34.
「う、わぁ……!すっごい、綺麗……」
今日はよく晴れた1日だったから開けた窓から夜空に瞬く星がよく見えた。
春になってきたとは言え、まだ夜は冬の空気が残っているのか澄んでいて空が綺麗だ。
はしたないけど誰もいないので椅子の上にあぐらをかき、窓枠に頬杖をついて空を眺める。
星座とかはまったくわからないが天の河のような星の川や何かの形に見えなくもない星々の並び…それらが競うように輝いている。
私は自然と歌を口ずさんでいた。
それも日本語で前世で好きだったJポップを。
…出てくるのが"恋の歌"ばかりなのはまあ、誰もいないからいいよねと自分に言い訳をする。
「〜〜♪ 〜♪〜〜〜♪……」
そうやって歌っていたのだが、歌っていたはずなのだが………
──何故か次の朝、ベッドで目が覚めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
明日にならないと屋敷に戻れないかと思っていたが日付が変わりそうな時間になんとか戻ることが出来た。
今日は立太子の儀式の日で、いろいろあったようだからもうさすがに寝ているだろうと一応確認でマリアの部屋をそっと訪れた。
「……?」
何か、様子がおかしい。
部屋の中が寒い…見回すと窓が開いていることに気付く。
とその瞬間『まさか!』と急いでその開いている窓に近付くと─
窓枠に突っ伏した状態でマリアが寝ていた。
『まさか』がなくてよかったとその場に崩れそうになるのをなんとか踏みとどまり、彼女を揺すりそっと声をかけるも全く起きる気配がない。
しかしこのままにはしておけないので窓枠から離し、窓をそっと閉め窓掛けを引き、そうしてマリアを横向きに抱えあげる。…ここまでしても起きないのだから珍しく相当深く眠っているようだ。
寝台へと移動するときにふわりとマリアのいい匂いがし、いらぬ思いが頭をもたげたがそれをぎちぎちに押し込め彼女を布団に横たえ離れ──
ようとしたのだが……マリアがしっかりと俺の服を掴んでいて離して貰えそうにない。
「……参ったな。お嬢ー?お嬢…?」と揺するもまったく反応がない。
普段もあまりよく眠れない人だからここまでぐっすりなのを起こすのがとても忍びなくて強く声かけ出来ないのもあるだろう。
「はあ…仕方がないか……」もう屋敷中寝静まっているので朝、ティアナさんが来る前に出れば…と考えを巡らせ俺も靴を抜ぎ寝台へと一緒にあがり、マリアにだけ掛け布団をかけてやり自分もその横に寝転がる。
すやすやと目覚める気配もなく眠るマリア。
ただひたすら"愛おしい"という気持ちが支配し、不思議と下心はわかなかった。
旦那様譲りの茶色い髪を撫でてやれば僅かに顔がふにゃりとなる。
「可愛い顔して寝やがって…」とくすりと笑ってしまった。
そうしているうちに俺も眠くなったのでマリアの頭を撫でながら夢の世界へと旅立った。
次の朝、マリアが起きる気配で俺も目が覚めたがどうやら彼女がまじまじと顔を見つめてきていることに気付き寝たフリをすることにした。
そうしたら突然、俺の頭をマリアが撫でてきた。
…昔、仕え始めて1年ほど経った頃突然『頭を撫でさせて欲しい。』と強請ってきたのには驚いた。猫みたいだから、との理由で。
断る道理もなかったし撫でさせたがしばしばそれを強請ってくるようになったのを思い出した。…最近はまったく触れてすらいなかったが。
撫でられているのが存外気持ちよくてそのまま寝てしまいそうだったがマリアの手が止まり、額になにか柔らかいものが触れたあとそっと寝台を降りていってしまった。
──今、のは…?
扉が閉まる音を確認しゆっくりと起き上がる。
自分の額にそっと触れ、"口付けをされた"のだと理解したその瞬間、身体がカッと熱くなるのを感じる。
マリアはまだあどけない15歳の少女だがたまにこういった"大人の色香"を感じさせることがある。それは表情であったり仕草であったりだが。
心臓がうるさいくらい早鐘を打っている。
俺は「………勘弁してくれ…」と布団に突っ伏した。
だが余韻に浸る余裕は、今はない。
マリアが出ていったということはティアナさんが寝台の片付けにくるかもしれないからだ。
なんとか急いで呼吸を整え、寝台近くにあるマリアの知らない隠し扉を開け隣の自室へと行った。
この隠し扉は何故か元々屋敷にあるらしい。
ご先祖様が遊びで作ったんじゃないかと旦那様は言っていた。
本来は使わない部屋だからとそのままにしていたらしいが何の因果かマリアがここを使うと言い出したのだそうだ。
扉のことを知っているのかと思ったがそうではなく、本当にたまたまここを選んだようで、その後俺が世話係りとなり諸々の事情があるからと彼女に内緒で教えてもらった。
お陰で悪夢で起きるマリアをずっと支えてこれたわけだが。
自室へと滑り込みまだ早鐘を打つ心臓を深呼吸し落ち着ける。
少し落ち着いたところで昨晩戻ってすぐマリアの部屋へ行ったので脱ぎっぱなしであった外套が目に入った。書類も文机に広げたままだ。
書類を引き出しにしまい、外套を手に取ったところで
「ああ……これ、今日渡さなくちゃ……」
ポケットから箱を取り出す。
─マリアへの入学祝いだ。
朝食のあと部屋に戻った時にでも行くか…
……喜んでもらえるだろうか…




