになったがなんとか正気を保った。
……ハグって癒やし効果があるのよね。あとでティアに頼もう…
「…大丈夫ですか?」「大丈夫そうに見える…?」
ふらふらと自室へと向かう。ああ…遠い……
「…そろそろ部屋、戻してもらおうかな。」
と漏らすとアシュクロフからえっ、と声が上がった。
悪夢を見ても以前ほどひどくはないし自分で対処も出来るはず…
「アシュも、いつまでも私の部屋の隣とか嫌でしょ…?」
…これはズルい聞き方だったかもしれない、と思ったが
「……俺は、決定権ないですから…」……逃げられた。
まあしばらく、様子をみようかな。学園入学で生活が変わったのがどう作用するかわからないし…
「今日の夕食は少し早いです。」とアシュクロフから告げられる。
きょとんとしているとお祝いですから、と。
「そっか、お祝い…お祝いか」と少し嬉しくなる。
「エルヴィスさんがお嬢の好きな物ばかり作ったそうですよ。」
「えへへ…楽しみだわ!」
あ、そうだとヴィンセントから渡された手紙のことを思い出したので読むことにした。
アシュクロフが部屋を出ようとしていたがちょっと待って、と呼び止める。
「これ、読み終わるまで待ってくれる?」内容によっては聞きたいことがあるかもしれないし…
だが彼は「…いいですけど。」と少し不機嫌になった。…なぜ?
文机でペーパーナイフを使って開けると薄い空色の便箋が出てきた。
…わ、綺麗な便箋だな、と思いながら二つ折りになっているそれを開く。
『親愛なるマリア・クローヴィス様──』
ほんの少し、右斜め上に上がるクセがあるがとても綺麗な字で綴ってある。
内容は手紙と贈り物へのお礼、と…お茶会への誘いだった。
以前お母様と行っていた後宮の庭の隅で2人だけでお茶会をやりたい、と書いてある。
日時は次の休みのお昼頃。ご丁寧になぜかドレスコードが書いてあって、"ドレス"ではなく"普段着"でと…
「普段着……ねぇアシュ、王宮であるお茶会なのに"普段着"って何かしら…」と彼に聞いてみるが
「…普段着、じゃないですか?」「もう!……ワンピースとかでいいのかな…」
やっぱり少し機嫌が悪い?嫉妬とかならちょっと嬉しい。
ともう1枚便箋があることに気付く。
『──貴女の事を考えると夜も眠れません。
早くその美しい珊瑚色の瞳に私だけを映したい─。
ヴィンセント・ギレスビア』
「は………」
ひ、ひぇ…ベタだけどすごいキュンとくる……!
かあっと顔が熱くなるのが自分でもわかる。
ハッとアシュクロフの方を見るが彼はカーテンを閉めていてこちらを見ていなかった。
よかった…と思い顔をぱたぱたと軽く扇いで急いで火照りを治す。
「あ、そろそろ時間ですね。」とアシュクロフ。
「…わ、わかったわ。行きましょう」
と急いで手紙を封筒にしまい、文机の引き出しにいれる。
……バレなかった、かな?顔絶対赤くなってたわ…と小さくため息をつく。
…あとで返事を書かなきゃね。
─心の隅で、お茶会を楽しみにしている自分がいることには気が付かなかった。




