45.
まだ予鈴まで時間はあるが教室へ戻ることにした。
教室へはもうだいぶ生徒が戻ってきている。
3人で私の席へと集まるとタチアナがすでに自席に座っていたので
「タチアナちゃん!久しぶり〜」
と手を振り声をかける。
「あ、マリアちゃんシャロンちゃん!久しぶり〜」
と笑顔で手を振ってきた。
彼女はタチアナ・ペイジ伯爵令嬢。
ペイジ伯爵家はクローヴィス侯爵家の系列というのだろうか、彼女の家もまた農業をやっているのだ。
なので小さい頃からよく知っているが、屋敷が国の端のほうにあり私の屋敷から遠いのでシャロンほどは交流がない。
「えっと…トラビス、様?」
「あ、様付けなくていいよ。2年後にはこの国の国民になるしね。」
「わかった、じゃあトラビス君ね!よろしく〜」
よろしく!とタチアナとトラビスは握手している。
「ね、マリアちゃんも卒業したら結婚するの?」
とタチアナが突然聞いてきた。
「結婚?一体何がどうしてそうなった?」と私は首を傾げる。
「え、だってみんな言ってるよ。"ヴィンセント殿下の婚約者はマリアちゃん"って。」
「……えらく内容がはっきりしたな?」とシャロンに顔を向ける。
「…マリアはもっと周囲や噂に気をまわしなさい?」
はぁ、とため息をつきつつも説明してくれた。
「そのブローチ、それが贈られたのが何よりの証拠だと流れてきているのよ。」と私のブローチを指差している。
「さっき見てたよ。ヴィンセント殿下と話してたでしょ?」
みんな何も言わないけど"やっぱり〜"って思ってるんじゃないかな?とタチアナは顎に指を当て思案顔だ。
……確かに気にしたこと、なかった…
あの人、"そのへんのお兄さん"みたいに話しかけてくるからついしゃべってしまうけど……彼は一国の王子なのだ。
「そっ、か…」
「…そんな深刻にならないでマリア。」
項垂れていた私はゆるゆるとシャロンのほうを見る。
「貴女の意志のないうちからしっかりと"婚約者だ"と周囲に知らしめておかなかったヴィンセント殿下が悪いわ。」
シャロンの言い草に目を瞬いたがそれもそうだな?と納得しかけて
「あ、でもお母様が『選択肢を残しておいてあげたかった』って…」
「そうだとしても、殿下が貴女をもっと前から口説かなかったのも悪いわ。」
「あとみんな、別にマリアちゃんならいいかな〜って言ってる人が多いよ。お似合いだもん2人。」と横からタチアナが言ってきた。
「お似合い……」「ほら、デビュタントのとき踊ってたでしょ?あのとき大体の人がわかったと思うよ。」と彼女は指を立てている。
とここで予鈴が鳴ったのでニコラスの席を借りて座っていたトラビスは自席に向かうと入れ替わるようにニコラスが戻ってきた。
「えらく盛り上がってたね?」
「ニコラス君もマリアちゃんとヴィンセント殿下、お似合いだと思うよね?」といきなりタチアナが聞いている。
「タチアナちゃん…!ニコラス、気にしないで?」
しかし彼はしばらく考え「僕、は……」
と今度は本鈴が鳴る。
ニコラスは「……また今度ね。」と眉を下げている。
今度…?
「はーい、みんないるわね〜?」
と女性の先生とアレックス先生が教室に入ってきた。
「午後からは副担任のエリ先生と一緒に校舎をまわるぞ。」
とアレックス先生から紹介を受けエリと呼ばれた女性が教壇に立つ。
「初めまして、副担任のエリです。担当教科は魔法。座学と専攻実技を私が担当するわ。よろしくね。」
とにこにこしているがなんだが違和感が拭えない。
なんだろう、これ…魔法の、先生……と考えているとサラの声が蘇る。
─『これは内緒だけど魔法学のエリ先生はね、女性だけど本当はエリオットという名の男性なの。』
─『身体は男性に生まれたけど心は女性だそうで、常に魔法で女性になっているの。常時変身魔法を使っていながら国でも指折りの攻撃魔法の使い手だからとてもすごいのよ。』
ああ…"違和感"はこれか、と納得した。
ちなみにほぼ、バレる事はないらしいがごく稀に私のように違和感を感じる人がいるらしく…サラたちの同級生にいたそうで、その人が秘密をバラしてしまって彼女たちは真実を知ったのだとか。
知ってしまった生徒はそんなに多くはなかったそうで箝口令で済んだが…バラしてしまった本人への処遇は……サラも知らないらしい……(その後も学園には通ってはいたがエリ先生に絶対近付かなかったとか。怖い。)
えー全然わからない、とエリを見つめながら教室をあとにしたが彼女は笑顔のまま不思議そうにしていた。
身体は男性、心は女性…性同一性障害てやつだ。
こちらでは、ほぼ聞いたことはないがマイノリティの方は必ずいるとは思っている。
「マリア、どうしましたの?」
とシャロンから話しかけられ意識を現実に戻し
「ごめん、ちょっと考え事してた。」と曖昧に笑う。




