42. 魔法学園の話。
今日はいよいよ魔法学園への入学式だ。
先日の立太子の儀のときのように、雲一つなく晴れている。
昨日はあのあと、特になにもなく1日が終わった。
家族からイヤーカフを何か言われるかと思ったがそれもなく…夢も見ることなくよく眠れて、今朝すっきりと起きれた。
顔を洗い、寝間着のまま朝食へと行ったらジョセフから「制服じゃないのかよ!」と突っ込まれた。…新しい制服を汚したくなかったのよ!
朝食を終え部屋に戻り歯磨きをして、制服に着替える。
…まさかもう1度、高校生やれるとは思わなかった。
軽くメイクをし、今日は自分で髪を結ぶ。
自分で結んでおいたら学園で乱れても直せるからだ。
化粧直し用のポーチをカバンに入れ、他に忘れ物がないかチェックをしていたら扉が叩かれ、返事をするとおはようございますとアシュクロフが入ってきた。
「あれ、ご自分で結んだんですか?」
「うん。学園で乱れても直せるように。」
「……あの、これ昨日渡せなくて…」
ちょっと後ろ向いてください、と向かされるとハーフアップに結んだ部分に何か挿された。
「?」
「見えます?」
と言われ、化粧台の前で手鏡と合わせて見てみると紺のリボンのヘアコームを着けてくれたようだった。
「昨日買ったの? ありがとう!」
「いえ、やっぱりよく似合います。」とアシュクロフは満足そうだ。
「なんだか貰ってばかりね。」と笑ったのだが
「俺があげたいってだけですから気にしないで下さい。」とふわりと笑顔を向けられた。
「ありがとう…」「あ、お嬢…」と何やら部屋の中を見回しベッドサイドから取ってきたものをするりと首に着けられた。
「あ。…ごめんなさい忘れてたわ。」と後ろの髪を持ちあげる。
「いえ…」「寝るときに、危ないから外したの」
言い訳にしか聞こえないのが心苦しい。
「…短いですから外さなくても大丈夫ですよ。あと─」
「─お嬢は寝相いいですから。」
…ただその一言がなぜだか、ひどく胸の奥をギュッと掴んだ。
鏡越しにぽけーっとアシュクロフの顔を見ていたら
「お嬢、時間ですよ!」
との声にハッと意識を戻し、時計を見るといい時間になっていた。
急いで玄関へと向かうと、ちょうど一緒に行く馬車が着いたところだった。
土地が狭いので馬車通学ならなるべく乗り合いでくるように、というのが学園からの通達なので私とシャロン、トラビスの3人で一緒に行こうと決めていたのだ。
馬車の扉が開けられ中からシャロンが「おはよう、マリア」と少し顔を出した。
アシュクロフの手を借りて私も乗り込む。
「いってらっしゃいませ。」と言う彼に「いってきます。」と手を振り、そうして馬車は出発した。
「おはようシャロン、トラビス君」
「おはようマリアさん」
「さっそくですけど、この休日で一体何がありましたの?」
「え。」「とぼけても無駄ですわよ。…独占欲にまみれてますわね。」
…独占欲?とぽかんとしていたら
「まずブローチは?」「え、あ。これはヴィンセント殿下から…」
「首飾り」「アシュから。」
「髪飾り」「これもアシュから。」
このあたりでトラビスが笑い出した。
「…なによ?」「いや、シャロンの言う通りだなって…くくく」
「最後に耳飾り」
「あ、これは違うわ」と緑色魔石のイヤーカフをカバンから取り出し片方をシャロンに渡す。
「…? なんです…もしかしてこの間、話していたのが完成しましたの?!」と前のめりになるシャロン。
「正解〜!」とドヤ顔をする私。
「…ということはそちらも?」と私の耳を指すので頷いた。
「だからアシュクロフさんにも着いてましたのね。」
「え、見えてたの?」
「ええ。しっかりと見ましたわ。」
とここでトラビスが「ねえ、仲間はずれにしないで!」と割り込んできたので詳細を説明する。
アシュクロフから約束させられたことも合わせて伝えると
「うん…それはアシュクロフさんが正解だね。」
「ですわね。」と2人からも約束させられた。
「ところで、僕とシャロンにはないの?」
「…ごめんなさい。もう露店にはなかったの。」
そう、もうひとつ作るつもりではあったのだ。
だがもう露店には品がなかった。同じ魔石でないと出来ないのでモノがなければ、作れない。
「また今度探しておくわ。」ごめんね、と再度謝る。
「ま、それならしょうがないか。あとで実験しよ?どこまで届くのかな!」とトラビスはわくわくしている。
そうして馬車が止まり、どうやらいよいよ学園に着いたようだ。
魔法学園─正式名称は『ギレスビア国立ギレスビア魔法学園』
16歳になる年から2年間、魔法を主軸とした学問を学ぶ場所。
基本的に貴族だろうと平民だろうと外国人だろうと入試さえ突破すれば誰でも入学できる。
ただし入学金がそれなりにかかるので平民だけ20歳になる年までの浪人が認められている。
教科としては、座学が国語・数学・社会・芸術・魔法、実技が剣術・魔法・剣術/魔法両方の3つから選択、あと体育がある。
魔法に関することの名声が高いため外国からわざわざ通ってくる人が結構多い。それでも元が小さな国なのでおおよそ1学年1クラスしかないが。
「とうとう来たわね…」
「マリア、それは戦場にきた人が言う台詞ですわ。」
「あはははは、マリアさんにとっては"戦場"なのかな?」
「とりあえず、そのまま入学式のようですわね。」
そうだね、と3人揃って、こちらですと書かれた案内看板を辿って講堂へと向かった。




