35.
─あれ?お父さん、お母さん?
─お兄ちゃんに義姉ちゃん…みんなどうしたの?
─え?後ろ?……あれ、なんで…貴方が
─うわ、もー。子供じゃないんだから…でも貴方、私を撫でるの好きよね。私も貴方から撫でられるの、好き!
─え、行っちゃうの?…みんなも?
わかってる。もう、みんなに会えないって。
でも、ありがとう。
私そっちで幸せだったんだよ──。
「う、うぅん………」
朝日が眩しくてゆっくりと目を開けると見慣れた天蓋が目に入る。
…あれ?私、確か昨晩……夜空見ながら歌っていた気がするんだけど…?
それにしても、あっちの夢を見るとかいつぶりだろう。
(みんな、元気かな……最期、会いたかったなー…)
でも、嫌な夢じゃなかった。心がほんわかしている。…今日は良いことがありそう、とごろりと横を向いたら心臓が止まるかと思った。
私の横にはアシュクロフが寝ていたから。
叫び声を上げなかった私偉い、と逆に冷静になる。
(ということは昨晩、窓で寝落ちしたんだなー…)
(アシュクロフはいつ戻ったんだろう?きっと悪夢とか見てないか心配して部屋を覗いてくれたのね。まあ寝落ちしててそれはそれで心配かけただろうな。)
そこで私は無意識に彼の頭を撫でていた。
昔は強請って撫でさせて貰ってたけど最近はまったくそんなことがない。いつの間にかやらなくなった。
睫毛長いなぁとか眺めていたのだがふと時計を見るとそろそろティアナが起こしにきてもおかしくない時間だったので見つかるとマズイな、と思い部屋を出ることにした。
なんとなく、今だ眠るアシュクロフの額にキスをして起こさないようにそっと静かにベッドから降りる。
洗面台で顔を洗い、上着を羽織って部屋を後にした。
私、動かされても起きなかったくらい熟睡してたのだななんて思いながら廊下を歩いていると向こうからティアナが歩いてきた。
彼女も私に気付き「おはようございます、マリアお嬢様。お早いですね?」と少し驚いている。
「おはよう、ティア。昨日早く寝てしまったから早く目が覚めたの。」
「左様でございますか。」
「あ、今日は部屋片付けなくていいわ。そんなに汚してないし…」
怪訝そうにされるがかしこまりました、と了承してくれた。
そのまま一緒に食堂へ向かう。
「ジョセフ様以外お揃いです。」
「ジョセ兄様…」「昨晩はだいぶ、飲まれてのご帰宅のようでしたから。」とくすくす笑っている。
「ま、兄様らしいわね。」と私も一緒になって笑う。
今、我が家で一番お酒を飲めるのはジョセフだ。ザルの彼が起きてこないとか昨晩は相当ね…
食堂に着くとお父様お母様、ウィルフレッドが仕事へ出るところだった。
「おはようございます。」
「おはよう。」「おはよう、マリアちゃん。」「おはようマリア。」
とすれ違いざま、口々に挨拶される。
「もう出るの?いってらっしゃい気を付けて!」
「ああ、いってくる。」「いってくるわね。」と3人から手を振られるので振り返した。
見送ったあと食堂の中を覗くとサラがまだ残っていた。
「おはようございます義姉様!」「おはよう。マリアちゃん」とにこにこしている。
席につくタイミングで朝食が運ばれてくるのでいただきます、と食べ始めた。
「義姉様、体調はどう?」
「えぇ、すこぶる良好だし順調よ。」
「良かった!準備は進んでる?」
こくりと頷くサラ。
「こう、段々と実感が湧いてきたわ。…なんだかね、まだ信じられない気持ちだったのよ。」
まあ、自分の体内に別の生命があるというのはなかなか理解し難いことだろうなとは思う。
「それがお腹も大きくなり始めて、迎える準備を始めたら…これが"母になる"ってことなのかしらね?」と首を傾げている。
「そうね。義姉様はいいお母様になるわきっと!」
「ふふっ…ありがとう。マリアちゃんこそ明日からの準備はどう?」
明日はいよいよ魔法学園への入学式だ。
「大丈夫!不安もあるけど、楽しみでもあるの。」
「そう。…まだいらっしゃるとは思うんだけどね──」とサラはあの教科の誰先生がどうのこうの、魔法学の先生はとてもすごいの、と教師の話から始まり学園には恋愛成就の樹があるの、やらよくある怖い話までたくさん話をしてくれた。
「あはははは。ますます楽しみになってきた!ありがとう義姉様」
「うふふ。そう言ってもらえて嬉しいわ。」
そこでふと時計を見るとかなり時間が経っていることに気付いた。
「わ、だいぶ話し込んじゃったね。」「あらあら本当。」……
ご馳走様でした、と食器を片付け部屋に戻ることにした。
アシュクロフはまだ寝てるだろうか…?
だが部屋に行くともうすでに彼の姿は無かった。
ベッドはそのままのようだったからあとでティアナに頼んでおこう。
まだ寝間着なので歯磨きをしながらクローゼットを眺める。
今日は…白のブラウスにレモンイエローのスカートにしよう。
メイクは……と考えていたら扉がノックされたので返事をする。
「─俺です。」とアシュクロフの声がしたのでどうぞ、と促した。




