43. 入学式の話。
学園の講堂はこぢんまりとしつつも歴史を感じさせる重厚な造りをしていた。
兄様たちが通っていたがなぜか一度も来たことはない。
文化祭などあったのだが来てはダメ、と行かせてもらえなかった。
入口で出欠のため名前を聞かれ、入場する。
新入生は決まった席ではないので空いてる席に座るよう指示された。
入ると一部の在校生とすでに入場している新入生の一部から一瞬、視線を寄越されるがすぐに元に戻った。
「……一体なんなの…」
「もうだいぶはっきりとした噂が広まってますわね。」
「また噂ですか…」
「僕とシャロンの姿は国内外に知られているから一緒にいる"あれがマリア嬢か"って確認の視線だね。」
「……私は見世物じゃないわ。」
「まあ仕方がありませんわ。マリアは今この国で一番"注目の的"ですもの。」
「…面倒くさい。」「さっさと認めれば楽になりますわよ?」
ほほほ、とシャロンは笑っている。
「シャロンは敵なのか味方なのかどっちなの…」
あら、味方ででしかないですわと言いながら3席並んで空いている席に座る。なぜか私を真ん中にして。
「なんで私が真ん中なの?」
「…私が席を立つ予定だからですわ。」
「僕らはマリアさん守護隊だからね。」
もう頭にはハテナしか浮かばない。
そうしているうちに入学式が始まるようで先生がマイク型魔道具で話し始めた。
『あー、みな静かに。…ゴホン。 ではこれからギレスビア魔法学園の入学式を始めます。始めにシルビア学園長より挨拶をお願いします。』
壇上にいるシルビア学園長と呼ばれた女性が教壇の前で話し始める。
『皆さん、おはようございます。ただいまご紹介にあずかりました学園長のシルビアです。
まずは、新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。
これからあなた方は2年間、この学園で学ぶことになりますが机上の学問はもちろん、仲間たちとの経験も大切にしてください。
どうぞ、実りある学園生活になりますよう私たち教師も精一杯努めますので一緒に頑張りましょうね。』
…おお、学園長にしては話しが短い、と変な感動をしつつ拍手をする。
『ありがとうございました。…では在校生より祝辞です。在校生代表、エドガー・ギレスビア生徒会会長よりお願いします。』
エドガー殿下、生徒会長なのかと思っていると壇上に彼が現れた。
教壇へ向かうとキャー!っと黄色い声がわく。
ああ…ありがちね、と変な笑いが漏れそうになる。
『新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。
これから1年間という短い間ですが、僕たちは仲間となります。
上下関係を越え、一緒に頑張っていきましょう。
あと、生徒会は人員を募集しています。
自薦他薦問いません。勧誘もあります。
よかったら入ってね。』
とウインクをするエドガー。またしてもキャー!と声が上がる。
先生方はやれやれといった感じだ。
いるいるこういう男子生徒…と薄目になるのは仕方がないと思う。
『在校生代表エドガー・ギレスビア』と締め壇上から降りていった。
『ありがとうございました。では次に新入生より答辞です。新入生代表シャロン・サーザランさん、お願いします。』
え、と思ったら隣に座るシャロンが席を立ち壇上へ上がっていった。
"席を立つ"ってこういうことか、と納得した。
『本日私たちは、伝統あるギレスビア魔法学園の入学の日を迎えました。
今までに経験しえなかった事をたくさん経験し人間的にも大きく成長したいと思っております。
私たち新入生一同は、新たな仲間である同級生と共に学び・助け合い・学園生活を通して共に絆を深め、この学園で過ごす2年間を精一杯に悔いのないよう過ごすことをここに誓います。
本日は私たち新入生のために入学式を催して頂き本当にありがとうございました。
新入生代表シャロン・サーザラン』
うん、シャロンらしい答辞ね!とわーっと拍手をする。
席に戻った彼女に「シャロンお疲れ様!」とそっと告げると「商談より緊張しましたわ…」とほーっと息を吐いている。
『では入学式をこれで終了します。改めまして新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます!』
会場中から拍手が起こり閉会となった。
「在校生は教室へ!新入生は一旦待機!」と先生の声がする。
在校生がザワザワと退出していくのを見ているとお父様お母様が手を振っているのが見えたのでシャロンとトラビスと一緒にそちらへ向かった。
「あ、僕はあっちにいるみたい。ちょっと行ってくるね。」とトラビスは行ってしまった。行く先を見るとグランツィアの国王陛下と王妃が見える。…本当に王族なんだな、と今更思った。
「お父様!お母様!」
「マリアちゃん、お疲れ様。」
「おば様とおじ様もお久しぶりです。」とシャロンの両親にも挨拶をするがシェリルおば様はなぜか泣いている。
「シャロン…立派になって…!!」
…答辞をしたシャロンに感極まったらしい。おじ様が背中を擦っている。
シャロンは「もう、お母様ったら…たかが答辞でしょう?」とツンとしているが。
私のお父様とお母様はもう兄2人に私と3人目なので慣れたものだ。
その光景をほほえましく見ていたのだが
「あれ、兄貴何やってんだ?」
「あ、ちょ、馬鹿!黙れ!」
と後ろから先程聞いたエドガーと誰かの声が。
振り返ると何やらエドガーが口を塞がれている。
なんだろう?と見ているとエドガーが気付いて、口を塞いでいる人物にわかるように私を指差している。
そうして振り返った人物は──ヴィンセントだった。
…そうか、"兄貴"…ヴィンセントしか彼の兄はいない。
あちゃー、とバツの悪そうな顔のヴィンセント。
今日の彼はシンプルな格好をしている。白シャツにベスト、ズボン、目深に耳まで被ったハンチング帽…お忍びスタイル?
