38. デートの話。 その②
店を出てしばらくしてから今度はこちらから腕を差し出す。
「……いいの?」と困惑顔のマリアに首肯する。
「だいぶ人も増えてきたし迷子にならないように。」
「…そんなに子供じゃないわ」と拗ねながらも手を絡ませてくれる。
「これからどうする?」
「贈り物があっさり見つかってしまったものね…」
「そうだな…喫茶店行くのもいいが、少しぶらつくか。」
「賛成!私、喫茶店苦手だからそっちのほうがいいわ。」
「え?苦手?でもシャロン様とは…」「シャロンは別…だけど本当は苦手なの。」
…それは、知らなかった。マリアの新たな一面が知れて嬉しい。
「あ、可愛い雑貨屋さんある!」
寄ってもいい?と聞いてくるので頷いた。
「新しく出来たのかな…知らないわここ。」
「確かに…俺も知らないな…」
店先の看板にはつい先日開店したらしいことが書いてある。
「この間ね、開店したの。じゃあ知らないわけだわ。」
店に入ると数人の女性客とカップルが1組。
品は女性向けのものが主で男性向けも少しあるようだ。
可愛い!とマリアにぐいぐいと腕を引っ張られ店の奥へ。
ここは彼女の好みの品が多いようであちこち目移りしている。
色々見ていたのだが突然、
「そうだ。私からアシュになにか贈るわ。これ、貰ったし。」と首飾りを撫でている。
「お返しとか欲しくて贈ったわけじゃ…」「私があげたいからいいの!」
ちょっと見てくるから待ってて、と押し切られてしまった。
まあ、いいか…と思い直し自分でも店を見て回ることにした。
見ながらあれはマリアに似合いそうだな、こっちのも可愛いな、と彼女の事ばかり考えている自分に気付き少し気恥ずかしくなったがふと紺の別珍で出来たリボン状の髪飾りが目に止まった。
よく似合いそうだな、と思いそのままそれを買った。
マリアはまだ探しているみたいで店内をうろうろしていたので店を出て待つ。
…ちょっと失敗したと思った。
待っている間、道行く女性たちからかなり視線を送られるのだ。
中には声をかけてきた人もいた。連れがいると断ったが…
「お茶1杯だけでもいいので…」
「すみません。人を待っているんです。」
この人は先程から熱心に誘ってきている。困った…
「─お待たせ!」
どうしようかと思っていたらようやく買い物が終わったのかマリアが横から抱き着いてきた。
「あぁ…遅い。」思わず彼女の頭を撫でてしまったが、
「ごめんなさい。なかなか決まらなくて…そちらの方は?」
とマリアから睨まれて件の女性はそそくさと離れていった。
「…女の人でもナンパとかするのね。」
「俺も少し驚いた…」
「あ……そう、これ…これにしたの。」と小さな紙袋を渡される。
見ても?と聞いたが屋敷に戻ってから!と言われてしまったのでしぶしぶズボンのポケットにしまった。
そうしてもう慣れた手つきで俺の腕に絡んでくるマリア。
お昼までまだ少し時間があるのでまたぶらつくことに。
─このあたりは露店が並んでいるようだ。
マリアとあれは何だろう?とか変な置物がある面白い、とか露店の商品を眺めながら歩いていく。
するとマリアがある露店の前で足を止めた。
「何かあったか?」
「ん…これ、魔石?」
と言うので横から覗くと、確かにそこには魔石が並んでいた。
磨かれた魔石を装身具にして売っている露店のようだ。
「あれ、お姉さんこの大きさなのに魔石だとわかるの?」
店主というより店番は、マリアより少し幼い少年のようだ。
「ええと…これらは貴方、が?」
「俺の父さん、採掘師なんだ。『魔石』としては売れない大きさのやつとかを母さんが加工してこうやって売ってんの。」
「なるほど…」
並んでいる装身具は子供のお小遣いでも買えるような値段で気付かない人は気付かないくらいの大きさの魔石が付いている。
「これと、これ。くださる?」
え?と思ったらマリアが耳飾りを2組買っている。
ありがとうございました〜また寄ってね!と手を振る店番の少年に手を振り返しながらその場を後にする。
「お嬢、なぜそれを?」
「……これ、それぞれ同じ魔石で出来てるの。」
淡い緑の魔石と濃い赤の魔石…俺がマリアにあげた首飾りに付いているものより小さいそれら。
「ちょっとね、ある物を作りたいから。」
「それは…」「出来上がってからの、お楽しみ。」
しーっと子供が内緒話をするときのように人差し指を唇に当てるマリアの、その仕草に胸がギュッとなる。
「あの露店、いつ出てるのかしら。聞けばよかったわ。」
「……調べればすぐわかると思うぞ。」
そう?と不思議そうな彼女。あとで調べといてやろう。
それから昼食を予定している店へと向かった。
昼食はいらないと断ったはいいがどうしよう、と言うマリアに俺の行きつけの定食屋を提案したら賛成!とのことで。
お嬢様に定食屋はどうかとも思ったのだがとても美味しい定食屋なので是非マリアに食べてもらいたかったのだ。
店は少し大通りから入ったところにある。
ここだ…と脇道に入ろうとしたら一瞬、マリアが足を止めた。
「…? どうした?」
「だい、じょうぶ……うん、大丈夫よ。アシュがいるもの……」
と呟き、ぎゅっと俺の腕にしがみついてきた。
腕に当たる感触に気を取られそうになったがハッとある事に気付いた。
─そうだ、小さい頃暴漢に襲われたのはこういう脇道に入った時だ…!
しまった、と思いすぐ「予定していた店は止めよう。」と言ったのだがマリアは「アシュがいるから大丈夫」とぎこちない笑顔を見せる。
「でも…悪い、全然気付かなくて……」
「いいの。気にしないで?……もうあんな小さな子供じゃないの。だから、大丈夫。行きましょう?」
しばらく逡巡していたのだが
「…アシュが"美味しい"って思うもの、私も食べてみたい。」
と破顔するマリアには逆らえなかった。
「わかった。…すぐ、そこだから。」と店を指さし笑顔を見せると、少し安心したようだった。




