41. 魔法の話。
「あ!そうだ。」
アレ作ろう!と今日思いがけず露店で買えたイヤーカフを取り出す。
小さな魔石、だけどやっぱり…
「同じ魔石から出来てるわね。」
魔法のことを色々調べていたら魔石の波動のようなものを感じることが出来るのがわかった。
そして同じ魔石であれば砕かれていようが同じ波動を感じられるということも。
買ったイヤーカフに付いている魔石もそのようだ。
ならアレがたぶん作れる!
文机にまず、淡い緑色の魔石のイヤーカフを置く。
左右を少し離して置いて…次に『糸電話』を想像する。
糸電話の糸が左右それぞれを繋ぐイメージ…左右の間隔は無限大。
そうしてイヤーカフの魔石に魔力を込める。
これは以前なんとなく、通信器作れたらなあと考え手持ちのイヤリングでやってみようとしたのだけど、それは普通の宝石だったので失敗した。だけど魔法を否定はされなかったので魔石ならいけるのでは?と考えていたのだ。
しかし同じ魔石から出来た耳飾りというのは、なかなかない。
魔石の波動を感じることが出来る人も今のところ私以外知らないので入手を頼むことも出来なかった。それに魔石を普通にアクセサリーに加工しようとしたらすごく高価。(我が国の魔石は質が良くて主に輸出用だから国内であっても高価なのだ)
だから今日の出逢いは入学前でとても幸運だったと言える。
なぜなら作った通信器は初めシャロンに渡そうと思っているからだ。
「………ん、よし。 …どうかな…?」少し疲れた…
「お嬢ッ」
「んにゃあぁぁびっくりしたあ!!」
かなり集中していたので扉が突然大きな音をたてて開かれ、淑女らしからぬ叫び声をあげてしまった。
入ってきたのはアシュクロフ。かなり焦っているようだが…?
「え、─」なに?と言いたかったのだが言えなかった。
アシュクロフが駆け寄ってきて「…良かった……」と抱きしめてきたから。
えーと、一体何が起きた?
ぎゅうぎゅうとアシュクロフから抱きしめられる。く、苦しい…
「ア、アシュ…… 苦しい……」
となんとか声を発するとようやく腕の力が緩む。
「はあ…びっくりした」と息を整える。
「アシュ「驚いたのはこっちだ!」
……へ?
「急に、マリアの部屋から濃い魔力を感じたから何が起こったのかと…本当に心臓が止まるかと思った……」
顔を見上げるとすごく辛そうなアシュクロフの顔が目に入る。
…あぁ…本当に心配してくれたのだな、というのが一目でわかる。
「えと…ごめん、なさい」
「…許しません。」「え。どう…」
ぎゅう、とまた抱きしめられてしまった。
そしてそのままの格好で
「……それで、一体何をしていたのです?」
「え、と……その机の…」「…今日買った耳飾り?」
「そう。それに魔法をかけていたの。」
「は?」
とようやくアシュクロフの腕の中から開放された。
驚きで吹き飛んでいたが、"抱きしめられている"という事実がじわじわと頭の中に広がりつつあったので振り払うように説明を続ける。
「同じ魔石から出来ている耳飾りだったから前から考えていたことを試したの。」
アシュクロフはイヤーカフを手に取りまじまじと見つめ、左右を近付けたり離したりしている。…もしかして、見えている?
「アシュ…?」「これは何なんです?」
「その、通信…えーっと、『声を直接届ける』ものよ!」
「……は?」いやー…視線が怖い。刺さるぅ。
「…物は試し!片方持ってそっち行ってくれる?」と部屋の端を指差す。私はもう片方を持ち反対の端へ行く。
そうしてそのまま小声で「アシュ、聞こえる?」と話しかけるもやはり反応はないので、今度はイヤーカフに少し魔力を込めながら「アシュ、聞こえる?」と話しかけると彼は驚いてきょろきょろしている。
「少し魔力を込めながらしゃべってみて?」と話しかけるとおずおずと『…お嬢?』とイヤーカフから聞こえてきた。んふふ、成功のようだ。
机に戻り「やったー成功した!」と喜ぶ私と不思議そうなアシュクロフ。
「前から考えていたのだけど、なかなか同じ魔石で出来た耳飾りがなく」「これは誰に渡すのですか?シャロン様?」
と問われたので首肯した。
「それならまあ、いいか……もうひとつはどうするのです?」「これから魔法をかけようかと」
「…なぜ?」─それは
「それは、貴方に渡そうかと。」
目を見開くアシュクロフ。
「アシュに渡しておいたほうが色々便利でしょ?」
だが彼は考え込んでしまった。
「…魔法は、今から俺の目の前でできますか?」
「出来るわ。集中がいるから後ろにいてくれる?」
最初は後ろが気になったが成功したイヤーカフを眺めもう1回ね、と気持ちを切り替える。
そうして先程と同じ事を、今度は濃い赤色の魔石に施す。
「………ふぅ…どうかな〜…?」
成功した、感じはするけど……
後ろを振り返るとアシュクロフが眉をひそめていた。
「…アシュ?どうしたの…?」
「……マリア、この魔力を俺以外に見せたことあるか?」
「…ないわ。」
─完全回復のことは伏せた。彼がこう聞いてきたってことは知られていないということだからわざわざ明かさなくてもいいだろうと判断した。
「そうか……その力、他の人には絶対見せるな。約束してくれ。いいな?」
と強めに言われたので頷く以外なかった。
「あ、でも学園に入学したら…」魔法の実習がある。
「……そうか…」
困ったな…やらないわけにはいかないだろうし…どうする?…
とぶつぶつと何やら呟いている。
「……アシュクロフさん…?」
「えっ、あ…あぁ……あの、とにかく約束してくださいね。」
「わ、わかったわ…じゃあ、はいこれ。渡しておくね。」
と出来たばかりの赤色魔石のイヤーカフの片方を渡すと
「ちゃんと、着けといて下さいね?」
となぜかアシュクロフから言われる。
「それはこちらの台詞じゃ」「いいですね?」「…ハイ。」
しなかったら怒られそうだったのでその場で右耳の上の方にイヤーカフを着ける。
「これでいい?」と聞くと満足そうに頷かれた。
「案外似合いますね。」「アシュもよ」「はい?」
一対のイヤーカフなのに私だけという道理はない。…ということにする。
「アシュも着けるの!着けてあげるわ」
と持っているのを取ろうとしたのだが
「はっ、いやダメです自分でやりますから!」とあっという間に着けてしまった。
左右を言おうとしたのだが知ってか知らずか、言おうとした左耳の上の方に着けている。
「…知ってたの?左耳に、って」
「? いえ?お嬢が右耳に着けたから左耳にしただけですが?」
…そうか…そういう……こちらにはあの理由はないのかな?
「左耳がいい理由でもあったんですか?」
「………内緒」
不思議そうにするアシュクロフの顔を見ることが出来なかった。
──『右耳は"守られる人"、左耳は"守る人"』
…まあ、前世での話だものね。