と思って見ていたらこちらに近付いてきた。
「……おはよう、マリア嬢」
「…おはようございます、ヴィンセント殿下」
「あー、えっと…にゅ、入学おめでとう。」
「…ありがとうございます。」とスカートの裾を少し摘み挨拶をする。
「なんだ、兄貴そんなに制服姿がッ」
ものすごい速さでエドガーの口を塞ぐヴィンセント。
彼はむこうを向いているから表情は見えないが憤怒の顔をしているのだろう、エドガーが両手をあげ真っ青な顔をしてぷるぷると震えている。
その2人の様子が可笑しくて「んふっ」と吹き出してしまった。
2人、驚いてこちらを見るが止められない。
「ふふふふふ…兄様たちみたい…」
「……すまない、変なところを見せてしまって…」
とヴィンセントがしょぼくれてしまったので
「いえ、こちらこそ笑ってしまいすいません。」
と軽く腰を折るがどうもにやけるのは消せなかった。
「ところで、マリア嬢。生徒会入らない?」
「は?」
「シャロン嬢も入って欲しいんだけどなぁ」
とエドガーは私の後ろに視線をやる。
「私は入りません。」「どうして?」
「…他にも適任者はおりますでしょう。」
「新入生代表のシャロン嬢以上の適任者はいないと思うけど?」
「……マリアが入るなら、考えてみてもいいですわ。」
え、私?とシャロンを振り返るが彼女はにこっとするだけだ。
「じゃあ……」
との私の言葉にエドガーがきらきらした目を向けてくるが
「入りません!」
それは見事にズコーっとなった。
「あはははは!マリア嬢、面白いな!」とエドガーは腹を抱えて笑い出した。
とここで「マリア、私たちはそろそろ帰るぞ。」とお父様お母様が手を振っている。
「あ。お父様お母様来てくださってありがとうございました!おじ様おば様もありがとうございました。」
とシャロンのご両親にも挨拶をする横でシャロンも挨拶をしている。
最後に親たちはヴィンセントとエドガーに挨拶し、帰っていった。
それと入れ替わるようにトラビスがやってきた。
「トラビス殿も生徒会入らないか?」
とエドガーが早速勧誘している。
「シャロンが入るなら。」とトラビスはにこにこしているが
「つまり…マリア嬢が入れば一気に3人入るんだな!」
とエドガーが言い出した。
「マリア嬢〜〜!」「入りません!というか2人は自分たちで決めてよ。」
「マリアがいなければ楽しくないですわ。」「僕はシャロンがいなければ楽しくないな。」
「ほらやっぱり、マリア嬢が入らないとだ。」とドヤ顔のエドガーだが「…その理屈はおかしい…」と私は眉をひそめる。
「エドガー!あとはお前だけだぞ!早くしろ!」
「うわ、やっべ」
先生が遠くからエドガーを呼びつけている。…確かに在校生は先に教室へ行っているはずだ。
エドガーは「じゃ、兄貴とみんな、またな!」と手を振りあっという間に行ってしまった。
「…まったく学園で"兄貴"は止めろって言ってんだろ。」とヴィンセントは独りごちている。
「……エドガー殿下ってああいう方なんですね。」
「あぁ…あっちが素だ。」とヴィンセントは苦笑している。
「ジョセ兄様みたい。」「あー…良くも悪くも、似てるな…先輩と。」
と2人、顔を見合わせて笑った。
「それ…着けてくれたんだな。…ありがとう。」
「あ…変じゃないですか?」
蝶のブローチを撫でる。
「よく、似合ってる。」と蕩けそうな笑顔をしながらヴィンセントもブローチを指で撫でた。
─その行為が、指先が、すごく魅惑的で…心臓がドキリと跳ねた。
入学式の挨拶、祝辞、答辞の流れが記憶になく適当です。
答辞だけネットから例文引っ張ってきました。
モウソンナムカシノコトオボエテナイヨ。




